第12話 剣士危機一髪
「スライムの酸で剣が劣化するとは・・・不覚」
それでもこれまで愛用していた刀であれば、彼女の斬撃は酸で溶かされるよりも早くスライムの『核』を容易くして切り裂いていたはずだ
しかし、目覚めた部屋で手に入れたのは、馴染みのない両刃の剣
剣戟が鈍ったとて誰が責められようか
覚醒後、素早く身支度を整えた彼女は、すぐに仲間の捜索に飛び出した
程なく、マコと合流できたが、ゴブリンに変えられた自分の姿に、よほど堪えたのか満足に戦えそうにない
仕方なく彼女を部屋に残してアオイは単独で捜索を再開したのだ
そしてスライムと遭遇
仕留めはしたが、剣は酸でかなりダメージを負ってしまい、このままでは完全に使い物にならなくなるのも時間の問題だった
悪魔の悪巧み、はたまた神の悪戯か、オークと遭遇してしまった
「くそっ! よくよく運の無い日だ」
オークの大戦斧をまともに剣で受ければ、剣は一瞬で砕け散る
体術で斬激を交わし、首筋に一閃
「くっ! 一太刀では仕留めきれないか」
それでもかなりのダメージは通っておりオークの動きは鈍っている
再生される前に、何とか仕留めきった
オークの『核』を手に入れ
「取りあえず一旦退くか」
オークの装備や死体は回収したが、斧は大きすぎて彼女には扱えない
「せめて剣があれば」
そう思った刹那、彼女は横殴りに強烈な衝撃を受けて意識を飛ばす
「うぅ! 何が起こった?」
激しい痛みで意識が戻った彼女が見たものは、折られた自分の手足
そして酸で溶かさんと、迫りくるスライム
その向こうで、その様をニヤニヤと眺めているオークの姿だった
手足を折り、身動きの取れなくなったゴブリンがスライムに溶かされていく様を楽しまんとするかのように
スライムが酸を吐き出し、アオイの身体を装備を溶かしていく
「うううぅ!」
余りの痛みと屈辱に、喘ぎを上げるアオイ
(再び得た命だったが、何んともあっけないものだな)
せめてオークの慰み者にならずに、死ねるのが幸いと思うしかなかった
「すまんマコ! 最後まで守ってやれなかった・・・」
部屋で魂の抜け殻のようになってアオイの帰りを待つ、親友への謝罪の言葉が口から零れ落ちる
「ああ! 出来ることならもう一度会いたかった」
この世界に召喚され共に戦った仲間たち
ツヨシ ユウジ シノブ そしてワタル
何時もどこか自信なさげ
だが、いざという時頼りになる勇者
あの時は伝えられなかった
「今度こそ伝えられると思ったのに」
気が付けば彼女は泣いていた
まるで堰が切れたように
普段の彼女を知る者であれば、信じられはすない
気丈な少女が、感情の赴くままに泣いている姿を
酸で身を焼かれる痛みと肉を焼かれる臭いで意識が朦朧とするその耳に、かすかに彼の声が聞こえたような気がした
(とうとう幻聴まで聞こえだしたか 私もやわになったものだ)
だが今度はしっかりと聞こえた
「オイ アオイ! シッカリシロ!」
それは以前の彼とは、似ても似つかないしゃがれた声
だが彼女にはそれが誰の声かすぐに分かった
「ワタル!」
ワタルたちは、ユウジの部屋で互いの状況を報告し合いながら、捜索の準備に勤しんでいた
ユウジは回復術師の為、魔導士のような服装の制限はない
鋼で強化した皮鎧と、手がふさがらないように小型の盾を腕に固定して装備してもらう
「おお! これは凄いなぁ!」
どうやって作ったのかしつこく聞かれたので、実演とばかりに、武器は大戦斧をサイズダウンしたものを『変形』させ打撃武器であるメイスを作った
回復術師に刃物が付いた武器はタブーらしい
メイスで仕留めた敵の方が、見た目が酷いと思うのだが
「わぁ凄い! そうかぁ・・・これがワタルの『固有スキル』だったんだねぇ」
「コウナル マエニ ツカエテレバネ」
「そんなことないよ! 多分今だからこそ使えるようになったんだよ!」
「ソウダトイイナァ」
ワタルは一人事のように囁いた
遠距離武器であるスリングと鉄球それに予備の『核』をいくつか渡し、すぐに捜索を再開
ゆっくりするのは、仲間全員と合流できてから、とみんなで話し合った
そして捜索を開始して程なくして、その光景が目に入ってきた
四肢を折られ、スライムの酸を浴びて、煙を上げる緑の魔物
ゴブリンに姿を変えられた女剣士アオイの姿だった
怪物の姿に変えられても尚、美しいと言えるその姿が今や、見るも無残
そして彼女は泣いていた
いつ何時も研ぎ澄まされたような刃のように凛とした佇まいを崩さなかった、気高き剣士が、声をあげて子供のように泣き叫んでいた
そんな姿の彼女を初めて見た
見てしまった
ワタルの中で、何かが爆発した
それは一つの思い
何よりも大事で、誰よりも強い思い
(もう誰も死なせない! もう誰も死なせたくない!)
「シナセルモノカッ!」
(後ろから何か来る )
お楽しみを邪魔され、不機嫌そうに振り返ったオークは、それが何だったのか分からぬまま、その首を断ち切られた
その首が落下し、地面に届くよりも速く
彼女の苦痛を消し去るために、彼女の命を守るために、ワタルは駆けた
スライムの『核』の位置は一定ではない為、非常に発見しずらい
それを一瞥もせず、すり抜けざまに一閃で両断
斬撃の鋭さで、酸の腐食をも置き去りにして
この動きには、仲間たちですら、一人たりとも反応できでいない
それほどの素早さだった
気付いたときには、既にアオイを抱きかかえ、必死に彼女の名を呼んで『核』を吸収させようとているところだった
「すまない おかげで楽になった」
顔を赤くし、ワタルに礼を言うアオイ
『核』を吸収し、彼女の傷は癒えたが、装備の色っぽい部分がきわどく溶けてしまっている
気付けば彼女を抱きかかえている自分に気がついて、しどろもどろ
「スッ! スグニ! ソウビヲ シュウリ スルカラ!」
慌てて『修理 リペア』発動、修理は完了!
決して、もう少し眺めていたいなどとは思っていない!
いや少し思っちゃったかも
何やら不機嫌な感情がよぎった気がするが、多分気のせいだろう
(ふぅ! 色んな意味で危機一髪だった)
装備の修理も終わり
彼女から朗報が伝えられる
「私が目覚めた部屋にマコがいる」
(おおお! これで全員そろった!)
ワタルは恥ずかし気に少し離れて、ツヨシにユウジにシノブがそれぞれに剣士との再会を喜びながら彼女の部屋へと戻ったのだが、肝心のマコ姿が見当たらない
「まさか! マコのやつ私を心配して外に!?」
その真相はアオイの嫌な予感よりも、さらに悪いものだった
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