8月27日-1-

「ご・・・さん」


な、なんだろう。

体の節々が痛い。


「正護さん!」


名前を呼ばれ僕は目を開けた。

そこには、無表情で僕を見つめる芹香がいた。


せ、芹香が僕を起こした??


がばっと僕は起き上がった。


「きゃっ!」


「いっつ・・」


勢いよく起き上がってしまい、僕の頭と芹香の頭がぶつかった。


「ご、ごめん」


反射的に僕は謝った。


てか、なんで、ここが分かった?

いや・・・それより黒田達の件はどうなったんだ?


「気をつけて下さい」


芹香はぶつけた額を擦りながら言った。


外は明るいけど・・・


時計を見ると6:40だった。


なんだかんだで7時間位は寝れたみたいだ。


「あ~その・・・」


無意識に僕もおでこを擦り言葉を選ぶ。


何でここに?

怒ってないのか?

悠里はどうした?


何から言ったらいいのか難しいけど、僕は小さく頭を下げた。


「ごめん・・な?」



芹香は小さくため息を吐いていた。


謝られても仕方ないだろうし、そんな言葉で済まされることでもない。

だけど、この場で何も言わないのは単純に気まずいからだ。


それよりも、あの後どうなったのかが気になる。

悠里が一緒に居ないのも不思議だし、ここに僕がいる事もどうして分かったのか気になる。


屈んでいた芹香は立ち上がると、遠くを見つめていた。


僕も立ち上がった。


腰周りがなんかぎちぎちして痛い。


下にタオルしか敷いてなかったから無理もないけど。


「あっ、あの後・・・どうなったん?」


「どうなったと思います?」


分かる訳ないだろ。


「いや・・・分からんよ」


僕がそう答えると芹香は壁にもたれ掛かった。


それから体育座りに座って空を見上げた。


答えて欲しいのだがな。


仕方ないので少し離れた場所に僕も座った。


すると芹香は、僕の横に向かってきた。


逃げるように僕も移動しようか思ったが、不快にさせるだけなので止めた。


肩と肩が触れ合う距離までくる。

言うまでもなく気まずい。


「なんでここに僕がいるって分かった?」


「たまたま見かけたのですわ」


それで納得はなかなか出来ない。

いくら島が狭いと言えど、昨日の今日でそんなにすぐに見つける事が出来るのだろうかと勘繰ってしまう。


それに僕の問いに、あたかも用意していたかのような返しに不信感も募るよ。


考え過ぎなのかもしれないが、不自然だし、嘘くさいし信用出来ない。


「こんな朝っぱらから・・・どうしてこんな所に来たん?」


「早朝のお散歩です」


「ふ~ん・・・へぇ~」


全く信じてませんよと思って欲しいから、僕は感じ悪く返した。

だけど、こいつには何も届いていないように感じる。

それも、ほぼほぼ常が無表情な為、読めないってだけだが。


「正護さんは、どうしてそこまでクズな方なんですか?」


直球過ぎるだろう。

オブラートに包むって事を覚えて欲しい。

唐突にそんな事を聞かれても返事に困る。


「別に・・・しょうがないんじゃね?」


第三者に言われんでも、自分がクズ野郎って事は認めているよ僕だって。


「昔からそんな性格なのですか?」


そんなってなんだよ・・・


「まぁ、そうだな」


「何があなたをそうさせたのでしょう」


そんなの知るかよ。そんな事を聞いてなんになるって話しだ。


「さぁな」


僕が僕自身をクズだバカだと思うのは良いとして、人に言われるとやはり腹が立つものだな。

皮肉で芹香にも似たような質問を返してやろうかと考えたが、今はそれよりも他の事が気になるので止めた。


「僕からも聞いていいか?」


尋ねるが芹香は何も言ってこない。


僕はそのまま話しを続けた。


「悠里はどこにいるんだ?」


「心配いりませんわ」


「んーなんで、その・・一人なん?」


「お散歩ですから一人なだけです。何か問題でも?」


そう返されると言葉に詰まる。


胡散臭い、嘘っぽいし、なんとなく怪しい等、言ってやりたいが確証も何も無いので言えない。


「んじゃ・・気をつけて・・・な?」


なんだか嫌な予感しかしないので僕はお別れのつもりで返した。

芹香は無言で僕の顔を覗き込んできた。


じっと見つめてくるので当然僕は顔を逸らして、そのまま東の空に目をやった。


言い方が悪かった気がする。

返事をしてくれないので静けさで居たたまれない。


間を埋めるように僕は口を開いた。


「鶴里さん・・とかは無事なん?」


「気になるんですか?」


「うん・・まぁ・・・な」


「逃げ出した・・・あなたが?」


芹香が静かな声でそう言った。


喧嘩売ってんの?

挑発的な言動ばかりで話しが円滑に進められない。


「いや・・それは、まぁ・・・悪かったとは思ってるよ」


さらさら思ってないが、ここは素直に謝って話しを進めておきたい。


ここでちんたらしていても仕方無いし、二日連続で野宿は御免だ。


「そうですね」


一言、芹香は告げたがそれで切られては納得がいかない。


「あぁー、その・・・答えてくれませんかねぇ?」


自分の表情が硬くなっているのが分かる。

上手く笑えているだろうか?

気色の悪い引きつった笑顔で僕は聞いた。


「私からも正護さんに質問をしても宜しいでしょうか?」


空気の読めない芹香がそう言うが、駄目だとも言い難い。


「いいけど・・・答えたら、お前も答えろよ?」


「お前って言わないで下さい!」


食いぎみにそう言ってきて、僕の方を睨んできた。


僕を殴った時に、お前もお前って言ってただろうがと突っかかってやりたい。


いや・・確か言いかけただけだったか?


まぁそんな事は今はどうでもいい。


「す、すまん」


なんか・・・僕はこいつに謝ってばっかりだな。


「では・・えーっと、何から聞きましょうか」


芹香は考えるように、人差し指を顎辺りに置いて悩んでいる。


複数質問する気なのか?

勘弁して欲しいんだけどな。



少しの間を置き、芹香は僕の方を見てから言った。


「正護さんは以前は独り暮らしでしたよね?」


なんでまた、そんな生産性の欠片も無いような質問をするんだこいつ・・・

以前・・・僕が、この島に拉致られる前の事を聞いてどうするんだと思う。


「まぁ、そうだよ」


面倒くさそうに素っ気なく返した。


「ご両親とは仲が良くないのですか?」


「んー・・・普通」


正直言うと良くないが、適当にはぐらかした。


「普段はなー・・・」


「ま、待って!待って!そ、そんな質問責め意味ないだろ?」


言葉を遮り僕は言った。


「そんな事ありませんわ!」


しれっとした表情の芹香に、僕は大仰なため息を吐いた。


「僕の過去を知った所で面白くもなんとも無いだろ」


「いえ!自分勝手で臆病で優柔不断な正護さんの過去は気になりますわ!」


悪意の塊みたいな発言だな。

ここまで清々しい皮肉を言われたら、僕の方も険のある言い方になってしまう。








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