8月26日-5-
気恥ずかしいけど悠里を引き止めた手前、何かを言わなくてはいけない。
だけど急にこんな風になると中々に出てこない。
そう考えると悠里のコミュ力は凄いなぁと感心する。
普段、悠里に聞かれていた何気ない質問を僕もしてみよう。
「二人は、えーっと・・趣味は何ですか?」
お見合いか!!と自分自身に突っ込んでしまった。
「あは・・何それ!急にどうしたのさ?」
笑って手を叩く悠里。
「いや、その・・なんとなく?」
はははと笑いつつ、僕は頭を掻いた。
自分が凄く赤面しているのが分かる。
「私は羊毛フェルトですわ!」
横で笑っている悠里をよそに、芹香が真顔で答えてくれた。
「よう・・もうフェルトって何?」
僕が聞くと、芹香は両手でジェスチャーをしながら答えた。
「簡単に言えば針をプスプスと刺しながらする手芸の一種ですわ!」
へぇー。そっかぁ。
うん、どうしよう・・・
なんつーか・・聞いててびっくりする位どうでもいい情報だな。
自分で聞いといてあれだが、自分に興味の無いものって返事に困る。
「そ、そっか!なんかお似合いだね!」
個人的に当たり障りの無い返しをしたつもりだったが・・・
「それはどういう意味ですか?」
急に険しい顔になる芹香。
「へっ?いや・・べ、別に・・・」
「針でプスプスと何かを刺しているさまがお似合いって事ですか?」
好きでやってんだろうが!?
何で急に攻撃的な口調なんだよ。
「いやいやいや・・そんなふうには思ってないよ!」
「本当ですか?」
芹香の冷たい瞳は僕と視線がぶつかっても変わる事がない。
僕は大袈裟に首を縦に振った。
「まぁ・・・分かりましたわ!」
若干納得していない感じだったけど、渋々分かってくれたみたいだ。
正直・・・疲れる。
「正護君の趣味は?」
質問を質問で返す悠里が聞いてきた。
「んー、前に言わなかったか?ゲームとか漫画だよ!」
そう言った後に「悠里さんは?」って聞いたら、悠里は笑って答えた。
「悠里でいいよ!同い年なんだし!」
そう答えた悠里に苦笑いで返事した。
「いや・・・呼び捨ては抵抗あるわ!」
抵抗はあるが心の中では、大概の奴を呼び捨てなのが僕という人間である。
相手が年下だと分かれば、間違いなく心の中で呼び捨てをしている。
「私は年下ですし、呼び捨てにして頂いても結構ですわ?」
続いて芹香も言った。
「ん~でもやっぱ恥ずかしいしなぁ」
「別に恥ずかしい事じゃないよ!」
女子供には分からない男心ってもんがあるんですよ。
つーか・・・
話しを脱線させてんじゃねぇよ!!
今気付いたわ!
「いや、てか悠里・・さんの趣味は?」
呆れた顔で僕は聞き返した。
「悠里!!」
「はぁ?」
「ゆ、う、り!!」
呼び捨てにしろと強要してくる。
恥ずかしいけど、ここは素直に乗っかっていた方が良いのだろうな。
「分かったよ・・その・・悠里!」
こんなん照れてまうわぁ。
顔が熱い・・・もう勘弁して下さい。
思わず頭をがりがり掻いてしまう。
「私も呼び捨てにして下さい!」
間髪入れずに催促してくる芹香。
この上ない羞恥に僕は下を向いて小さく呟いた。
「せ、芹香・・・」
「聞こえませんわ!」
これは何かの罰ゲームなのかと疑いたくなる。
「せ、芹香!」
気持ち大きめな声で僕は言った。
「何でしょうか?」
そう返す芹香をちらっと見ると、苛めを楽しんでいる子供のような笑顔をしていた。
でも、やっぱり・・・時折にしか見せない芹香の笑った表情は可愛く思えた。
最初は怖く思ったもんだけどなぁ。
「何でもないよ!」
諦めた感じに僕は返した。
「他には何か質問ある?」
何それ?いつの間にか質問コーナーみたいになっていたのか?
それ以前に悠里は質問には答えていないけどな。
「んじゃ、二人の職業とか?」
特に何も考えずに、過去に悠里にされた質問をなぞって聞いた。
だけど言った瞬間にしまったと思った。
芹香は風俗嬢だった・・・。
「私は知っての通りソープで働いていましたわ!」
焦った気持ちとは裏腹に、芹香は特に気にする様子もなく答えた。
「あっ、うん。そうだったね・・・えっと~悠里は?」
なんとなく気まずいので直ぐさま悠里に振った。
「正護君は確か・・・工場で働いていたんだよね?」
こいつはまたか・・・・
「そうだよ。それで・・悠里は?」
「企業秘密です!」
笑って言ってのける悠里に殺意が湧いてきそうだ。
芹香は正直に答えるが悠里は何も答えてくれない。
分かっている事と言えば名前と年齢だけである。
「いや答えなよ?」
引きつった表情で僕は聞いた。
「じゃ~OLで!」
その言い方が嘘であると物語っている。
隠すような事でもないだろうとは思うけど、根掘り葉掘り聞くのも抵抗がある。
それでも、僕と芹香は馬鹿正直に答えているので多少は腹が立つ。
「他に何かありますか?」
芹香が聞いてきた。
芹香は素直に答えているであろうが、悠里ははぐらかしてくるからあまり意味が無い気がする。
「いや・・もういいよ!」
そう返すと悠里が、
「じゃぁ、次は私が正護君に質問しても良いかなぁ?」
不意打ちのような発言に言葉を詰まらせていると、悠里は僕の返事を待たずに質問をしてきた。
「正護君の友達の話しとか聞きたいなぁ~」
それを聞いて、心がざわついた。
友達・・・そんな事を何故知りたがる。
悪気がある訳では無いだろうが、友達のいない僕にそれは酷である。
それに僕はこんな性格だし、友達がいなそうとか、どことなく感じないか?
何故という疑問は湧き出てくる。
考え込んでいると、悠里は首を傾け尋ねてきた。
「どうしたの・・正護君?」
その表情はいつもの心配した様子ではなかった。
「友達は・・・いないかな」
「そうなの?本当に?」
悠里は即座に聞き返す。
「嘘ついても・・・しょうがないだろ!」
微笑を交ぜつつ僕は答えた。
それまでの空気と違うと感じるのは、僕にそんな質問が来るとは思わなかったからだ。
悠里は小さく「そっか~」と呟いていた。
それからボソボソと何か独り言のように言っていたが僕には聞こえなかったし、聞こうともしなかった。
友達・・・か。
たった一人、友達と呼べる友人もいたけど今はもういない。
この二人になら・・・いや、芹香になら話してみてもいいのかもしれない。
僕は許されるのだろうか?
それとも罪を償うべきなのだろうか?
誰かに打ち明けたりしたら、どんな答えが返ってくるのか気になる。
夏海には嫌われたくないから言えないでいた過去の過ち。
でも芹香になら・・・
そんな事を考えていると悠里が立ち上がった。
「そろそろ外に出よっか!」
両手を握り笑って悠里は言った。
僕も立ち上がると、悠里は窓の外に目をやり、うんうんと頷いた。
「絶好の捜索日和だね!」
捜索日和ってなんだよ・・・
「では行きましょう!」
芹香も立ち上がり、いよいよ出発の時は近づいてきた。
無名島に拉致された住人の一人、自称警察官を名乗る鶴里という男性。
この男を仲間に加えて大丈夫なのかと心配にもなるが、とにもかくにも見つけ出さない事には始まらない。
「んじゃ・・・行くかぁ~」
小さく呟くと悠里が元気良く返事した。
「よーし!頑張ろうー!!」
その言葉は今後控えて下さいと心の中で僕は呟いた。
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