難敵、衣装部屋へ

 場所を移し、衣装部屋へと足を運んだ。


 どうせ散らかっているのだろうと油断していた。


 服が光を放っている。


 そう言っても過言ではないほど、衣装部屋は服そのものによって煌めいていた。


 この豪華さを表現できるほど、俺は語彙を持ち合わせていない。

 雑然としているのに、その光景すら洞窟奥地にある財宝の山を連想させた。


「これ、全部パイロンの私物か?」

「そうでございます」


 当たり前だ、とでもいうような返答が帰ってきた。腐っても魔王の娘と言うべきか。


 パイロンに用意されている衣装は、一〇〇や二〇〇どころではない。千くらいはあるのではなからろうか。

 壮大な景色に圧倒されてしまう。どこの仮面舞踏会だよ。


 圧巻だったのは、どの衣装もパイロンの為に誂えたのかと思えるほど似合っている。


 散らかってさえいなければだが。


「これ、全部着るのか?」

「一度袖を通しただけの服が大半ですね。頂き物な上に、お嬢様のセンスに合わない物ばかりで」


 なんと贅沢な。


「センスのいい物も数点あるな」

「ご自身で買われた物は」


 目が肥えてるから着ようとは思わないのに、もらい物だから捨てられないと。そういうヤツは物を捨てられないから面倒だ。


 ここは骨が折れるぞ。


 パイロン任せだから余計そう思う。

 衣装関係は全てパイロン自身にやってもらわないといけない。


「えげつないな」

「そうですね。私が手伝うわけには?」

「そう言われてもな。こういうのは身体で覚えないといかんからな」


 とにかく、当面はもらい物と自分で買ったのを分ける作業にかかってもらおう。真琴には分別リストを作ってもらうとするか。


 頭を掻きながら、難敵のいる部屋を後にする。


 浴室、各部屋など、色々回らせてもらったが、この城が想像を超えて広いというのがわかった。ここまでくると野球場どころか、ひとつの都市だ。


 都市一帯を一人で掃除する。

 そう考えると楽しみでウズウズした。

 が、同時に不安も感じる。


 俺一人で、全部やり切れるのか。

 できれば一人で全て片づけたい。

 しかし片付けにはリミット、期限がある。


 費用に制限がないのは救いだが、今から誰かを雇うとなれば、パイロンのグータラを秘密にできる口の堅い人員が必要だ。

 あまり効果は望めないだろう。


 とにかく目に見える範囲だけでもキレイにしていけば、どれだけの力量と人員が必要か分かるはずだ。


 一通り掃除を終えて、パイロンの部屋に戻る。


 いわれたとおり、パイロンは部屋の外にゴミ一式を出してあった。


「では、私はゴミ置き場まで行って参ります」


 真琴が台車を魔法で呼びだし、全部台車に積んで運ぶ。

 何往復することになるかな、これ?

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