第76話 諸刃の剣
冒険者(サラリーマン)が持つ武器(スマホ)は、本人が手に入れる場合と、ギルド(会社)が支給する場合がある。
いずれの場合も、使いこなすには、高い技術と強い意志が必要になる。
生半可な覚悟で武器を振るえば、その刃は自らを傷つけることさえある。
クエスト(お仕事)を軽々とこなす熟練の冒険者であっても例外ではない。
ほんの僅かな油断で、自らの武器により、ダメージを追うことがある。
信念を持つものだけが、正しく武器を使いこなす。
「・・・・・」
「・・・・・」
今日のクエスト(お仕事)は、いつもより激しい戦い(残業)だ。
後輩と共に戦線を一時離脱し、天空(上の階)にある補給基地(リフレッシュルーム)に向かうべく、転移ポータル(エレベーター)を待っている。
カツカツカツ・・・
そこに、何者かの気配が近づいてきた。
★冒険者A(サラリーマン)×1が現れた★
ポチポチポチ・・・
その冒険者は、武器(スマホ)を操作しながら、自分と後輩の近くで立ち止まった。
増援(同じ行き先)か?
そう考え、首を左右にほぐす振りをして、さりげなく様子を伺う。
すると、彼は荷物(カバン)を携えた、いでたちをしていた。
クエスト(お仕事)の途中で抜き出してきたようには見えない。
これから帰還するのではないだろうか。
もし、そうなら、ギルド(会社)を出ることになる。
行き先が逆(下の階)だ。
ちらり。
転移ポータル(エレベータ)は、上の尖った紋章(▲)が、煌々と輝いている。
下の尖った紋章(▼)は、深い暗闇に包まれている。
「・・・・・」
「・・・・・」
もしかしたら、自らの犯している過ちに気づいていないかも知れない。
同じギルド(会社)に所属する仲間だ。
忠告すべきだろうか。
そんな考えが頭をよぎる。
ちらっ。
ちらっ。
後輩に視線を向けると、ちょうどあちらも視線を向けてきたところだった。
視線を交わした刹那、冷静になる。
いや。
まさか、そんなことはあるまい。
行き先を示す紋章は、目の前だ。
きっと、ポーション(コーヒー)でも飲んで一服してから、帰還するつもりなのだ。
危うく余計なことをするところだった。
ポチポチポチ・・・
その冒険者は、あいかわらず武器(スマホ)を操作している。
しばし、ときが流れる。
チーンッ!
転移ポータル(エレベーター)が到着した。
自分と後輩が乗り込む。
そして、すかさず、目的地である『12』と書かれた紋章を押す。
一息遅れて、その冒険者も乗り込んできた。
・・・ぐいん・・・
転移ポータル(エレベーター)内部の空間が周囲と隔絶され、重力が増したような感覚が身体を襲う。
「あ、上行きだった」
そんな呟きが静かな空間に響き渡る。
ポチッ
手が伸びたかと思うと、『1』と書かれた紋章が押される。
・・・ぐいん・・・
しかし、一度動き出した流れは止まらない。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
不思議な空気が空間を満たす。
声を上げる者はいない。
もし、その冒険者が恥知らずな人間であったのなら、『5』や『6』を押しただろう。
そうすれば、流れは止まる。
しかし、それは、こちらに対する敵対行動(迷惑行為)だ。
それが分かるくらいの判断能力は、持っていたらしい。
チーンッ!
自分と後輩は転移ポータル(エレベーター)から降りる。
その冒険者だけが、その場に留まる。
ガーッ・・・
過ちを犯した冒険者を閉じ込める牢屋のように、転移ポータル(エレベーター)が堕ちていく。
☆★☆★☆★☆★☆★
「あの人、やっぱり、下に行きたかったみたいですね~」
「そうみたいだな」
やはり、後輩も気づいていたらしい。
「声をかけるか迷ったんですけど、リフレッシュルームで休憩してから帰る人もいますしね~」
「スマホを操作していて気づかなかったみたいだな」
立ち止まってはいたが、歩きスマホの一種だろう。
そもそも、立ち止まる前から、スマホを操作していた。
「まぁ、歩きスマホは失敗に繋がるっていう教訓になったと思えばいいんじゃないかな」
「そうですね~」
刃は自分を守る道具になると同時に、自分を傷つける凶器にもなる。
冒険者は常に刃の向きを意識しなければならない。
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