Log-123【死の瞬き】
見渡す限りの巨体に、無尽に蓄えられた魔力。だが、それにも限界はあった。その激流を制し、押し寄せる
「アレクシア! 今よ! 全力でお願い!」
「気張れ野郎共ッ! ここが正念場だぁッ!!」
ウルリカから受け取った指令に、アレクシアは好機と見て、
「イングリッドォ!!」
「無論ですわ!」
「『
折り重なる詠唱、それはまるで、戦場を悼む鎮魂歌の如く。荘厳なる斉唱を経て、起動する魔法陣――地面から無数の氷柱が次々と伸びていく、串刺しとなった
(効いている……間違いなく、効いている……!)
空から
アクセルの命を懸けた奮闘によって、
(確証はほぼ取れたようね。
かつて
(――幻理、そうね……概念が物質化するって法則を操るのが咒術の本質なら、奴の変貌ぶりは一切の矛盾なくまかり通るわね)
未だ仮説の域を出ない幻理なる法則。それが仮に存在するのならば、咒術をもたらす飽和魔石が魔力量に応じて魔物を神話級の生物にまで押し上げる。神話生物の召喚ではなく、自らが神話生物と成る。
(てっきり咒術は強力な魂の使役か何かかと思ってたけど、そもそもの認識が間違ってたのかも知れないわね。最早物質的な何かじゃなくて、もっと概念的な――)
――ウルリカは目を疑った。順調な作戦の運びに胸を撫で下ろし、思索に
しかし、ウルリカの危機感とは裏腹に、伏臥する
アレが見えないの? 頭に血が上ってる? 駄目、アレに近づいちゃいけない。
「アレクシア……ッ! すぐ後退し――」
ウルリカの声は、しかし、遅かった。アレクシア達は力強く大地を蹴り、高々と一斉に飛び上がる。鋭利なる長槍を、重厚なる
胴体を貫かれただろう氷の剣山を無理矢理に引き剥がし、己が血肉で大地を紅く染めながら、砕いたはずの脚を振るわせて、狂乱発狂したかの如く暴れ回る。
大気を切り裂き、衝撃波を巻き起こす
僅か一瞬で、辺り一面には、原形を留めぬ屍が広がった。アレクシア率いる第一中隊と、ジェラルド率いる駐屯兵団は、指揮官である二人を残して、最早壊滅寸前だった。
時を同じくして、
戦況は完全に傾いた。戦場に立つ者全ての胸中に、絶望の文字が否応なく浮かび上がる。この期に及んで、尚も
「う……くっ……」
――再び、アクセルの異能に頼るか? 否、前例に鑑みれば通用しないと考えていいだろう。
――では、残る魔術師達と共に、大規模な典礼魔術で仕留めるか? 否、留める手段がない。
「あたしの、責任……あたしが……走魔性なんて、試さなきゃ……」
弱音が、ポツリと零れる。人が死んだ、大勢死んだ。連盟部隊の継戦能力が崩壊寸前にまで陥るほどに。元より、軍隊として揃えられた戦力など、高が知れていた。寄せ集めな上に、慣れぬ環境下、魔物の規模に対して僅かな人員。それでも、その頭数で連合軍到着までを切り抜けると高らかに宣ったのは、自分だ。にも関わらず、今や、全滅必至の状況にある。
「もう駄目、なのかしら……これ以上、もう……」
「ウルリカァッ!!!」
諦めかけた、その時だ。脳裏にけたたましい怒声が鳴り響く。その声は紛れもなく、姉のもの。
「ベソかいてる暇なんざねえぞ! お前は司令塔だろうが! 俺達はまだ生きてんだぞ!」
命に別状はないものの、
「反省や後悔なら後にしろ! 次だ、次の作戦を命じろ! 俺達はまだ戦える、ならお前は、奴をぶっ倒すことだけ考えてろッ!!」
頬を引っ叩かれたような、目の覚める激情が、ウルリカの胸に鋭く迫る。
己は誠愚かだった。アクセルに対して偉そうに
「……ええ、アレクシア。悪かったわね、似合わない真似したわ。もう落ち着いた、次で決めるわよ」
「おう。もう猶予はねえ。正真正銘、次が最期だ。人と獣、どっちかのな」
そう言って、アレクシアは
――奴を怪物たらしめる原因は飽和魔石。なら、体内にあるソレを破壊するには?
それこそが
初めから思いついてはいた。だが、飽くまでそれを最後の手段として取っておいたのは、出し惜しみなどでは決してない。勝算が高いとは言えなかったからだ。
第一に、
第二に、大狼の俊敏さを捉えるのが難儀であること。飽和魔石の一撃破壊には正確な入射からの十分な威力が必要。追尾の魔術を用いても、正しい座標での起爆が見込めるかは定かではない。
第三に、飽和魔石の破壊が弱体化を促す確証が足りないこと。まず前提として、この推測が正しいかどうかが不明だ。大蛇や大狼を怪物たらしめているのは飽和魔石で間違いない。ただ、失われれば即座に弱まるのか? 甚だ疑問ではあった。
だが、手は他にない。心臓を潰しても
「……賭けね。何の確証もないけど、このまま指をくわえてるわけにはいかないわ。やるしかない、今はそれ以外に思いつかないもの。奴をぶっ倒す方法が……」
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