第30話 首都
「・・・というわけで、お客様にデモをするから、支援を依頼したいそうだ」
ギルド(自社)に到着したら、朝から課長から呼び出された。
用件はクエストの指名依頼だ。
過去に担当したクエスト(システム開発)の派生クエスト(次期システムの売り込み)らしい。
今回担当はしないが、応援を依頼された。
クエストの内容は問題ないが、問題は場所だ。
龍皇(流行)という神を信仰し、拝謁のために毎日のように行列を作る人種が生息する、新興宗教に支配された都市、首都(東京)だ。
魔法の国と言われる自治領(ランド)が、首都の名を冠しながら別の都市にあるのは、遷都を企てる者たちが暗躍した結果と言われている。
現地のギルド(支店)のパーティーに合流して、クエストをおこなう。
今回は日帰りだが、気を引き締めなければならない。
☆★☆★☆★☆★☆★
「先輩、週末ってお暇ですか~?」
「今朝、ちょうど出張の作業指示を受けたところ」
「そうですか~・・・大変そうですね~・・・」
「お土産買ってくるよ」
☆★☆★☆★☆★☆★
転移ポータル(東京駅)に到着した。
ここから、しばらく歩いて、現地のギルド(支店)に向かう。
出口を間違えないように注意しながら、転移ポータルの外に出ようとする。
がやがや。
人が縦、横、斜め、あらゆる方向へ歩いている。
人々は不思議とぶつかることが無い。
幼少の頃から洗脳でも受け、統一された意思のもと、行動しているのだろうか。
びくっ。
危うくぶつかりそうになる。
屋外でもないのに、目的地まで進むのが困難だ。
ダメだ。
別の都市からきた人間には難易度が高い。
信号機のような文明の利器は無いのだろうか。
きょろきょろ。
周囲を警戒しながら、慎重に歩を進める。
屋内を通り抜け、屋外に出るまでに、予想以上に時間がかかってしまった。
さすが首都(無駄に人が多い街)。
現地に到着してすぐに、洗礼を受けた。
☆★☆★☆★☆★☆★
「今回はよろしくお願いします」
やっとの思いでギルド(支店)に到着した。
現地のパーティーメンバーと挨拶を交わす。
午前中は作戦会議。
クエスト(お客様へのデモ)は午後からだ。
「昼飯を食べにいきましょう」
昼飯はカフェメシと呼ばれる新興宗教(流行)の料理だった。
旨いことは旨いのだが、現地でしか食べることができないといった、ありがたみは無い。
それほど感動は覚えなかった。
いにしえの時代から存在する店(老舗)であれば、驚きに出会う可能性はあるが、今回はその機会に恵まれなかった。
☆★☆★☆★☆★☆★
午後からはクエスト(お客様へのデモ)だ。
「お待たせしました」
★ベンチャー(起業家)×1が現れた★
ピクリとも変化しない仮面のような笑顔を浮かべている。
その瞳は笑っていない。
こちらの心を見透かすかのような、深い闇を携えている。
「本日はご足労いただき、ありがとうございます。それでは説明を始めさせていただきます」
パーティーメンバーが攻撃(デモ)を繰り出している。
「こういうことはできないですか」
★ベンチャー(起業家)はカウンターを狙っている★
攻撃を受けるたび、相手は反応を見せている。
一見、攻撃が効いているように見える。
だが、以前、似たような相手と対戦したことがある自分には判る。
あれは、こちらの攻撃を見切ろうとしている。
『弱点を付いて値下げ交渉 OR アイデアだけ入手して自分の会社で開発』だ。
しかし、今回のパーティーメンバーは、まだ若いようだ。
攻撃(機能の説明)に必死で、そのことに気づいていない。
攻撃(質問)に反撃(回答)するときの駆け引き(公開情報の取捨選択)までは気が回っていないようだ。
援護しようと機会を伺っていたのだが、こちらにターンを明け渡すことも忘れているようだ。
☆★☆★☆★☆★☆★
「本日はありがとうございました」
パーティーメンバーが戦闘を締めくくる。
結果(契約する/しない)が出るのは数日後だ。
しかし、自分にはクエスト失敗の可能性が高いことが予想できた。
結局、最後まで援護する機会は訪れなかった。
強引にでも前に出ればよかっただろうか。
自分もまだまだ未熟ということだろう。
日帰りだが、後輩にお土産を買うと言ったことを思い出した。
首都の名を冠し、黄色い果物の形をした、銘菓を購入した。
「へー、東京ばな奈ってチョコ味やメープル味もあるんだ」
今回のクエストの唯一の収穫だ。
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