第91話 雷の魔法
雷と言われて思い浮かべる季節はいつだろう。
多くの人は夏を思い浮かべるのではないだろうか。
だが、実は冬にも雷は多い。
そして、冒険者(サラリーマン)は、さらに身近に雷と戦っている。
「・・・・・」
朝。
ギルド(会社)に入り、フロアの手前まで来たときに、ソレは現れた。
思わず立ち止まる。
予想していた敵ではある。
だが、だからと言って、雑魚というわけではない。
手強い敵だ。
★雷の魔法使い(ドアノブ)×1が現れた★
☆★☆★☆★☆★☆★
ピクッ。
雷の魔法使いに触れようとして躊躇う。
奴らは狂暴だ。
こちらに敵意があるかどうかなど関係ない。
何気なく触れただけで、こちらに奇襲をしかけてくる。
バチッ・・・っと。
警戒していても同じだ。
気配を消して触れようが、奇襲をかけて触れようが、お構いなしに攻撃してくる。
バチッ・・・っと。
こいつらへの対策は簡単だ。
覚悟を決めて触れることだ。
バチッ・・・っと来るのは確実だ。
多少のダメージは受けるだろう。
だが、それさえ耐えてしまえば、こちらの勝ちだ。
「・・・・・」
ぐぐっ。
身体を駆け抜けるであろう衝撃を予想し、覚悟を決めながらも、ゆっくりと手を伸ばす。
奴らは細いところに攻撃を仕掛けてくる習性がある。
それに、冒険者(サラリーマン)にとっても、指先は弱点だ。
感覚器官が密集した指先に攻撃を受ければ、脳まで響く衝撃が待ち受けている。
ぐっ。
少しでも衝撃を和らげようと、指先ではなく掌で触れるように、伸ばした腕の向きを変える。
ぱちっ!
「(ぐわっ!)」
雷の魔法(静電気)が来た。
駆け巡る衝撃に悲鳴を上げそうになるが、堪えた。
この程度のダメージで声を上げていては、冒険者(サラリーマン)としての沽券に関わる。
ぐいっ。
その勢いのまま、雷の魔法使いを捻る。
もはや、こいつに反撃するだけの力は残されていない。
容易く退けて、道を確保することができた。
「おはようございます」
朝の戦いは終わった。
☆★☆★☆★☆★☆★
「(マズイ!)」
昼を過ぎた頃だった。
緊張感が走る。
「(昼休みにコーヒーを飲んだせいか!しまった!)」
だが、希望もある。
この時間は他の冒険者(サラリーマン)の出入りも多い。
もしかしたら、戦闘を回避できるかも知れない。
僅かな希望を胸に、そこへ向かった。
・・・・・
「(誰も通らない・・・か)」
いや、これでよかったのだ。
他人がダメージを受けることを期待して、自分が楽をしようなど、冒険者(サラリーマン)のすることではない。
覚悟を決める。
ぱちっ!
「(くっ!)」」
雷の魔法使いからダメージを受けながら、フロアの外で出た。
・・・・・
ふきふき。
手を洗った水滴をハンカチで拭いながら、フロアの前まで戻る。
「あ、先輩、休憩ですか~?」
「いや、トイレに行ってきた」
「そうですか~」
ぐいっ。
「!」
後輩が何気ない動作で雷の魔法使いを捻り、押しのける。
ダメージを受けた様子はない。
「・・・静電気が来なかった?この季節、ドアノブに触るのが怖くて」
「わたしは感じたことはありませんね~。服装のせいか静電気が溜まらないみたいです~」
「そうか。羨ましい」
「先輩、セーター着ているからじゃないですか~?」
その可能性はある。
しかし、この季節、この防具は手放せない。
他の防具とは、防寒性が違うのだ。
「そうなのかな?でも、まだ寒いしな~」
「もうちょっとの辛抱じゃないですか~。もうすぐ春ですし~」
とりあえず、今回は後輩のおかげで戦闘を回避することができた。
そのことに感謝しつつ、フロアに戻った。
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