第25話 紅い悪魔

 秋と言われて思い浮かべるものは何だろう。


 食欲の秋

 読書の秋

 スポーツの秋


 人によって、それぞれだろう。

 また、紅葉なども秋の楽しみの1つだろう。

 だが、自分は紅葉と聞くと気が重くなる。


★紅い悪魔(秋の花粉)×∞が現れた★


 春はなんともない。

 なぜか秋にだけ花粉症の症状が出る。

 鼻水は出ないのだが、目が赤くなる。


「つらそうですね~」


 後輩が気遣ってくれる。

 なんとなく泣かされたのを慰められているようで嫌だ。


「まあ、冬になれば症状が治まるから、それまでの辛抱なんだけど」


 喉や鼻ならマスクをするのだが、目だから困る。

 もっと酷ければ、花粉が入らないような特殊なメガネでもするのだが、そこまでではない。

 こまめに目薬をさして凌いでいる。


「紅葉でも見に行ったら、目もすっきりするんじゃないですか~。一緒に行きましょうよ~」

「症状が治まったら、行きたいなぁ」


 花粉が飛び交っている秋の間は無理だ。

 つまり、行けない。


「重症ですね~」


 はぁ・・・


☆★☆★☆★☆★☆★


 モンスター(お客様)との戦闘準備(進捗報告)のために、魔法使い(プログラマー)たちのもとを訪れる。


「進捗に遅れはありません」

「ウイルス騒ぎの影響が無さそうで安心しました。打ち上げ事項などはありませんか?」

「大丈夫です」


 淡々と打ち合わせが進んでいく。

 順調なのはいいのだが、なにかいつもより、よそよそしい。

 いつもは、世間話くらいするのだが。


「打ち合わせは以上でよろしかったでしょうか?」

「はい」


 どうも、気遣われている気がする。


 ・・・・・


 えっと。

 もしかして。

 目が充血しているから、辛いことでもあったと思われている?

 いやいや。

 誤解だ。


「最近、カエデも紅くなってきましたね」

「はぁ・・・そうですね」


 なぜ、親しい相手に、こんな時候の挨拶みたいなことを。


「紅葉を見に行きたいんですけど、花粉症がひどいんですよ」

「秋に花粉症ですか?珍しいですね」

「そうでもないですよ」


 そうなのだ。

 花粉症と言えば春だが、実は秋にも花粉症は多いのだ。


 ようやく、いつもの雰囲気になってきた。

 話していると、やはり涙ぐんでいたと思われていたようだ。

 大人が泣くのは、よっぽどのことだ。

 そりゃ、気遣われもする。


☆★☆★☆★☆★☆★


 はぁ・・・


 戻ってきたところで、思わず溜息が出る。


「大変そうですね~」


 なにかを察したのか、後輩が慰めてくる。

 今度から打ち合わせするときは、最初に世間話ついでに説明した方がよさそうだ。

 なぜ、花粉症というだけで、こんな手間を。


 世間には、花粉症が原因で鬱病になる人もいるという。

 ひどい場合には、自殺する人までいるという。


 自分はそこままではないが、気をつけよう。

 やはり、花粉が入らない特殊メガネをかけた方がいいだろうか。

 仰々しくて気が引けていたのだが。

 ちょっと、本気で迷う。

 試しに調べてみた。


 あれ?


 わりとオシャレなメガネもあった。

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