第192話 アーカーシャ

「やっぱり、この季節はサンマですよね~」


 唐突に後輩がそんなことを言い出した。

 いや、唐突でもないのか。

 もうすぐ昼休みだ。

 季節感も手伝って、ふと頭に思い浮かぶこともあるだろう。

 まだクエスト(お仕事)中ではあるが、至急対処しないといけない内容は無い。

 このくらいの雑談は大目に見てもいいだろう。

 現に会話が聞こえているであろう課長も、特に何も言ってこない。


「秋の夜長にサンマか。いいわね」


 魔法使い(PG:女)が後輩が提供した話題に乗ってきた。

 そんな相槌を打っている。

 しかし、近くでそんな会話をされると、自分も想像してしまった。

 多少疲れて、小腹が空いていることもあり、気晴らしをしたくなり、会話に参加することにする。


「脂がのっているところがいいよね。他には無い、独特のおいしさがあるっていうか」


 もちろん、脂がのっているものは他にもある。

 けど、何かが違うのだ。

 やはり、旬というやつだろうか。

 日本人の心をくすぐると思う。

 他の二人も同意見なのだろう。

 それぞれ同意を返してきた。


「そうですよね~。あの味わいがいいですよね~」

「そうですね。自分がおいしいだけじゃなく、周りにもおいしさを提供するところが流石ですよね」


 ふむ。

 何気ない内容だけど、他人にも同意してもらえるというのは、嬉しいものだ。


「ご飯が進みますよね~」

「職人芸って感じですよね」


 ・・・・・ん?


☆★☆★☆★☆★☆★


「最近はちょっと高くなってますけど、それでもこの季節の楽しみですよね~」

「確かに高くなっているらしいけど、大御所なんだし仕方ないんじゃない?」

「そうかな~?」

「そうよ」


 ・・・・・あれ?

 なんだろう。

 何か違和感がある。

 微妙に食い違っているというか。


「年季を重ねた味わいってものがあるじゃない」

「あぁ~、確かに安物だと淡泊すぎていまいちなことがあるね~」

「そうそう。若手には若手の良さがあるけどね」

「そっか~」


 ダメだ。

 流石に突っ込みたくなってきた。


「ちょっといいかな?」

「なんですか~?」

「なんですか?」


 二人がこちらを向く。

 どうも、本人達は違和感を感じていないようだ。

 自分の勘違いだったろうか。

 そう思って、訊いてみる。


「なんの話をしてたんだっけ?」


 我ながら間抜けな質問だとは思うけど仕方ない。

 気になるのだ。

 幸い二人は馬鹿にした様子もなく答えてきた。


「サンマですよ~」

「サンマのことですよね」

「うん。そうだよね」


 やっぱり、自分の認識が間違っているわけではない。

 会話の話題は、それで合っているようだ。


「サンマってアレだよね。秋が旬のアレのことだよね」

「そうですよ~。まあ、今は一年中ありますけどね~」

「一年中見かけますけど、秋は特に見かける気がします。夜が長いせいかも知れませんね」


 う~ん。

 なんだか、また違和感を感じた。

 具体的に何かは分からないけど、何かがズレている気がする。


「ごめん。馬鹿らしい質問だと思うけど、もう1つ教えてもらっていいかな?」

「なんですか~?」

「なんですか?」


 二人は不思議そうな表情で首を傾げている。

 こちらが何を言いたいのか分からないようだ。

 無理もない。

 自分でも何でこんなことを訊こうとしているのか分からない。


「サンマってアレだよね。日本人なら誰でも知っていて、一般家庭の夕食を彩るアレだよね」

「はい~。見るだけで幸せな気持ちになりますよね~」

「ええ、見ると笑いが止まりませんよね」


 二人の感想は似たような内容だ。

 けど、微妙にニュアンスが違う。

 というか、なんとなく分かった。

 最後の質問をする。


「サンマって、どこの土地が有名だと思う?」


 二人の答えは予想通りのものだった。


「目黒ですかね~。落語に出てきますし~」

「明石でしょうか。名前に入っていますし」


 アカシとアカシヤはだいぶ違うと思う。

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