チョコレート軍曹

 お次はキッチンだ。台所を使うには、あのお菓子共をやっつけないと。


「アラクネを助けないと」


「ああ。あいつにはやって欲しい事があるんだ」


「やって欲しい事って?」


 クビをかしげるパイロンに、これは耳打ちする。


「なるほどね。そうでなくとも早く助けようよ」


「そうだな。じゃあ、俺にありったけの魔力を送り込め。菓子の化け物共に、俺を魔王の子供と誤認識させる」

「そんな事できるの?」


 いいからやってくれと、パイロンに頼む。ダメで元々だ。


 仕方ないといった風に、パイロンが俺に自分の力を送り込む。


 膨大な魔力が、俺に注ぎ込まれているのが分かる。


「見れば分かる。着いたな」

 俺は、キッチンに辿り着く。


 相変わらず、ひどい汚れ様だ。チョコにまみれた厨房は、辺りに甘い香りを漂わせている。


「はいはい、ケンカするなー。整れーつ」

 フライパンをオタマでコンコンと叩き、戦を止めさせようとした。


 案の定、お菓子共は一向に戦争を止める気配がない。


 俺は、大きく息を吸い込んだ。


「並べって言ってるだろ、このチ○カス野郎共!」


 極力下品な言葉を使って、俺は怒鳴り散らす。


 俺の気配に身の危険を感じ取ったのか、キノコとタケノコがテーブルに整列した。


「どういう事だ? お前の命令も聞かなかったのに」


「相手にちょっとした恐怖感を植え付けられるように改良したから」


 俺は、魔王の威厳さえあればいいと思っていたのだが、その手もあったか。


 これはいい。活用させてもらう。


「虫けら共、口からチョコを垂れ流す前と後ろにサーを付けろ!」


 俺は威厳を放つように、お菓子の兵隊共を罵る。


「サー、イエッッサーッ!」


「チョコの風上にも置けないヤツだな! 消化されずにクソになってケツから出てきたのか?」


「サー、ノー、サーッ!」


「だったら、何遊んでやがるんだウジ虫野郎!」


 壁に拳を叩き付ける。


 ビクッとして、菓子共がすくみ上がった。


「坊ちゃん、お嬢ちゃん共に噛み砕かれるために生まれたのがお前達だ。誰がマスゲームで遊んで良いと言った?」


 菓子共の権利など無視して、怒鳴り散らした。


「今の貴様らは口に入れるのも躊躇われるゴミだ! お子様方の口に入らせてもらう事も、有閑マダム様方の尻から出ることさえも許されない!」


 キノコ、タケノコ共は黙って聞いている。


「菓子の神様に謝れ! そしておとなしく出て行け! 戦争ならヨソでやれ化け物共!」


 俺が檄を飛ばすと、菓子共はビシッと姿勢を正す。


「だが、俺も鬼ではない。お前達に最高の戦場を用意してやろう」


「イエッサーッ!」

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