第151話 太陽

 太陽。


 知らないものは、いないだろう。

 空に輝く天体だ。

 地球の約半分を照らす。

 その膨大なエネルギーなしに、地球上の生物は生きてはいけない。


 夜行性の動物だっているだろう。


 そう言うものもいるかも知れない。

 だがそれは、昼間に地表が温められていることが前提なのだ。

 昼間に地表が温められていなければ、地球は極寒の世界。

 夜行性の動物だって生きてはいけない。


 太古には神話にも出てくる。


 神様がへそを曲げて隠れたことで、陽の光が差さなくなった。

 その結果、世界が滅びかけたのだ。

 それくらい、太陽という存在は重要なのだ。

 いや、もはや重要というレベルすら超越している。

 なくてはならない存在だ。


「だから、仕方ないんだ」


 目の前には太陽。

 それが、さんさんと輝いている。


「これは、仕方がないことなんだ」


 火に引き寄せられる蛾のように、歩を進める。

 もはや、逆らうという発想すら沸き上がってこない。

 本能だ。

 本能が、それを求めている。


 目の前にあるのは、直径30センチほどの太陽。

 小さいが本物だ。

 イミテーションなどではない。

 その証拠に、どころどころに黒点の存在も確認できる。


「誰だって、こうするだろう」


 黄色く輝く太陽に、手を伸ばした。


☆★☆★☆★☆★☆★


「お兄ちゃんってさ、懲りるってことを知らないの?」

「だって、黄色だったんだぞ。買うしかないだろう」


 自宅に戻った後、プチデビル(女子高生)を召喚した。

 姿を見せるなり言ってきたのが、今の台詞だ。


「別に買うなとは言わないけど、小玉でいいじゃない」

「小玉もあったけど、大きい方がいいじゃないか」


 衝動的な行動だった。

 だが、後悔も反省もしていない。

 誰だって、同じ行動をするはずだ。


「この前と言い訳の理由が違うじゃない」

「レアアイテムという意味では一緒だ」


 昔はよく見かけたのだが、最近は見かけることが少なかった気がする。

 だから、つい懐かしくなった。


「ポケ○ンでレアキャラがいたら捕まえるだろう?」

「それとこれとは違う気がするけど」


 そんな違いなど細かいことだ。

 重要なのは心惹かれたかどうかだ。


「それで、これは糖度が高いの?」

「いや、確か、あんまり変わらなかったとはずだ」


 糖度の高さが全てじゃない。

 それが分かっていないとは。


「なんか、ムカッとする視線を向けられている気がするけど」


 哀れみの視線に気づかれたのか、そんなことを言ってくる。


「それで値段は?」

「普通」


 だから、文句を言われる筋合いはない。

 そのはずだ。


「味は?」

「普通」


 だが、プチデビル(女子高生)の視線は冷たい。


「お兄ちゃんってさ。安いからって大量に買って、賞味期限を切らすタイプでしょ?」


 むぅ。

 母親に言われているような気分だ。

 それか、気を効かせたつもりで安売り商品を大量に買って、使い切れないと怒られる父親。


「そんなことはないぞ。毎食、こつこつ食べて、賞味期限ギリギリで食べきるタイプだ」

「それ自慢にならないから。それで夏バテで倒れてたら、むしろダメだから」


 言い返せない。


「そう思って、呼んだんだ」


 ダンッ!と勢いよく真っ二つにする。

 そして、ザクザクと切り分けていく。

 黄色く鮮やかな果肉に、黒い種がアクセントになっている。


「ほら、食え」

「見た目が黄色なのは珍しいけど」


 シャク!


「味は普通。甘くておいしいけど」


 シャクシャクと、黄色い果肉が瞬く間に消えていく。


「やっぱり、夏はスイカだな」


 果肉が黄色いスイカはひさしぶりだ。

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