第177話 Gの脅威
「ひどい目にあった・・・」
10階分を階段で歩いて登るのは、かなりしんどかった。
体力はもちろんのこと、暑さがそれに追い打ちをかける。
決して我慢できない暑さではないのだが、空調の悪い空間で身体を動かすせいで、汗が滲み出てくる。
それに加えて、ぐるぐると方向を変える階段が、地味にきつい。
目が回って倒れるほどではないが、三半規管が揺れて、酔ったように気分が悪くなる。
「良い運動になりましたね~」
そう言いながらも、涼しい表情をしているのは、後輩だ。
同じように階段を登って来たはずなのだが、汗一つかいていない。
「しかも、登ってきたら、エレベーターが動いているし」
階段を歩くきっかけになった点検中の札は、撤去されていた。
「もう少し待っていたら、よかったですね~」
はっきり言って無駄な労力だった。
「今日は早く帰るかな」
☆★☆★☆★☆★☆★
クエスト(お仕事)のきりが良いこともあり、今日は定時に帰宅することにする。
「お先に失礼します」
「お疲れ様でした~」
「お疲れ様です」
後輩たちより早く帰宅するのは気が引けたが、たまには良いだろう。
ギルド(会社)を出て、転移ポータル(駅)へ向かう。
無駄に階段を上り下りしたせいか、妙に疲れている。
できれば、座って帰りたい。
そのチャンスはある。
日付は9月に入った。
それはつまり、学校の夏休みが終わったことを意味する。
だが、この時間なら大丈夫のはずだ。
部活をしていない学生なら、もう少し早い時間に帰る。
部活をしている学生なら、もう少し遅い時間に帰る。
隙間の時間なのだ。
しかし、期待を胸に転移ポータル(駅)についた自分が目にしたのは、信じられない光景だった。
「なん・・・だと・・・」
そこにいたのは、辺りを埋め尽くすGの群れだった。
しかも、冒険者(サラリーマン)のように、ルールを順守して列を作っているのではない。
好き勝手に歩き回り、たむろしている。
おそらく、転移ポータル(電車)が到着したら、入口に殺到するつもりなのだろう。
Gに人間らしい理性は期待できない。
「なんでこんなに、GAKUSEIが?」
隙間の時間のはずだ。
たとえ、タイミングが悪かったとしても、普段はこんなにいない。
夏休み前でも、こんなに混んではいなかったはずだ。
「イベントでもあったのかな?」
稀にそういうことはある。
そういうときは、信じられないくらいに混む。
しかし、そういった集団のようには見えない。
あくまでも、Gの群れだ。
しかし、そこで気づく。
GはGだが、普段多く見かけるタイプとは異なる。
年代が少し上だ。
「そうか、大GAKUSEIか」
このタイプは、通常のGとは異なる。
4月に大量発生し、次第に数を減らしていく。
そして、夏の直前と直後にのみ、再び大量発生するのだ。
その後は、冬の前後にも同じ現象が発生する。
「大GAKUSEIは、夏休み前の試験と、夏休み明けの最初の講義だけ、出ることが多いんだよなぁ」
ちょうど今はその時期なのだ。
そのことをすっかり忘れていた。
「座っていくのは無理そうだなぁ」
災難だとは思うが、これも一時期の現象だ。
我慢するしかない。
わらわらと動き回り、転移ポータル(電車)が到着すると同時に殺到するのを見るのは、見ていてストレスが溜まる。
精神攻撃を狙っているのではないかと思うほどだ。
だが、Gにその意図はない。
そんなことを考える知能すらないからだ。
本能のままに行動して、その結果として周囲に被害をまき散らす。
そういう存在なのだ。
「まあ、毎日通うのが大GAKUSEIの正しい姿だから、本来はこのくらい混むんだろうけど」
いっそ、常にGが大量発生しているのであれば対策が取られるのだろうが、一時的な現象のせいで、それがされていない。
それが現状だった。
「普段は姿を見せないのに、たまに姿を見せて迷惑をかける。1体見かけたら、その数十倍の個体がいる」
まるで、アレのようだ。
そう言えば、アレもGと呼ばれていたはずだ。
「G・・・怖ろしい存在だ」
その脅威に慄きながら、転移ポータル(電車)に乗り込んだ。
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