VS 北の魔神

 ビビって、俺は横っ飛びで回避する。


 ゴツイ大剣は、棚などを粉砕して床に切れ目を入れた。コイツを倒しても、また片づけに来ないとな。


「こんにゃろ!」


 槍に見立てたモップを突き出す。


 まるで稽古でもつけるかのように、北の魔神は左手に持った盾を突き出した。盾がモップの力を受け流す。続けざまに魔神は剣をスイング。殺意を満載した横切りが、俺の腹を狙う。


「なんのぉ!」


 脚を曲げて力を溜めて、思いっきり跳んだ。

 自分でも信じられない。高速で襲いかかる剣を、人間の俺が避けられた。どう考えても殺されてたのに。


「おい、パイロン、どうなってるんだ?」

「私の力を注いでるから、人以上に動けてるんだよ」

「なるほど、把握した」


 殺菌の具足に身を包んでいたら、どうにかなるんじゃないか。俺はそう思えるようになってきた。


 だが、俺が無駄な動きをすれば、パイロンの消耗も激しくなる。早く決着を付けないと。


 北の魔神が剣を肩より上に構えた。突きの体勢になって、俺に切っ先を向ける。


 腰を落として、回避に備える。あんなもの、生身だったらまともにやり合えるわけがない。

 しかし、俺にはパイロンの鎧がある。これで、どうに戦えるはずだ。


 矢を射るような速度で、北の魔神が突きを繰り出してきた。


 構えていたワイパーで地面を突き、棒高跳びの要領でジャンプした。回避には成功。問題はここからだ。宙に浮いたまま、思考を巡らせる。


「ヤツの動力源は、身体中に付着したホコリだ。それを落とせば」


 腰に引っかけていたストッキングハンガーを取り出す。


 追撃の突きが飛んできた。間近で見ると剣の面積が大きい。剣というより、ハンマーのようだ。


 キリモミのような捻りを加え、紙一重でかわす。


 攻撃直後で、敵の上腕が隙だらけになった。


 魔神の上腕、鎧の繋ぎ目部分に狙いを定める。


「食らえ!」


 鎧の繋ぎ目に、ハンガーを突き刺す。ハンガーを横へとスライドさせと、一気に汚れが取れた。ハンガーには、紫色をしたホコリがびっしりと付着している。


 この調子で、もっとホコリを落とす。


 かと思えば、一瞬の隙を突いて、ツヴァイハンダーが目の前に飛び込んでくる。


 上腕部を覆う鎧の隙間に、ハンガーを突き刺す。


 やはり、紫色の汚れがストッキングにこびりつく。


 パイロンの加護を受けた俺に怖い物はない。ハンガーのストッキングを交換し、俺は脚を踏み込んで、ストッキングハンガーを横に構えた。


 胴回りの汚れを狙う。俺は横薙ぎで、胴を払った。ハンガーで、どす黒い汚れを落とす。

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