第100話 乱戦

「今日は記念すべき100回目なので、少し早いですが花見をします」

「なんの100回目なんですか~?」

「それは言えません」

「どのあたりでするんですか?」

「たぶん鶴舞公園あたりです」


 あそこは年中、なんらかの花が咲いているので、桜が早くても花見はできるはず。

 しかも、ポケ○ンが湧き出る古墳がある由緒正しい場所だ。

 なんとなく、ご利益もありそうな気がする。


「各自、東海三県の名物をおつまみに持ってきてください。独断と偏見でランキングを決めます」


 ただ、アルコールを飲んで騒ぐだけでは趣がない。

 せっかくなので、東海三県名物対決だ。


「優勝者には喫茶店のモーニングのゆでたまごが贈呈されます」

「たまに殻をむくのが面倒で、持ち帰る人いますよね~」

「じゃあ、こちらのメンバーも誘っておきますね」


 参加者は課長、自分、後輩、魔法使い(プログラマー)たちだ。


☆★☆★☆★☆★☆★


「まずはこれだ」


 課長が小箱を取り出した。


「コン○ルのエビフライサンドですか。選択の理由は?」

「名古屋っぽいだろう。エビフライが入っていて」

「エビフライって別に名古屋の名物ではないですよね?『えびふりゃー』って言い方が有名なだけで。しかも、実際に言っている場面に出会ったことがないですが」

「む!だが、『金のしゃちほこ』の形に似ていてだな・・・」

「でも、エビフライってだいたい真っ直ぐな形に揚げられていて、そんなに似てないですよね?」

「む、むぅ」


 ちなみに、コ○パルのエビフライサンドは大好きだ。

 できれば、作り立ての熱々をお店で食べたい。


 ・・・・・


「次は、これです~」


 後輩が使い捨ての紙のお椀を手渡してきた。


「伊勢うどんか。選択の理由は?」

「味噌煮込みうどんを超えるタレの黒さ、小倉トーストを超えるタレの甘さ、ういろうを超えるモチモチ感、名古屋メシを超える三重県の名物はこれで決まりです~」

「熱弁してもらったところ申し訳ないけど、それだと名古屋メシよりも謎の食べ物にしか聞こえない」

「えぇ~?おいしいですよ~?」

「いや、味じゃなくて、言い方が・・・」


 まあ、おいしいのは知っている。

 コシの強さにこだわり過ぎた最近のうどんブームに、一石を投じる資格は充分にある一品だ。


 ・・・・・


「思いつかなかったから、これを買ってきた」


 魔法使い(プログラマー:男性)がいかにもお土産といった感じの箱を取り出した。


「うなぎパイですか。東海三県ってお願いしたんですけど・・・まあ、いいです。選択の理由は?」

「なんか、ちょっと前にSNSで話題に・・・」

「それ以上はダメです!」


 突然、なにを言い出すのだ、この人は。


「名古屋には触れてはいけない領域があります。駅で後ろから刺される前に口を閉じてください」

「でも、販売再開されたし・・・むぐっ!」


 怖ろしいことを言いかけた人の口に、うなぎパイを捻じ込んだ。

 そんな表向きのニュースを信じているとは。

 真実は闇の中にあるからこそ、世界は平和で明るいのだ。


 ・・・・・


「じゃ、じゃあ、これは・・・大丈夫でしょうか?」


 なんだか、びくびくしながら、見習い魔法使い(プログラマー:男性)が駅弁らしきものを取り出した。


「天むすですか。選択の理由と・・・どこの名物かを聞いても?」

「なご・・・」

「・・・・・」

「いえ、三重県です」

「合格です」


 とりあえず、握手をしておいた。

 なお、味は言うまでもない。

 だが、個人的にきゃらぶきが入っていないものは本物とは認めない。

 いや、入っていないならまだしも、沢庵が入っていたら失格だ。


 ・・・・・


「最後は、これです」


 トリを飾る品を見習い魔法使い(プログラマー:女性)が取り出した。


「えーっと・・・岐阜県の名物だよね」

「明○ハムです」

「そこ伏字にすると怒られないかな・・・。選択の理由は?」

「ビールにも日本酒にも合うので」

「名物かどうかは関係ない選択基準だけど、まあいいや。そういえば、明○ハムは近所のスーパーで見かけるようになったけど、明○ハムは見かけないなぁ」

「そこ伏字じゃなくした方が怒られると思いますよ」


 ・・・・・


 全ての品が出そろった。

 優勝者は・・・秘密だ。

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