case1-5

 いきなりの展開に椿の頭は、追いつけなくなる。そんな動けない椿を引っ張って、連れていってくれたのが、『禍辻煌也まがつじこうや』である。彼に引っ張られて、地下倉庫に行くと爆弾が爆発しても壊れなさそうな装甲車が用意されていた。椿達が向かうと、整備員の1人が近づいてくる。


「煌也さん!整備はバッチリです!それで、そちらは?」


「後で、紹介する。とにかく乗れ、班長!」


 椿は、彼に言われた通り行動し、車に乗ることしかできなかった。

 車の中で、椿は運転している禍辻に気になっていたことを聞いた。


「禍辻さん……その左手の黒い腕輪って何ですか?さっきも女の子が腕輪を気にしていましたけど」


 禍辻は、運転しながら椿の質問に答える。


「ああ、これか。これは、異世界帰還者がこっちで一般人として暮らすための封印装置だ。特務課の技術班特製のな。これを付けている間は、一切能力が使えない。ちょっと戦闘経験のある一般人の出来上がりだ。この仕事は、そういう奴らから希望者がやっているんだ」


「じゃあ、あの二人もですか?」


 椿は、先程部屋にいた大学生ぐらいの二人を思い出す。


「あの二人は、去年ウチの係に来たんだ。当時、恋条が指揮を取って保護したんだ」


「へぇ‥どんな感じだったんですか?」


 途端に禍辻は難しい顔になる。


「俺の口からは、言いにくい事だ。今度本人達から聞いてくれ」


 その後は、適当に世間話をしながら進み、無事富士山の麓に辿り着くと、予め用意されていた防弾ベストのような服を着て、車の中から人数分用意されている拳銃を腰に装備する。


「こちらの銃弾は公には存在しない『全身麻痺弾』です。当たれば魔力、スキルといった特典を全て一定時間無効に出来ます」


「ついでに、筋肉まで麻痺させるから意識を保たせたまま捕獲できる。恋条、俺はいつもの方にしておくか?」


「えぇ、禍辻さんはB弾使用で」


 椿は禍辻の使う方の弾丸がやけにカラフルな見た目をしていることが気になった。


「B弾?それって‥」


「まぁ‥保険の弾丸だ‥」


 恋条と禍辻の説明を受け終えた椿は、彼らについていき、そのまま樹海の中に入る。

 15分程歩くと、突然恋条が左手を横に出した。それを見た彼らは、足を止め恋条の前に整列する。


「では、皆さん。この先でゲートが開くと予想されます。まずは、私が交渉に入るので、皆さんは周りで待機していて下さい。禍辻さんには、先に能力使用許可を出します」


「了解だ」


「では。枝垂さんは、私と一緒に来て下さい」


 椿は、彼についていき、樹海のとある場所で数分待つ。すると、目の前に謎の青色の空間が出現し、そこから中学生位の少年が現れる。彼は、目の前に私達がいたことに驚き、尻餅を着く。


「なんだ、あんた達!?どうして、俺がここに来ることがわかったんだよ」


「初めまして、吉田悠斗君。私達は異世界帰還者入界管理局の者です。現在、貴方は戸籍消滅及び異世界帰還により、こちらでの法が適用できません。よって、2つの選択肢があります」


 恋条は右手を前に出し指を立てる。


「1つは、今すぐ後ろのゲートから元の異世界に帰還し、二度と地球に来ない事。家族などに伝えたい事があるなら手紙等の連絡物を置いていく事は許可します」


 立て続けに説明された彼の頭はパンクしているように見えた。


「では。もう1つは、私達日本政府の監視下に置かれる事で、転移先で得た能力を全て封印し、静かに暮らす事。この場合は、条件付きで、家族等に会う事も許可出来ます」


 恋条の説明がある程度進んでいる間も吉田悠斗の表情は喜ばしいものではない。


「選びなさい。貴方の生き方を」


 いきなりの提案を押し付けられた彼は、驚いていた様だった。しかし、直ぐに返答する。


「ふん、なんで俺がお前達の言いなりにならなきゃならないんだ。つい一週間前に魔王を倒したばかりなんだぞ!やっと力を手に入れたのに、どうしてそんな条件を飲み込まなきゃならない」


 明らかな歳下にタメ口をきかれても恋条は笑って返す。


「そうでしょうとも。しかし、国民は貴方の力に恐怖を抱く可能性が高いです。どうか、穏便に話を解決する事はできませんかね?」


 吉田は、少し考えた後、ひとつため息を吐く。


「はあ、わかった。元の世界へ帰るよ。今からこのゲートをくぐればいいんだろ?」


「ええ、それでお願いします。すみませんね、お手数お掛けして」


 吉田は後ろを向き青いゲートに向かって、歩き始める。


(意外と平和解決で終わるんだな)


 しかし、ゲートの前に立った瞬間、急に振り返り恋条に何か魔法のようなもの発射する。恋条は、避けることが出来ず直撃してしまう。


「恋条さん!!」


 呼びかけるが、返答はない。もしかしたら死んでしまったかもしれない。


「なんで!?貴方異世界に帰るって言ったじゃない!」


「お姉さん、自分の立場分かってないの?ここは、地球で、俺は、異世界で勇者やってたんだよ?ここより強いやつだらけの世界を救ったんだ。なのに、地球ではそこで得た力を使っちゃいけないなんておかしくない?平凡な生活に逆戻りしろっての?」


「なら異世界に帰ればいいじゃない!そこを通れば帰れるんでしょ!?」


「だからさあ。なんで、俺が自分より弱いやつの言う事に従わなきゃならないんだよ。俺に勝ってから言えよ」


(不味い、今拳銃を持っているが、そんなのさっきの魔法を使われたら一発で殺される。怖い、誰か‥)


 勇者吉田悠斗が、椿を攻撃しようとした時、後ろから声が聞こえた。


「全く、この特製ジャケットは、痛みは無効に出来ないんですよね。まあ、完全無効のスペックにするなって言ったのは、私ですが」


「恋条さん‥?」


 そこには、先程攻撃されて、倒れていた恋条が余裕の表情で、立っていた。


「まあ、中学生の個人転移者の時点でこうなるとは、思いましたよ。どうにもあなた達みたいな個人転移者は、自分だけが特別と勘違いする傾向が強く現れる。もっと小説みたいに善良でいてくれませんか?」


「なんで……生きてんだよ。オッサン……」


「貴方だけが特別だと思わないで下さい。ここに私達がいるのが本気で意味わかってないんですか?」


 勇者吉田悠斗は、答えない。恋条は、今までと違うドスのきいた低い声で、指示を出す。


「はあ、呆れました。ブラック1禍辻、対象をしろ」


 その合図と共に、吉田の身体に何発もの銃弾が命中する。


「ガッッ!!ぐふッ!」


 吉田が地面に倒れるとその後ろの景色が滲み出し、そこに禍辻が現れる。彼は、吉田に歩み寄る。


「痛いか、後輩?その弾丸は、そこらの異世界産の治癒魔法じゃ治らない。そのままだと、もうすぐお前は死ぬ。最後に、言い残す事はあるか?」


 吉田は、痛みに耐えながら答える。


「た…すけ…て」


「恋条さん!早く助けないと、死んじゃいますよ!」


 しかし、恋条は、聞く耳を持たない。


「ブラック1、命令です。止めをさしなさい」


 禍辻は、拳銃の引き金を引いた。

 異世界勇者、吉田悠斗は、この日富士の樹海で射殺された。


 部署に戻った後、椿はこの仕事の意義が分からなくなっていた。


(本当にあの少年を殺さなきゃならなかったの?この仕事は、私が求める国の為に働く仕事?……って何?)


 椿が自分のデスクで悩んでいると、禍辻がやって来た。


「あの光景を見て、ここまで真剣に悩めるお前は、人間だよ。でも、ではない。恋条は、外面のいいな人間だ。あいつが指揮をとって無力化で済んだ人間は、殆どいない。だが、国の為に自分の出来るを淡々とこなせる」


「私は……あの時どうすれば良かったんですか?恋条さんを止めることが出来なかった。ただ殺されるのを見ているだけだった」


「それでも、恋条があそこで許可を出さなければ、お前は死んでいたかもしれない。ここは、そういう部署だ。甘い考えで仲間は死ぬ。そういう意味で、恋条は仲間を優先するいい上司だ」


 そこに、恋条がやって来る。


「それでは、私は今回の件を上に報告してきます。枝垂さんは、お疲れでしょう。今日は、帰って構いませんよ」


 恋条は、それだけ言うと部屋から出ていく。椿は、初めての仕事と禍辻との会話で生まれた己との葛藤に悩まされていた。


「まあ、じっくり考えろ、班長。幸いな事に、5班は精鋭ぞろいだ、俺を含めてな。お前のやりたい事を試す機会は沢山ある。納得いくまで、彼らを救おうとしてみろ」


 そう言われた椿は、ちょっと心が軽くなっていた。


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