第104話 頂への道

 6人で、ぞろぞろと歩く。

 前衛3人、後衛3人の陣形だ。

 このままモンスターと戦えそうなパーティー構成だが、今日の目的はそれではない。


 ガチャッ。


 扉を開ける。


 カチ・・・カチ・・・カチ・・・


 秒針が刻む音が響いている。

 その音を散らすように、全員で中に入る。

 時計を見る。


 12時50分。


「まだ、少し時間があるな」


 年長者である課長が呟く。

 予定の時刻通りに開始するということだろう。

 それまでは、くつろいでいていいという暗黙の意味も含まれている。


 金。

 休息。

 そして、やりがい。


 これらが適切に供給されない組織は長続きしない。

 そういう意味で、ここは最低限の条件を満たしている。


「いや~、カレー辛かったですね~」


 食堂から会議室に戻ってきた。


☆★☆★☆★☆★☆★


「最近、カレールーやレトルトカレーも種類が増えましたよね~」

「缶詰なんかもあるみたいだしな」


 いな○のタイカレーとか。


 休憩時間は13時00分までだ。

 コーヒーを飲むには時間が短い。

 後輩と雑談する。


「お家で食べるカレーだと、なにが好きですか~」

「やっぱり、バーモント○レーかな。最近のスパイスがきいたのも嫌いではないけど、どちらかというと日本的な方が好きかも」


 日本のカレーと、本場のカレーは別物だ。

 どちらが旨いという話ではなく、別の料理として扱うべきだと思う。


「スパイスがきいたのなら、ゴールデン○レーなんかもありますね。わたしは好きです」


 見習い魔法使い(プログラマー:女性)が話に入ってくる。

 彼女はスパイスがきいている方が好みのようだ。

 スパイスのきいたカレーは、ビールなどに合う。

 だからだろうか。


「こくまろ○レーとか、まろやかなカレーにスパイスを混ぜるのも美味しいですよ」


 見習い魔法使い(プログラマー:男性)は、こだわりがあるようだ。

 やはり、カレーはラーメンと同様に、日本の国民食ということだろう。


「それなら、複数のカレールーを混ぜるのも、なかなかいけるぞ」


 課長はセレブな食べ方をしているようだ。

 複数のカレールーを混ぜるのは、お手軽なようでいて、実はコストがかかる。

 少量ずつ混ぜるからといって、少量ずつ売っているわけではない。

 普通のカレールーを買う値段に、混ぜる種類の数をかけた分の金額が必要になる。


 それに、同じメーカーのカレールーでは選択肢が限られる。

 課長もそれで満足はしていないだろう。

 おそらく、複数のメーカーのカレールーを使っているはずだ。


 メーカーの企業努力を無視して、自分好みの味を追求する。

 ともすれば、暴君とも言える行為。

 まさに消費者の特権だ。


『・・・・・ちらっ』


 ここで全員の視線が魔法使い(プログラマー:男性)に向く。

 大した興味があるわけではないが、汚名返上の機会を与えよう。

 そんな視線だ。


「・・・ボン○レーとか」


 それが彼の答えだった。


『・・・・・ふぅ』


 沈黙の後には失望の溜息。

 それが周囲の反応だ。


「な、なんだよ?レトルトだからか?仕方ないだろ、一人暮らしの男なんて、こんなもんだ」

「違いますよ」

「料理をする男もいるってことか?」

「そうじゃないんですよ」


 彼は本当に日本人だろうか。


「カレーとボン○レーは別物じゃないですか」


 彼は、なにを言っているんだ、という視線を向けてくるが、そう言いたいのはこちらだ。


「ボン○レーは、ボン○レーという料理ですよ。カレーやシチューやハヤシライスと同じレベルの料理名です。カレーの種類の1つとして数えるのが、おかしいんです」


 アンパンやクリームパンやメロンパンと、パンという単語を同列視するくらいの、おかしさだ。


「ボン○レーは別格ですよね~」

「あれは元祖であり頂点だな」

「あの味は作ろうと思っても作れないです」

「レトルトの手法だからこそ作れる味だと聞いたことがあります」


 当然のように、他の人間も同意見のようだ。


「そ、そうなんだ?」


 どうやら彼も、自分の間違いに気づいたようだ。


 キーンコーンカーンコーン・・・


 ちょうどそこで、ウェストミンスターの鐘が鳴り響く。

 どうやら、休憩時間が終わったようだ。


「さて、会議を始めるか」


 全員が気持ちを切り替えて、表情を引き締める。

 一人だけ納得いかなさそうな表情に見えたが、きっと気のせいだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る