第84話 紅い果実(中)
大航海時代、それは悪魔の実と呼ばれていた。
紅い見た目が毒を連想させ、それを食べることは、勇気の証明とされていた。
現代においても、それは連綿と受け継がれている。
初めてそれを食べた者の反応は2種類に分かれる。
適合するか、適合しないかだ。
適合した者は恩恵を授かるが、適合しなかった者は拒否反応を示す。
特に子供は未知の感覚に拒否反応を示すことが多い。
しかし、そんな子供たちも、成長するにつれ、拒否反応を克服する者も現れる。
彼ら、彼女らは、気づくのだ。
その恩恵を諦めるのは、大いなる損失なのだと。
「いただきます」
「いただきます~」
「・・・いただきます」
今日はギルド(会社)の食堂で、後輩と見習い魔法使い(プログラマー:女性)と一緒になった。
☆★☆★☆★☆★☆★
どうも、見習い魔法使い(プログラマー:女性)の元気がない気がする。
「どうかした?」
「・・・いえ、なんでもありません」
「そう?」
まあ、食欲がないわけではないようだ。
少し気になるが、しつこく聞くこともないだろう。
今日のメニューは全員、違うものだった。
自分・・・A定食
後輩・・・B定食
見習い魔法使い(プログラマー:女性)・・・C定食
「そういえば~」
後輩がプチトマトを口に入れながら言い出した。
「子供の頃、トマトって食べられましたか~?」
「親が好き嫌いに厳しかったから食べられたよ。でも、あのゼリー状の部分が苦手な子供って多いよな」
実は自分も食べられるというだけで、少し苦手だ。
もう一人はどうなのだろう。
視線を向ける。
びくっ。
なぜか、怯えたように身体を振るわせる見習い魔法使い(プログラマー:女性)。
「・・・違うんです」
「え、なにが?」
プチトマトを口に入れながら尋ねる。
「プチトマトなら食べられるんです!」
「あぁ・・・」
なんとなく察した。
「トマトジュースも飲めます!」
「あぁ、うん」
ギルド(会社)の定食には野菜がついてくる。
主に千切りキャベツとトマトだ。
たまに、ミックスベジタブルに変わることもある。
「だって、ずるいじゃないですか!?なんでA定食とB定食はプチトマトで、C定食はスライストマトなんですか!?」
「うーん・・・」
「スライスする手間がない分、プチトマトの方が楽なはずじゃないですか!?なんで、わざわざ、スライストマトにするんですか!?」
「いや、プチトマトもへたを取ったりする手間があると思うけど・・・」
ようするに、トマトが苦手だと。
理由はゼリー状の部分のようだ。
「まあ、苦手なら残しても・・・」
「ダメです~」
言いかけたところで、後輩から待ったがかかった。
「残したりしたら、りこぴんが悲しみます~」
「わ、分かってるわよ」
りこぴん?
あぁ、リコピンか。
愛称みたいな言い方をするから、一瞬、分からなかった。
リコピン・・・活性酸素を減らす働きがある栄養素
見習い魔法使い(プログラマー:女性)は、後輩がそう言い出すのを予想していたのか、残すということは考えていないようだ。
「・・・・・」
じーっ。
なんとなく、自分と後輩の視線が、トマトを箸で持ち上げる彼女に集まる。
ちらっ。
ふと、彼女の視線がこちらを向く。
「・・・・・あーん」
えーっと。
食べろと。
女性から食べさせてもらうなど喜ぶところだろうが、食堂でどんな羞恥プレイだ。
そこまで食べるのが嫌なのか。
「む~」
人に食べさせようとしているのが気に入らないのか、後輩は不機嫌そうだ。
「わたしじゃ、ダメですか」
「・・・・・」
ぱくっ。
上目遣いでお願いされたら、男の本能が断るのを許さない。
反射的に食べてしまった。
「ありがとうございます」
「む~・・・・・りこぴんに言いつけてやる~」
まあ、食育が大切なのも分かるのだが、そこまで厳しくしなくても。
それより、りこぴんって、やっぱり愛称なのか。
「先輩って子供に甘い父親になりそうですよね~」
「子供が嫌いなものを食べてあげたりしそうだよね」
否定できない。
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