敵襲!?

 真琴の言葉を聞き、パイロンの顔が引き締まる。


「おい、何を改まってるんだ。ただの客だろ?」


「我々がお客様と呼ぶときは、敵が来たときです」


 敵だって? 


 今の魔界は至って平和そのものだぞ。


 そんな物騒なヤツがいるのか?


「ここを襲撃しに来たのか? やばいじゃないか!」


「魔界は現在、そんな物騒な時代ではありません。アニメやゲームの見過ぎです」


 安心してもいいのか?


「道場破り、と言えば、ご理解いただけるかと」


 魔王城攻め、つまり道場破りをする場合は、まず各地にいる四天王を敗走させ、割り符を手に入れる。四つ全てを手にしてやっと、魔王と戦う権利を獲得できるそうだ。


 冒険者が魔王城に攻め込む理由は、世界平和のためではない。既に平和な世界になっているため、その必要がないのだ。


 腕試し。


 それだけの理由で、冒険者は魔王の城を目指す。


 自身の武勇伝とする者。

 最強をただ目指す者。

 自分の道場を立てるために箔を付けようとする者など、腕試しに来る理由は様々だ。


「勝てば一生遊んで暮らせるほどの大金をもらえる」という特典もある。


「状況は?」

「各ダンジョンを守護していた四天王は、すべて倒されました。まっすぐこちらに向かっております」


 四天王なんていたのか。魔界っぽいな。


「お召し物を」

「わかったよ」


 ジャージが、一瞬で粒子と化す。パイロンが全裸のシルエットへ。


 俺は思わず顔を背けた。


「いいよ。見てくれても」

「アホか隠せ!」

「いや、もう終わったし」


 半信半疑で、俺は顔をパイロンの方へ向ける。


 漆黒の魔王が、そこにいた。


 ダラッとしたいつもの気配は、すっかり消え失せている。


 動きの邪魔にならない必要最低限の装飾が施された、黒い細身のアーマーを全身に纏う。

 大胆に胸が露出し、鼠蹊部がほぼ丸見えで、ショーツの食い込みも深い。


 おまけに、顔には化粧まで施してある。


 いかにも、魔王が現れたという威厳を感じられた。

 顔がパイロンでなければ、圧倒されて失神していただろう。


「ビキニアーマーなんて、生で初めて見たぞ」

 パイロンが着ているのは、いわゆるビキニアーマと呼ばれている代物だ。


 創作ファンタジー世界では、絶滅したかに思われた骨董品である。


「実は、わたしも初めて着るんだよね」


 しきりに足下や胸元を気にしていた。着ている本人が恥ずかしがっていては世話がない。


「本当にそんな装備で、相手の攻撃を防御できるのか?」


「ある程度は。どっちかというと機動力重視かな?」


 魔界の姫が言うなら問題ないんだろうが。

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