第58話 聖戦

 1月3日。

 冒険者(サラリーマン)の休息も終盤だ。


 戦い慣れた冒険者と言えど、得意なフィールドと苦手なフィールドがある。

 目の前では、今まさに戦いが繰り広げられているが、いち早く戦線離脱してしまった。


「・・・コーヒーでも飲んでる」

「わたしは、もうちょっと見てるから」


 プチデビル(女子高生)に断りを入れてから、戦いの場を離れる。

 この場では、彼女の方が戦力になっている。

 これは目的を持った人間だけが戦い抜くことができる、いわば聖戦だ。


 そんなわけで初売りにやってきた。


☆★☆★☆★☆★☆★


 コーヒーを飲んでいると声をかけられた。


「あけましておめでとうございます」


★見習い魔法使い(プログラマー:女性)×1が現れた★


 予想外のところで思わぬ人物に出会った。


「あけましておめでとう。どうしたの、珍しい?地元じゃないよね?」

「遊びにきていて」

「あ、先輩じゃないですか~。あけましておめでとうございます~」

「あけましておめでとう。なるほど」


 コーヒーを2つ持って、後輩も現れた。

 よく考えたら、珍しくもなかった。

 この二人は仲が良かったな。


「もう少しで休みも終わりですね~」

「今日はどうしたの?」

「初売りにきました~」

「福袋をたくさん買っちゃいました」


 戦利品を見せてくる。

 どうやら二人は、自分では耐えられなかった戦場を、戦い抜いてきたらしい。

 ギルド(会社)のクエスト(お仕事)以外では、年下である彼女たちに戦闘能力で負けそうだ。


「わたしは、服の福袋とお菓子の福袋と・・・ハムの福袋です~」


 服は女性らしいし、お菓子は予想できたが・・・ハム?

 見せてくれたのだが、食料品売り場に売っているような薄切りではなく、塊だった。


「たぶん、お歳暮を解体したものじゃないかと思います」


 こちらの視線に気づいたのか、見習い魔法使い(プログラマー:女性)が説明してくれる。

 確かに、そういうのを売っているのを見たことがある。

 年末に売れ残ったのを、新年に売り切ろうとする店側の戦略だろう。

 普通に買うより安いので、文句はないが。


 そういえば、福袋の『福』とは、誰にとっての『福』なのだろう。

 普通に考えれば、買う側にとっての『福』だが、余り物を売り切れるという意味では、売る側にとっての『福』なのかも知れない。

 もっとも、『余り物には福がある』という言葉もあるくらいだし、店側もあえて余り物を詰めて『福』を配っている可能性もある。


 ・・・・・


 それは無いかな。


「わたしは、同じく服の福袋とお菓子の福袋と・・・お酒の福袋です」


 今度は見習い魔法使い(プログラマー:女性)が見せてくれる。

 ちなみに、お酒はワインやシャンパンではなく、日本酒の飲み比べセットだった。

 720mlの5本セットだ。

 しぶい。

 そして、お菓子というよりは、


「おつまみセットですよね~?」


 だと思った。


「・・・二人でかぶるのもダメかなって思って・・・」


 ちょっと恥ずかしそうだ。

 言い訳しなくても、別に何も言わないが。


「最近は若い女性も日本酒を飲むって聞くよね。オシャレな日本酒もあるみたいだし」

「そのとおりです」


 フォローのつもりというわけではなかったのだが、話題を振ってみたら、食いつきがいい。


「日本人なら、やはり日本酒です。焼酎も悪くないですが、あれは割って飲むので、個人的には日本酒の方をオススメします。最近の若い人で日本酒を割って飲む人がいますが、そういう人は日本人じゃありません」


 やたらと饒舌だ。

 こだわりもあるようだ。


「よく日本酒の評価でフルーティって書いてあるけど、あれよく分からないんだけど。日本酒の原料って米だよね」


 ちょっと興味があって聞いてみた。

 日本酒好きには、どう聞こえるのだろう。


「ええ。焼酎は芋、麦、米なのがあるので、フルーティという評価も許容範囲ですが、日本酒をフルーティと評価する人間はアホです」


 アホとまで言い切った。


「日本酒は米という原料で、甘口、辛口や味の違いを出す芸術品ですが、果物を使って違いを出しているわけではありません。語彙力が低いからといって、米の深みを果物に例えるのは、アホの所業です」


 同意できるところはあるのだが、かなりの偏見な気がする。

 酔っ払っているのだろうか。


「でも、よくビールも飲んでいるよね~」

「あれは、酔うための飲み物です。味わうなら日本酒です」

「いや、ビールも色々味の違いがあると思うけど」


 やっぱり、酔ってるだろ、コレ。

 変なスイッチを入れてしまったようだ。

 こっそり後輩に聞いてみた。


「そういえば、日本酒を試飲していました~」


 とりあえず、車の運転だけはさせないように、言い含めておいた。

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