第96話 バーサーカー(外来種)

「お先に失礼します」

「お疲れ様でした」


 ギルド(会社)を出る。


「ふぅ」


 思わず溜息を付く。

 決してクエスト(お仕事)で疲労困憊になったわけではない。

 それほど貧弱ではないつもりだ。

 ではなぜ溜息を付いたのか。

 朝の出来事を思い出したからだ。


 転移ポータル(電車)でバーサーカー(旅行者)に出会ったからだ。

 あれでどうもリズムを狂わされた。

 なにせ逃げ場のない密閉空間だ。

 たとえ物理的なダメージはなくても、精神力がガリガリと削られた。


「今日は早く帰るか」


 そのために、定時にクエスト(お仕事)を終わったのだ。

 だが、どうも嫌な予感がする。

 二度あることは三度あるの諺ではないが、同じことが起こりそうな気がする。


「・・・気にし過ぎかな」


 バーサーカー(卒業旅行に行く旅行者)は朝に移動を開始する。

 今頃は別のフィールド(観光地)にいるはすだ。

 嫌な予感を振り払うように歩き始めた。


「こいつらがいたか・・・」


 予感が的中したのは、転移ポータル(駅)も間近に迫ったところでだった。


★バーサーカー(外国人観光客)が現れた★


☆★☆★☆★☆★☆★


「(くっ!こいつら!)」


 武器(キャリーバック)を手に階段を下りてくる。

 それはいいのだが、横一列に並んでだ。

 知らない土地ではぐれないように、互いに視界に入るように歩くのは分かる。

 まだ、人間に近い思考だ。

 だが、それが起こす被害を考慮しないところが、こいつらがバーサーカーたる所以だ。


 カツッ・・・カツッ・・・カツッ・・・


 武器(キャリーバック)の重さも手伝い、重量感のある足音を響かせながら下ってくる。

 足を踏み外さないようにだろう。

 その歩みは、ゆっくりだ。

 それが逆に、壁が迫ってくるかのような雰囲気を醸し出している。


「(逃げ場が・・・ない!)」


 こいつらの武器(キャリーバック)は頑丈だ。

 ときには銃弾すら遮る。

 それが、こちらを遮るように近づいてくるのだ。

 その様子は、こちらをゆっくりと圧し潰す、拷問器具に等しい


「(なんとか隙間に!)」


 賭けに出た。

 階段を不安定に斜めに歩きながら壁際まで移動する。

 ここで僅かな隙を狙う。

 うまくすれば、すり抜けられるはずだ。

 だが、失敗すれば、轢かれたカエルのような姿をさらすことになるだろう。


 つつっ・・・


 背中を冷や汗が伝う。


 ぐいっ。


 腕が疲れたのか、バーサーカーの1体が武器(キャリーバック)を逆の腕に持ち替えた。

 チャンスだ。


 カツカツカツ・・・するり・・・


 階段を速足になる直前の速度で駆け上り、なんば歩きに近い体捌きですり抜ける。

 見たか。

 これが日本の底力だ。


 カツカツカツ・・・


 イメージ通りに身体を動かせたことに満足しつつ、転移ポータル(駅)への道を進む。


☆★☆★☆★☆★☆★


「(・・・・・・・・・・がくっ)」


 転移ポータル(駅)まで後一歩というところで、再びバーサーカーと遭遇した。


 うろうろ・・・ぐるん・・・うろうろ


 道を遮るように、不規則な動きで、左右に移動している。

 知能が低く不規則に動くことで、逆に高度なフェイントのようになっている。

 駄目だ。

 せめて少しでも行動原理を把握しないと、これはすり抜けられそうにない。

 なんであんな不規則な動きをしているんだ。


 ・・・ちらっ・・・てくてくてく・・・ちらっ・・・


 しばらく観察していると、どうやら2箇所を見ているようだ。

 いったい何を。

 視線を辿る。


 12・・・11・・・10・・・

 和食・・・洋食・・・中華・・・


 どうやらエレベーターの現在地ランプと、上の階にあるレストラン街の案内板を、交互に近づきながら見ているようだ。

 ちょうど道の両側の壁に位置している。

 そういえば、そろそろ夕食時か。


「・・・・・」


 ちーん・・・ぞろぞろ・・・


「・・・はぁ」


 ここは素直にバーサーカーが立ち去るのを待った。

 不要な接触をすることもないだろう。

 やつらは狂暴だ。

 少しの無駄な時間と引き換えに、安全な通行を確保した。


「今日は早く寝よう」


 妙に疲れた。

 サラリーマンはクエスト(お仕事)以外でも気を抜けない。

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