第68話 借
ザシュ・・・ズバッ・・・シュババババ・・・
「ふぅ」
「だいぶ、うまくなったね」
プチデビル(女子高生)との特訓が続いている。
最初に脅されたので少し不安になったが、ようは敵の攻撃を避けて、こちらの攻撃を当てればよいのだ。
「いきなり、フレーム回避ができるとは思わなかったけど」
「レトロゲーマーをなめるなよ」
ドット絵で作られたレトロゲームでは、ドット数を計算してキャラを操作することにより、当たり判定を回避していた。
さらに上級者になると、判定処理のタイミングを見切って、明らかにアウトのタイミングをすり抜けていた。
フレーム回避とは、その進化版のテクニックということだろう。
「別になめてはいないけど、レトロゲームしかやったことがない人が、いきない最近のゲームについていけるとは思わなかった」
「グラフィックが綺麗というだけで、難易度が昔と大きく変わったわけじゃないだろう。子供が遊ぶものだというのは変わらない」
「なるほどねぇ」
なにやら感心された。
しかし、プチデビルは不適な笑みを浮かべた。
「でも、まだ基本ができるようになったってだけだよ?」
「むっ!」
挑発するようなセリフに闘争心が沸き上がる。
しかし、このゲームには直接対戦はない。
「応用を見せてあげるよ♪」
小さい画面では見づらいので、パーティーを組んで、こちらは見学に専念することになった。
討伐時間を腕前を見せつけるつもりのようだ。
「お手並み拝見といこうじゃないか」
☆★☆★☆★☆★☆★
「・・・・・」
「どう?」
討伐時間は約半分。
確かに、やりこんだ時間の差はあるだろう。
しかし、納得がいかない。
「なんか、待っている場所にモンスターが来ていなかったか?」
何もいないところで武器を振るい始めたと思ったら、ちょうど武器を振るうタイミングで、モンスターがそこに表れた。
そして、モンスターが攻撃するころには、その場から移動している。
回避らしい回避もせず、一方的にモンスターにダメージを与えていった。
「そうだよ。自分の位置を調整して、モンスターの動きを誘導したんだよ」
回避しないから、その分の時間が短縮できる。
ダメージを受けないから、回復する時間が短縮できる。
ひたすら攻撃を当て続けるから、当然、討伐時間も短い。
「凄いことは凄いけど・・・なんかずるい。攻略を見ながらゲームしているような気がする」
反射神経や一瞬の判断を駆使して、手に汗握りながらモンスターと戦う、アクションゲームの醍醐味が味わえない気がする。
「なにを言っているの、お兄ちゃん。このゲームは、モンスターの動きの法則を解析して、効率のいいダメージの与え方を競う、シミュレーションゲームだよ。攻略方法を事前に準備するなんて当たり前じゃない」
「あれ?そんなゲームだったっけ?」
ジャンルを勘違いしたのだろうか。
それとも、最近のゲームは楽しみ方が変わったのだろうか。
しかし、言われてみれば、ヒゲオヤジを操作してシイタケやカメを虐待するレトロゲームでも、極めたプレイヤーはステージの全てを覚えていて、目を閉じてクリアできると聞いたことがある。
それと似たようなものか。
「まあ、今のはタイムアタックするときのやり方だから、パーティプレイするときは別のやり方があるんだけど」
「モンスターの強さが変わるとか?」
「強さというか・・・複数のプレイヤーがいるから、それに影響されてモンスターの動きが変わったりとか」
なるほど。
モンスターの動きが予測しづらくなるということか。
そちらの方がアクションゲームっぽくて好みだ。
「他のプレイヤーに攻撃を当てちゃって、邪魔しないように気をつけなきゃいけなかったりとか」
こちらは、攻略方法というより、パーティプレイするときのマナーか。
この辺りは、レトロゲームでも似たようなことがあったので分かる。
邪魔するようなプレイを繰り返すと、リアルファイトに発展することもある。
「あとは、最初と最後の挨拶。それと、何かするときの掛け声や、失敗したときの謝罪なんかも忘れちゃいけないよ」
そんなルールもあるのか。
レトロゲームのパーティープレイは、ゲーム機に繋がっているコントローラーで操作するので、人間が同じ場所にいた。
最近のゲームはネットワークを介するので、人間が異なる場所にいることもある。
その辺りの事情から生まれたルールか。
「特に重要なのは最後のルールだよ。多少、下手なのは多めに見てもらえるけど、礼儀を守らないとブラックリストに登録されて、パーティーに入れてもらえなくなるから」
礼儀を守らないと嫌われるのは現実と一緒か。
しかし、ブラックリストなんてものもあるのか。
一人でやっていたら知らずにいただろう。
危ないところだった。
「わかった。やってみる」
「パーティープレイの練習は付き合うよ」
まだまだ、特訓は続く。
プチデビルは予想以上にコーチの役割を果たしてくれている。
すっかり、借りができてしまった。
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