紫煙に感謝

 そういう地域なのか、喫煙率が異常に高かった。小学校にも何人か居たし、中学校には掃いて捨てるほどの喫煙者が居た。

 サッカー部の知り合いが、先輩の煙草を買いに行くのに同行したことが有る。曰く、制服の上を脱いで買わないと、学校がばれるので駄目らしい。下はそのままだ。配慮が行き届いているのかどうか。

 そんな環境に居たので、煙草を一本貰う機会が有った。何故そんなことになったか、あまり覚えていないのだが、私は得意げに胸ポケットにしまい、同級生に見せびらかしたりしていた。もちろん、小心者なので、学校の外で自慢していた。

 すると、そのうちの一人が「お前、それ吸うのか?」と聞いてきた。彼は喫煙者だったはずだが、「悪いことは言わない。吸うな」とだけ告げて、何処かへ行ってしまった。その時の私に吸うつもりが有ったのか、彼の言葉で目が覚めたのか、分からないが、もうクシャクシャになったそれを、何処かのゴミ箱に捨てたことを覚えている。湿気の多い夜だった。

 今日に至るまで、私は煙草を一本も吸ったことがない。

 彼の名前も覚えていないし、彼もこの会話を覚えていないだろうが、今頃になって思い出した。

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