第46話 最終決戦(最高の鍛冶師VSユウジ)

ドワーフはこの世界でも最高の鍛冶技術を持つ種族だった


その中でも当代最高の鍛冶師と呼ばれたドワーフが居た


その名はギムリ


彼は最高の鍛冶師であると思に、屈強な戦士でもあった


彼は自分の鍛冶師としての技術に満足していなかった


冒険者になればまだ見ぬ、最高の武器や防具を目にすることが出来る


こうして彼の冒険者生活が始まり


魔王によってその生活は終わりを告げた




しかし魔王の元までたどり着く事は、並大抵の実力では不可能である


ギムリはアダマンタイトには及ばぬものの、オリハルコン級の力を持っていた


そんな屈強な戦士を前にしてもユウジはいつもの笑顔を崩さない


『ギガントジェットハンマー!』


先手必勝とばかり最強の一撃を食らわせる


ギムリは恐ろしい速度で壁に激突し半ばめり込んでいる


「ぐっはぁ! 強烈じゃのう 一撃でワシが正気に戻るとは!」


戦斧と盾で巨槌からその身をガードし、インパクトの瞬間に後方へ飛び衝撃を殺した


これを本能だけでやってのけた事が彼の力量を物語っている




二発目の溜めに入ったユウジを見て


「連続で喰らっちまうと、さすがに持たんわい」


「こっちも出し惜しみ出来んのう」



『サウザンド・ソード』


無数の魔法陣が辺りに現れまさに千に上る剣が召喚される


「数多の英霊よ、己が剣を取り、舞い、踊り、蹴散らせ」


『千剣闘舞!』


無数の剣がユウジめがけて殺到する


しかもその一本一本をよく見れば、聖剣、魔剣の業物ばかり


この技を防いだものは未だかつていなかった


魔王を除いて


その当時に使っていたのは、ギムリが自ら鍛えた剣たち


いずれも業物であったにもかかわらず、魔王には通用しなかった




「うわぁ 凄い剣ばっかりじゃないかぁ!? 数もいっぱいだぁ!」


驚くところが違う気がするが


『プロテクションウォール 大盛!』


当社比1.5倍の強度を持つ防御の壁がユウジを包み込む


しかし、千本もの並々ならぬ名剣の猛攻にもろくも崩れ去る


「ああ! やっぱり無理だったかぁ」


そのセリフを最後に


ユウジの身体に無数の剣が突き刺さりその姿さえ隠してしまった




「むぅ! やはり無理じゃったかぁ・・・」


敵を倒したギムリであったが


その表情には、希望が断たれたかのような無念さが漂う


「敵を倒した瞬間こそ、油断しちゃいけないんだよ!」


ジャーンと言う効果音が聞こえそうなポーズでギムリの背後に姿を現したユウジ


「忍法 『変わり身の術』か~らの~『土竜の術』か~ら~の~」


シノブに教わった『変わり身の術』でギムリの目をくらまし、マコから習った土魔法(ユウジ的に『土竜の術』)で地面を移動したのだ


『ギガントジェットハンマー!』


そして二度目の必殺技がギムリに炸裂する!


「うっひょ~ こりゃらまらんわ~い!」


ギムリはまたしても吹き飛び壁へと激突した




しかし、彼はむくりと起き上がると


「おおおぉ! まじかぁ! あれを防ぎよったかぁ? グッジョブじゃあ!」


スキップしてユウジに詰め寄ってきた


「ああ やっぱり僕を試してたんだねぇ?」


「ほほほ ばれておったか!」


ウインクしながら彼は名乗った


「ワシの名はギムリ ドワーフの鍛冶師じゃった」


「お主の名は?」


「僕はねぇ ユウジだよ!」


ユウジもウインクをお返しする

 

「ユウジ なんじゃこの戦槌は!? この鎧! 素晴らしい!」


「どなたの作じゃ? このような製法、今までに見たことが無い」


必殺技の巨槌を二度も受けたとは思えない健在っぷりにさすがのユウジも驚かされた


「これはねぇ 僕の仲間で、友達で、勇者のワタルが作ってくれたのさ!」


「ほほう! 錬金の術を使う勇者とは、ワシの知る勇者たちの歴史の中でも聞いたことが無いわい」


「ワタルはね肩書も勇者なんだけどね 僕に勇気をくれた正真正銘の勇者なんだ」


そういって嬉しそうにギムリに話し始める


ギムリも興味津々で話に耳を傾けた




ユウジは裕福な家庭で何不自由なく暮らして来た


そんな彼が、中学に入ったころから不良たちに毎日のように金を巻き上げられるようになってしまった


高校に入れば彼らも現れまい


それまでの辛抱だと、ユウジは諦めて金を渡し続けた


ある日、いつものように不良たちに絡まれているところに、1人のクラスメイトのが通りかかった


それがワタルだった


他の生徒たちは見てみぬ振りをして通り過ぎていく


ワタルとは何度か話したことはあるが、特別仲が良いわけでもない


彼も他の生徒と同じように通り過ぎていくだろう


ユウジはそう思っていた




だが彼は違った


「ちょっと待ったぁ!」


この時ワタルは「この決め台詞でユウジの心を鷲掴み!」と思ったそうだ


ワタルは、はっきり言って弱かった


喧嘩慣れしている不良たちに敵う訳がない


「お前ら! ユウジ君に何してる!?」


「なんだてめぇ?」


「金持ちのユウジ君からお小遣いをもらってるんだよ」


「邪魔すんな ぶっ飛ばすぞ! ああっ!?」


不良たちの凄みの利いた恫喝に、見るからにワタルは怯えていた


脚が生まれたての小鹿の様にプルプルしていた


しかし、


「ぼ、僕はどこにも行かないぞぉ! い、行くんなら君たちがどこかに行けばいいぃいいい! そうだろ?」


誰に聞いているのか?


恐怖の余り、よく分からないセリフを言い放ち


ワタルは不良たちに向かって行った


その日ユウジは『グルグルパンチ』を言うものを初めて目にすることになったと言う




殴られても、蹴られても、地面に転がされても


何度も立ち上がって向かって行った


『グルグルパンチ』をしながら!


気が付けばユウジもワタルと一緒に不良たちに立ち向かっていた


ユウジは『グルグルパンチ』に夢中だった!


(こんなに効率の悪い攻撃 今まで見た事が無いよ!)


あんなに怖かった不良たちだったのに、怖くなかった


結局、二人はボロボロになって地面に這いつくばる羽目になった




「ちょっと待ったぁ!」


ワタルの決め台詞が今日も冴える!


次の日も、また次の日も不良たちに絡まれるたびにワタルが現れて立ち向かった


『グルグルパンチ』で!


不良たちがあきらめるまで、ワタルは諦めなかった


ユウジはこの毎日のやり取りがイベントのようで、もはや楽しみになっていた


あまりのワタルのしつこさに、とうとう不良たちの方が音を上げた


「こいつら面倒くせぇわ もう行こうぜ」


その後、ユウジが不良たちから、からまれることは無くなった


逆に不良たちが避けてさえいたそうだ




「君はどうして僕を助けたんだい?」


特に仲がいいわけではない、そんな相手をかばって不良に殴られるような真似を自分なら絶対にしない


ユウジは不思議で仕方がなかった


ちょっと間が開いた後ワタルはこう言った


「ユ、ユウジ君って頭すごくいいだろ? そうだろ? いやそうに違いない!」


「だ、だから 勉強を教えてもらおうと思ってね!」


緊張のためか力みの入ったサムズアップを向けてくるワタル


棒読みだった


めちゃくちゃ嘘っぽかった




「本当にそんな理由で?」


再度ユウジが聞き返すと


「本当はね 君と友達になりたかったんだ」


「今までタイミングがつかめなくてね ちょうどいいと思って!」


そう言って、ワタルはニィッと笑って見せた


「君って本当に変わってるね!」


ユウジは爆笑してしまった


でもその日のワタルの笑顔がユウジの目に焼き付いた




それから二人は友達になった


それからだった、ユウジがいつも笑顔になったのは




「と言う訳なんだよ!」とユウジに言われた


だが、ユウジの世界の事を知らないギムリには話の半分も分からなかったが


「要するにおまいさんの仲間は、おまいさんに勇気と笑顔をくれたって訳だな!」


「そう! それだよ! 僕が言いたかったのは!」


(一言で済ませられる内容を、ここまでのロングストーリーに変えるとは只者ではない!)


変に感心するギムリ


「おおっと まだまだ話したりないが、そろそろワシの意識も限界の様じゃ」


「それでのう おまいさんにこいつを貰って欲しいんじゃ」


そう言うとギムリは呪文を呟く


手のひらに宝石が現れた


魔石とは違う神秘的な輝きを放っている


「『ドワーフの宝箱』と呼ばれる魔導石じゃ」


「ここにワシが倒した強者どもの魂と言える剣たちが入っとる」


「さっきの技『千剣闘舞』もこの石の力なんじゃ」


「本当は、亡骸も運んで弔ってやりたかったが、この石の力でも剣を収めるだけで精一杯じゃった」


無念そうにそう呟くギムリ




「おまいさんたちが魔王と戦わぬなら その剣で散っていった者たちを弔ってやってくれ」


「もし、魔王と再び戦うと言うのならば、わしの斧と共に連れて行ってやってくれ」


「頼んだぞい」




そう言ってギムリは宝石をユウジに手渡した


自身の『核』と共に


「ギムリさん もちろん魔王とはリベンジマッチさ!」


「僕たちの勇者がね!」



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