第20話 名家の子息達(中)

 それを物陰から見届けると、フェルスはまた廊下に出て歩き始めた。自分も寮に戻るためだ。のんきに口笛を吹きながら歩く。

 すると、柱の陰から先に帰っていたはずのアフジェが現れた。いつもの人の良さそうな表情とはまるで違い、大きな丸い目をぎらぎらさせている。

「ひどいじゃないか。あんな事を言うなんて。ランウルグは純粋で可愛いんだ。彼とは仲良くしていたかった。僕のおもちゃをとるなんて、許せないな。」

「一体、なんの事だ?しかも、人をおもちゃ扱いするなんて、君も下種げすだな。」

 フェルスはうそぶいてみせた。

「ふん。とぼけたって無駄だ。さんざん僕の悪口を言っていただろう。随分ずいぶんな話だったじゃないか。」

「随分な話だって?悪いけど、私は悪口なんて、一言も言ってない。」

 フェルスは余裕だ。この学校に入る前まで母と妓楼で育った。妓女達の駆け引きや裏を見て来たから、こういう人との駆け引きは朝飯前だ。

「なんだって。まだ、しらを切るつもりか。」

「何をそんなにカリカリしているんだ。そんなに怒らなくてもいいだろう。だって、全部事実なんだから。」

 飄々ひょうひょうと言い放つフェルスに、アフジェは二の句が継げない。

「ははは。そういう君も君の父上はなぜ、ここに君を入学させたんだろうね。プバン家で認められた事のなかった君を突然、この学校に入れたんだ。何か裏があるんだろう?」

「そうなんだ、私もそれが分からなくてね。」

 フェルスに、やり返す事のできないアフジェは苛立った。

「ふん、何が分からないだ。大体、最後に君は何をひそひそ話していたんだ。僕の可愛いランウルグに何をしていた?」

「彼は君の物なんかじゃないさ。そんなに知りたいか。知ったら君は卒倒するよ。」

 フェルスはにやりとして、アフジェにささやいた。

「口づけしてたのさ。確かに彼は可愛いよ。だから、真実を教えてあげたんだ。君に騙されるのは忍びないからね。」

 アフジェはあんぐりと口を開けた。

「き、君という奴は…!なんて事を!」

 フェルスは意地悪くアフジェに囁いた。

「本当は、君がしたかったんじゃないかい?」

 アフジェは拳を固く握ってぶるぶると震え、フェルスを鋭くにらみつけた。

「まあ、そんなに怖い顔をするなよ。目玉が飛び出しそうだぞ。」

 フェルスはアフジェの肩をぽんぽんと叩くと、何事もなかったように廊下を歩いた。廊下の角を曲がった所で、こっそり様子を伺うと、アフジェが廊下に本や教科書を叩きつけている音と、フェルスをののしる声が聞こえた。

 フェルスは一人で肩をすくめてにやりと笑うと、さっさと寮に帰った。

「フェルスの奴、絶対に許さない!よくも僕をコケにしてくれたな!ばれないようにしてきたのに!」

 アフジェは文句を一通り言うと、本と教科書を拾い、急ぎ寮に向かった。向かった部屋は自分の部屋ではない。そのアフジェをこっそり尾行する者がいた。

 ランウルグだ。一度、フェルスに言われた事とされた事に動揺して寮に戻りかけたが、途中で考えを変えて確かめてみる事にしたのだ。

 すると、帰ったはずのアフジェとフェルスが話はじめ、アフジェはひどく怒り始めた。その姿は今まで見た事がないものだった。確かにフェルスが言う通りに、今までアフジェは演技をしていたようだ。

 その事にランウルグは、しばらく何も考えられなかった。気の合ういい友達だと思っていたのに、それは全て偽りで偽の姿だった。

 だが、七年間、伊達にニピの里にいたわけではない。アフジェとフェルスの両方を調べてみる事にした。

 確かにフェルスの指摘通り、ランウルグは勉強だけに集中しすぎていた。ここが、単なる学校ではない事を真に理解していなかった。それを今日、フェルスに教えてもらったのだ。

 レルスリの坊ちゃん達がはばを利かせているのは知っていたが、ばれないように気を付けているだけで、学校の中で誰が何を知りたがっているとかそういう事に気を配っていなかった。

 ここの学生達の背後には、実家の影が濃厚に表れている。それを学ばなければこの学校に入った意味はない。

 アフジェは立ち並ぶ寮のうちの一つの建物に入った。一人一人の学生に与えられている部屋が広く、台所や浴室、使用人の部屋まであるので、一つの建物に居住できる学生の数は少ない。十人住めるくらいだ。

 その寮の一つ、『レルスリ寮』とあだ名されている寮にアフジェは入って行く。レルスリの坊ちゃん達が住んでいるからだ。

 アフジェの住んでいる寮ではない。アフジェの寮はランウルグの住んでいる寮の二つ隣だ。ランウルグはアフジェが建物の中に入ってから、入り口に近づいた。門番が立っている。門番に止められた。

「一体、どのようなご用件でしょうか。」

 ランウルグが制服を着ているので、学生だという事は分かっているだろうに、門番は尋ねた。

「今、入った友達に用事があるんです。ちょっと、返したい本があったので、追いかけてきたんです。」

 ランウルグは咄嗟とっさに嘘をついたが、もっともらしい嘘に門番は納得した。

「そうですか。どうぞお入りください。」

 ランウルグは会釈えしゃくをして、さっと中に入った。寮の中は驚くほど静かだった。広間があり、あちこちに明りが灯されているが、みんな自室にいるせいか、しんとしている。

 廊下や広間には絨毯じゅうたんがしかれているので、あまり足音がならない。それでも、アフジェの足音はかすかに聞こえた。ランウルグは辺りに注意しながら、急ぎ、アフジェの後を追った。廊下の角を曲がると、アフジェが階段を上がって行く所だった。

 そっと近づき、アフジェの後を追う。ニピの里で訓練してきたから、朝飯前の事だ。アフジェは二階に上がって手前から二つ目の部屋の扉を叩いた。中から侍従が出てきて、扉を開け中に招き入れた。

 扉の前には必ず、寮に住んでいる学生の名前が書いてある。ランウルグは慎重に扉の前に行くと、その名前を確かめた。

 シュリゲス・レルスリとあった。レルスリ家の六番目の息子の名前だ。フェルスが言った通りで、ランウルグはがっかりしたが、今日はここまでにして自分の部屋に戻る事にした。

 どうせ、聞き耳を立てた所で話の内容を聞く事はできない。壁が厚く音漏れしにくい構造になっている。その上、下手にうろうろしていたら、他の学生が出て来るかもしれないし、レルスリ家だったらニピ族を侍従として護衛につけているはずである。見つかる前に退散しておいた方がいい。

 ランウルグは門番に会釈した。

「本は、渡せましたか?」

 門番の突然の質問にランウルグはびっくりしたが、ランウルグは首を振った。

「いいえ。急いで追いかけたのですが、どこの部屋に入ったか分からなかったので、結局戻って来ました。」

 これまた、もっともらしい答えに門番は納得したようだった。

「そうですか。残念でしたね。お気をつけてお戻り下さい。」

「ありがとうございます。」

 ランウルグは礼を言うと、今度こそ自分の寮に帰った。

 その姿を門番は見ていたが、やがて姿が見えなくなると、寮の入り口の門扉もんぴを閉め、かんぬきをかけた。そして、まっすぐにシュリゲスの部屋に来ると、扉を叩いた。

 中から侍従が出て来る。ランウルグの推測通り、ニピ族である。だが、ランウルグの存在に気が付かなかった。それくらい、ランウルグが上手く隠れていたのだ。

「なにかご用でしょうか。」

 侍従が慎重に尋ねた。

「念のため、お伝えください。トベルンク・アフジェ殿の後を追いかけてきた学生がいます。本を返したかったので追いかけたが、どの部屋に行ったか分からず、戻ってきたという事でした。」

「分かりました。それで名前は?」

「そこまでは聞いていません。しかし、おそらくランウルグ・ベルセス殿ではないかと思います。」

 ベルセスがランウルグの偽名だった。ランウルグはちまたに普通にある名前なので、あえて偽名にせず、姓の部分だけを偽名にしたのだ。

「どうして、そう思ったのです?」

「ベルセス殿は非常に容姿端麗と聞いております。お会いした事はありませんが、お顔を拝見し、そうではないかと思いまして。」

 門番の答えに侍従は頷いた。

「分かりました。また、いつもと違う事がありましたら、ご連絡下さい。」

 侍従は紙に包んだ物を門番に手渡した。門番はそれを受け取ると、服の懐に仕舞い込んだ。会釈をして何事もなかったかのように戻って行く。

 それを見届けると、侍従は扉を閉め、主のシュリゲスの元に行った。

 そこにはシュリゲスの他、五番目のレスゲス、七番目のロギース、八番目のメリギスそして、アフジェがいた。九番目はロリーナといい、女の子なので女子寮にいるから、ここにはいない。

「どうした、ブワム?何か問題か?」

 侍従、ブワムは門番から聞いた事を伝えた。全員がアフジェを見つめる。

「気づかなかったのか?」

 レスゲスの問いにアフジェは頷いた。今、アフジェはフェルスに気づかれた事を伝えていたのだ。だが、ランウルグの事は上手く誤魔化ごまかして話していない。たぶん、フェルスの話が本当か確かめに来たのだろう。

「たぶん、門番が言った事は本当だ。」

 アフジェは言った。

「それなら、いいけど。しかし、あのランウルグ・ベルセス、彼は一体、何者だろう。」

 ロギースがつぶやくように言う。

「王族なのは間違いない。だが、父上に確かめても彼の存在は記録にない。王族の記録を全部掌握しょうあくしている父上が言うのだから、間違いないはずだ。」

 シュリゲスの言葉にみんな、考え込んだ。

「分かったぞ、隠し子じゃないか。」

 レスゲスが明るい声で言った。

「誰の?」

 メリギスの問いに、レスゲスは首をかしげた。

「さあ、それは分からないけど、誰かの隠し子だ。」

 全員があきらめたようにため息をついた。

「それくらい、みんな考えてる。問題は誰の子供かという事なんだ。全く。」

 ロギースの言葉にレスゲスは、唇をとがらせた。

「なんだよ、その言い方は。一応、俺はお前の兄貴なんだからな。この中で一番上なんだぞ。」

 レスゲスは胸を張ってみせた。

「半年分だけだ。」

 ロギースの言葉で、レスゲスはしおれた。レスゲスとシュリゲスは二か月違い、レスゲスとロギース、メリギスは半年違いの兄弟だった。全員の母親が違う。

「ロギース、あまり言うな。それに、私は今のレスゲスの言葉でひらめいた。」

 全員がシュリゲスに注目する。

「ランウルグ・ベルセス、彼はおそらく、公表してはいけない人間の子供だ。」

「どういう意味だ?」

 メリギスが聞き返す。

「本当に分からないか?アフジェ、君は分かったんじゃないか?」

 アフジェはなぜか、彼らにランウルグの事をつつかれたくなかったが、分かってしまった。それに、もしこの推測が当たってしまったら、とんでもない事になる。

「…まさか、本当にそう思うのか?」

 シュリゲスは、悪戯いたずらっぽくにやりとした。レルスリの兄弟達は、アフジェを大切にしている。トベルンク家はこの国最古で最大の銀行なのだ。レルスリ家とも深いつながりがある。トベルンクがへそを曲げたら、レルスリ家といえども、財政難になる。

「私はそう思う。だから、ニピ族の古いおきてを守る護衛がついているんだ。」

「どういう意味だ。分かるように言ってくれよ。」

 シュリゲスの言葉に、ロギースがせっついた。

「慌てるな。これはまだ、私の推測に過ぎないし、確証もない。証拠しょうこそろうまでは、父上にも報告できない。誰にも言うな。そうでないと、大変な事になるから。」

「大変な事ってなんだ?」

 レスゲスが不安そうに尋ねた。

「人が死ぬ。もし、違ったら罪のない人を殺す事になる。もし、そうであっても彼が罪を犯した訳ではないけどね。」

 さすがに少年達はみんな、目を丸くした。

「ランウルグ・ベルセスはおそらく、セルゲス公の息子だ。」

 アフジェは内心、ため息をついた。シュリゲスに話を振られた時、まさかとは思ったのだ。だが、本当にシュリゲスはそう推測していた。彼の分析力にはアフジェも一目置いている。

「なんで、そういう結論になる?」

 メリギスが質問した。

「レスゲスが隠し子だと言った時、父上は王族の隠し子も、おそらく全員を把握はあくしているはずだと思ったんだ。それでも分からない王族と言ったら、セルゲス公しかいない。公はボルピス王の時代、結婚を禁じられた。

 陛下は、行方不明の公が見つかったら、結婚させようとしているが、父上達は反対している。当然だ。本当なら正当な後継者はセルゲス公だ。それを、父上達が強引にボルピス王を王位につけ、今の陛下が後を継がれた。もし、結婚したセルゲス公が王位を継がれたら、私達八大貴族は、そのまま力を失う。少なくとも、今の状態でセルゲス公に譲位なんて、あり得ない。

 セルゲス公はボルピス王の時代から、たびたび、行方をくらました。行方不明になられる八年前も、ほとんど自由に動かれていた。

 つまり、父上達が把握できない間に、隠し子がいてもおかしくないという事だ。もし、これが本当だったらどういう事になるか分かるだろう。だから、誰にも言うなと言ったんだ。」

 シュリゲスの説明にみんな顔を見合わせた。

「も、もし、本当だったら、どうなるんだ?あいつは、殺されてしまうのか、父上に。」

 レスゲスが心配した。

「もし、本当だったら、父上はきっと許さないだろうね。」

 メリギスの言葉が重くひびく。

「そんな、可哀そうに。何も知らないだろう?」

 レスゲスは同情した。

「何も知らない?」

 シュリゲスが意地悪そうに鼻で笑った。気味が悪そうにレスゲスが眺める。

「そんな訳はない。知っている。おそらく、知っているからこの学校に入学した。

 これで、はっきりした。アフジェ、彼は今日、君を尾行した。そして、この部屋に入ったのを確認したはずだ。君と私達が関係あるか確かめに来たんだ。

 まあ、それくらいはじきに分かる事だし、知られたってどうって事はないが、問題は彼の素性だ。

 今日から彼の存在を徹底的に調べよう。ブワム。今から、ランウルグ・ベルセスの事を調べる。お前は寮に行って護衛や侍女の事を調べてこい。おそらく、二人ともニピ族だから、油断するな。」

「はい、承知いたしました。」

 すぐにブワムは部屋を出て行く。

「アフジェ。これで君の役割はますます重要になった。君は彼と仲がいい。上手く彼の事を探ってくれよ。今までの君の手腕なら、フェルスに何か吹き込まれたとしても、上手く誤魔化せるはずだ。」

 アフジェは頷いた。ランウルグとの仲を修復するのに依存はない。トベルンク家がいつまでレルスリ家とひっついているかも分からない。もし、本当にランウルグがセルゲス公の子供なら、仲良くしておく必要がある。

 今、時代は大きく動き出そうとしている事を、アフジェは感じていた。みんな、ボルピス王がやった事を決して忘れているわけではない。息子のタルナス王が、八大貴族に本格的に敵対心をあらわにするようになって、七年が過ぎ、貴族も国民も八大貴族に疑念を抱き、不満を持っている。

 八大貴族を倒そうという機運が高まっている事を、父親から入ってくる情報でアフジェは知っていた。したたかなトベルンク家は時を見て、有力な勢力の方につく。場合によっては、いつでも八大貴族を捨てるだろう。

 そうやって、生き残って来たのだ。

「これは面白い事になった。上手くいけば、レルスリの力はますます大きくなる。」

 シュリゲスは口元に笑みを浮かべた。だが、その目はらんらんと光っている。

「上手くいかなかったら?」

 レスゲスが不安そうに尋ねる。

「良くて内戦、悪かったらレルスリ家を始め、八大貴族は謀反の罪で断罪されるだろう。」

「良くて内戦か。」

 メリギスが呟いた。

「ちょっと待ってくれ。どうして、良くて内戦なんだ。内戦だなんて、最悪じゃないか。」

 レスゲスの疑問に、シュリゲスは微笑ほほえんだ。

「その通り。レスゲスの言う事は正しい。でも、レスゲス、今、この国のあちこちで八大貴族を打倒すべし、という機運が高まっているのを知っているか。ボルピス王時代からの不満が、いよいよ爆発しそうになってる。

 セルゲス公が行方不明なのは、今まで八大貴族にとっては、まだ良かったんだ。父上によると、セルゲス公は他のどの貴族にも姿を現していない。接触もしていない。だから、安心できた。もしかしたら、知らないうちに亡くなったのかもしれないしね。

 それだったら、八大貴族にとっては嬉しい事だった。でも、そのセルゲス公に息子がいたら?八大貴族に不満を持っている連中はどうすると思う?セルゲス公の息子に接触し、担ぎ上げ、この方こそ王座に座るべき真の王だと言って、私達、八大貴族を倒しにくるだろう。

 もちろん、民もそれに同調する。しかも、陛下はセルゲス公の事について、私達、八大貴族を疑い、七年もの間、責めて来られた。この事実は八大貴族が王を操ろうとしてきたが、とうとう王が反旗をひるがえしたという風に思われる。

 罪に定められるべきは八大貴族。八大貴族が王室の敵で、民の敵だという風潮が広がりつつある。

 当然の事ながら、八大貴族も簡単にやられたりはしない。だが、確実に深手を負う。深手を負ってもまだ、なんとか生き延びられるだろう。八大貴族に手を貸す者は、王室の内部にいるからね。

 しかし、失敗すれば、八大貴族に待っているのは死だ。だから、良くて内戦と言ったんだ。」

 レスゲスはむむむ、という変な声を出した。

「じゃあ、あのきれいな顔をしたあいつが、本当にセルゲス公の息子だったら、父上は殺してしまうのか。今の王と取り換えるだけじゃだめなのかな。」

 アフジェはその考えもいいかもしれないと思った。もし、そうなれば八大貴族の痛手は小さくて済むが、タルナス王はただでは済まない。いろいろと罪状をつけられて幽閉されてしまうか、殺されるだろう。それでも、八大貴族に対する不満は消し去れないだろう。

 シュリゲスもその案について、少し考えている様子だった。

「何を言っているんだ、父上は殺してしまうさ。同情したって仕方ない。」

 ロギースが吐き捨てた。アフジェはロギースが嫌いだ。レスゲスを馬鹿にしているが、レスゲスよりも普通の事しか考えられない。それなのに、彼を見下して大口を叩く。

「可哀そうにな。あいつ、父親を捜しにここに来ただけかもしれないのに。」

 レスゲスの何気ない言葉に、アフジェははっとした。七年間も父親が行方不明なのだ。七、八歳の頃から父親と生き別れている。父親を捜すために、八大貴族と接触できるこの学校に入学したのかもしれない。セルゲス公の財産を全て没収できている訳ではない。この学校に入るくらいの金は十分にあるだろう。

「確かにその線があったか。」

 シュリゲスは呟いた。

「レスゲス、だから、私は君が好きなんだ。君は本当にいい事を言う。」

 シュリゲスに褒められ、レスゲスは頭をいた。

「そ、そうか。私は今、そんなにいい事を言ったか。」

「ああ。そうだ。」

 だが、誰もシュリゲスがどんな事を考えているか分からなかった。シュリゲスが切れ者だとは分かっていたが、どんな計画を思いついたかまでは想像がつかなかった。なんとなく不安を感じながら、アフジェは目を光らせて計画を練っているシュリゲスを眺めた。

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