8月26日-8-

僕なんかと一緒に暮らしている事に、何かしら思う所があるのだろう。


「自分・・何でうつ向いとん?」


「えっ・・いや・・特に意味は・・・」


言って、僕は申し訳程度に頭を上げる。


「なんか・・・腹立つなぁ~」


「こらこら!そんな事言うもんじゃないよ!」


鶴里さんがそう注意するが、真壁は分かりやすくため息を吐いた。


お互い様だが、僕も真壁みたいなタイプは凄く嫌いだ。


僕のこの、うじうじした性格が癪に障るのは分かるけど、わざわざ口に出す必要は無いだろう。


「あぁ、その・・気を悪くしないで欲しい」


僕に気を使ってか、赤井さんが困った顔で言った。


「だ、大丈夫っす」


半笑いで僕は返した。


真壁は気だるげな様子で僕を睨んでいる。

相容れない関係だとは分かるが、こうも露骨に敵意の視線を向けられては、これから先が重苦しい。


暫くの沈黙の後、足音が聞こえてきた。


悠里達が戻ってきた。


正直凄く助かった。


「おはよう~」


紺色のジャージ姿の女性が目をごしごししながら入ってきた。


この人が生田さんであろう。

茶髪のパリピっぽい女性。素っぴんで分かりにくいけど悠里と同い年位かな?


ボサボサの髪でまさしく寝起きといった表情である。


「生田さん・・もう昼過ぎだよ?」


言われて生田さんは豪快に欠伸をした。


「ふぁ~そうっすね~」


眠気眼で辺りに目を配る。


僕と目が合って、僕は小さくお辞儀をした。


「ども」


そう言ってジャージの中に手を突っ込んで、ぼりぼりとお腹を掻いている生田さん。


そのまま近くにあった座布団を引っ張りだし座った。


「彼女は生田恵梨奈イクタエリナさん」


鶴里さんが紹介した。


生田さんは僕達には興味無さそうで何も聞いてこない。


悠里は柚希ちゃんの手を引いてソファーに座った。

悠里の膝の上に乗った柚希ちゃんを満足気な様子で頭を撫でている。


これからの話し合いに柚希ちゃんを混ぜるのは如何なものかと思う。


芹香は悠里の隣に座ると鶴里さんは大きく頷いて言った。


「さて・・皆集まったのでこれから作戦会議をします」


鶴里さんが言うと、生田さんが分からないといった様子で首を傾げた。


「作戦会議って何?」


面倒くさそうに生田さんが聞いた。


「これから話すよ」


そう言ってから鶴里さんは分かりやすく生田さんにこれまでの経緯を説明した。


話しの途中に何度か欠伸をするのが気に入らなかったのか、芹香の表情が段々と険しくなっていた。


「うん・・それで?」


「これから救出に向かおうと思っている」


鶴里さんがそう言うと、生田さんは露骨に嫌そうな表情で答えた。


「あっそ・・私パス!」


そんなの有りなんだ。


「君はそう言うと思ったよ。まぁ、柚希ちゃんと二人で留守番してくれたら良いから」


鶴里さんがそう言うので、僕も僕もと手を挙げたくなった。


「んじゃ・・私いらんくない?」


「まぁ・・そうだが」


苦笑いで答える鶴里さんに真壁がガンを飛ばした。


「お前も少しは協力せぇや?」


「はぁ・・うっさいハゲ!」


「禿げてへんわ!」


生田さんは立ち上がって柚希ちゃんの手を握った。


「あっち行っとくわ」


「あ、あぁ・・頼んだ」


柚希ちゃんと二人で生田さんはリビングから出ていった。

それは配慮としては良いと思う。

ここからの話し合いに柚希ちゃんは理解出来ないだろうけど、物騒な言動が飛び交う可能性もある。


「あの方はいつもああなんですか?」


二人が出ていくや否や芹香が言った。


「せやで!柚希も男ばっかりのメンバーやったら嫌になるやろうから、あんな奴でも一応女やし、おったら多少は居心地が悪うないやろ思って加えとんのや!」


「うっさいわカス!!」


廊下から生田さんが怒鳴ってきた。


まだ近くにいるし聞こえていても不思議ではない。


「と、とりあえず・・僕達はこの五人で暮らしているって紹介したかっただけだから!」


それから本題の救出作戦とやらのミーティングが始まった。


おもに、鶴里さんや赤井さんが仕切って意見を出し合っている。

なんとも頼もしい限りだ。


「向こうの男共は僕達が絶対に捕まえる」


鶴里さんはそう言うが実際、考えなくてはいけない事が他にもある。


その後はどうするのか・・・


そいつらを仮に縄で括って身動きの取れない状態に出来たとして、そのまま放置する訳にはいかない。

無名島の注意事項に引っ掛かっている訳では無いのだから。

僕達、監禁者が人を罰する事は間違っている。

黒田達のやっている事は確かに世間一般からしたら犯罪だけど、それを僕達が決めて良いのだろうかと疑問に思う。


「無事に、女性達を解放出来たら・・その後どうするんですか?」


僕の質問に真壁が答えた。


「決まっとるやん、あいつらに二度とそんな事ささんようにお灸を添えたるんや!」


つまりは暴力で抑え込まそうという腹なのか?


「それは・・まだ決めてないよ」


難しい顔で鶴里さんが訂正した。


「とりあえず・・今は救出する事だけを考えよう!」


続いて赤井さんが言う。


問題の先延ばしといえば聞こえが悪いが、確かに今は明確な打開策は見つからない。


鶴里さんらは救出の為に様々な案を出してくれた。


意見の食い違いも多少はあったが、効率よく役割分担を決める。


時間にして二時間程経った所で計画は最終段階まできた。


黒田達が寝静まった後、奇襲をかける案もあったけどそれは却下となった。


夜中だと女性陣が寝ている可能性があるから、薄暗くなった今日の21時過ぎに黒田邸に乗り込む。


突撃するメンバーは、鶴里さん、赤井さん、真壁、そして僕だ。

つまり、こちら側の男性陣はもれなく全員突撃予定である。


武器と呼べるか分からないが、日用品で凶器になりえるフライパンや包丁を持っていく事となった。


「包丁は・・・最終手段だと思ってくれ。脅しに使う材料だから」


深刻な顔で鶴里さんは言った。

万が一・・・そんな事になれば無名島から解放された時どうなるのか、そんなことが頭を過った。


悠里と芹香は僕達が家に入った後、入り口付近で隠れて待機する運びとなる。


助けに向かうのは男性ばかりだから、向こうの女性陣も不安になるかもしれないので、悠里達がいると安心するかもしれないという理由でそうなった。


悠里達が捕まってしまうと人質に取られてしまう可能性もあるので、出来るだけ離れて待機するようにと指示が出された。


「決して無茶はしないで欲しい」


鶴里さんは念を押す。


「はい・・・分かってます!」


悠里がそう答えると鶴里さんは大きく頷いた。


「うっしゃ!やるでぇ!!」


拳と拳をぶつけて、やる気に満ちている真壁。

頼もしいのだけど、こいつはぼろを出さないか心配である。


「間違っても重症を負わすような事はしないでくれよ?」


鶴里さんは真壁へ忠告する。

真壁は「分かってるっすよ~」と笑いながら答えていた。


これから黒田達の住む家に下見に入る。


どこから侵入するかを探る為と、前みたいに瑠菜が外に出ていたら、ばれないように先に助ける事も出来るからだ。

瑠菜に限った訳では無いけど、先に救出が出来るのならばそれに越した事はない。


「それでは、黒田の住む場所まで案内を頼めるかな?」


言いながら鶴里さんは立ち上がった。


連れて各々立ち上がる。

嫌々ながらも僕も立ち上がると真壁がじろっと嫌な視線を向けてきた。


「自分あれやな~ひょろいなぁ?」


細身の僕にそう言う真壁は小馬鹿にした表情である。


「す、すいません」


何を謝る必要があるのか分からないが、事を荒立てたくないので適当に謝罪をした。


真壁は鼻で笑って歩き出した。


感じ悪いのにも程がある。


こいつ・・悠里と芹香と一緒に暮らしている僕を僻んで敵意を向けているのでは無いだろうか?

そうでなければ、ここまで露骨に態度に出すだろうか?


こんな奴とは一刻も早く縁を切りたいから、さっさと終わらせたい。


正直言って、会議の途中でじわじわと気分が落ちてきていた。


時間が経つにつれ、救出とかどうでもよくなって気持ちが沈んでくる。


そんな中で、真壁みたいなしょうもない奴に罵倒され、ヘラヘラと笑って穏便に済まそうとする自分自身が嫌になっていた。


早く終らせて帰りたい。


「行きますわよ」


芹香が僕の方に向けて言った。


足取りは鉛のように重い。


ごめん無理とはとても言える雰囲気じゃない。


「・・・うん」


聞こえないようなトーンで僕は呟いた。




















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