8月20日-1-

僕達が無名島に監禁されてから、ちょうど1ヶ月が経過していた。


腕時計の日付け表記が間違っていなければそうゆう事になる。


警察は何してるんだ?

いきなり215人もの人間が突如として行方不明になったら、まぁまぁな事件だと思う。


今更だが、なんでまた215人なんて中途半端な人数を拉致したのだろうか?


本当は200人の予定だったけど、間違えてオーバーしたとか?


頭のおかしい主催者側の意図を探ってもしょうがないな。


1ヶ月経っても、島を脱出する手がかりも見つかっていない。

腕輪に爆弾が本当に付いているのかも分からない。

注意事項に引っ掛かった者がいないからだ。

黒田さん今こそ出番ですよ!って言いたくなる。

変わった事があったとしたら・・・

無名島の最年長かどうかは分からないが、福徳さんと言う名前のお爺さんがいる。


福徳豊治フクトクトヨジさんは76歳で、数年前に腰を悪くして入退院を繰り返していたらしい。


そんな福徳さんが10日ほど前に、持病の腰痛が再発した。


驚いたのは、その日はアタッシュケースの支給は終わっていたのに、福徳さんの住んでいる家付近に、ヘリがアタッシュケースを落としに来たのだ。


1日に2回もヘリが来る事は無名島に監禁されてからは初めてだった。


アタッシュケースの中には湿布やら痛み止めの薬だった。


監視カメラで見ていた主催者側が、早急に送ってきたのだろう。


その翌日から、アタッシュケースの中に医療機器や、薬、ガーゼや包帯なんかが入ったケースも送ってきていた。


もう1つ驚いたのは、拉致された者の中に医者の主治医が二人いた事だ。


ランダムで拉致したと主催者側は言っていたけど、この二人に関しては意図的に拉致されたのだと僕は思った。


折竹祐介オリタケユウスケさんと濱部雅信ハマベマサノリさん。


今では、無名島の主治医として、二人は無料で奉仕している。

無料も何も、無名島ではお金という概念すら無い訳だけど。


本格的に、島での暮らしを余儀なくされているのもあるが、二人の医者がいる事に安堵している住人も少なくない。


娯楽要素としては馬鹿にしてんのかと突っ込みたくもなるが、トランプ、ウノ、なんかがアタッシュケースに入っている事もあった。


携帯用の将棋やチェスが入っていたのを見た時は思わず笑ってしまった。


子供騙しもいいとこである。


まぁ・・・やるんだけどな。


「ストレート」


元気いっぱいに悠里が言った。


「あっ、うん。負けっす」


「やったー」


両手を広げて喜ぶ悠里に、不憫な目をして僕は見た。


「何さ?」


「いや・・・なんでも」


「もう一回する?」


言いながらトランプを切る悠里。

ポーカーでここまで楽しそうにやる奴を見たのは中学以来だ。


「受けますわ」


芹香もやる気満々である。


こんな状況で飽きたと言ったら空気を悪くしてしまう。


「はぁ」


覇気のない返事の僕を察してか悠里は言った。


「じゃぁさ、次負けたら罰ゲーム的なことしない?」


その提案に無言で頷く芹香。

これまた、やらないと言えば空気を悪くする。


「罰ゲームって何するの?」


面倒くさそうに僕は尋ねた。


「んー、どうしよっか~」


顎に人差し指を置き、考える悠里。


「簡単なやつな?」


あまり激しい感じの罰ゲームは嫌だ。


「じゃぁさ、私達のどっちかが負けたら正護君にチューするのとかどうかな?」


何言ってんだこいつ。


「それは正護さんにとっては涎が出る位のご褒美ですわね」


「やらない」


即答で返す僕。


「何で!?」


意外そうに言うなよ。自分の容姿に自信があるからそんな事言えるんだろうな。


「彼女がいるから」


「でも私達可愛いでしょ?」


「否定はしませんわ」


否定しないんだ。

いや・・そもそも罰ゲームかそれ?


「いや、それよか僕が負けたら何をすればいいんだ?」


「どうしよっか?」


「僕に聞かれてもな・・・」


半笑いで答えた僕に芹香が返す。


「正護さんに質問してそれに答えるとかはどうでしょう?」


それはしょっちゅう悠里がやっている。

話し半分に聞いて、適当に答えてはぐらかしてはいるのが現状だけどな。


「それ罰ゲームか?」


「では・・過去のやってしまった体験談とかはいかがでしょうか?」


それで決まりと悠里が元気良く言う。


勝手に決められてもなぁ。

そもそもそんな直ぐに思い出せない。


やっちまった話しなら二人がドン引きする位のネタを僕は1つ持っている。


誰にも話した事の無い重い過去の記憶。

こんな罰ゲームのノリで話す訳が無いけどな。とりあえず何も浮かばないから負けた時に考える事にしよう。


配られたカードを拝見して何とも言えない微妙な手札であった。

キングが二枚のワンペア状態。

後はバラバラ。当然引く流れである。

三枚ほど捨て、三枚引く。

おっ、キングが一枚あるではないか!

とりあえずスリーカード。


少し、ホッとする。

ゆっくりと首を巡らせ、各人の反応を窺ってみた。悠里はニヤニヤと口角がつり上がっているのが分かる。


露骨に手が良いですよと言っているようなもんだな。

優雅な笑みをにっこりと浮かべ、悠里は満足そうにしている。


一方で芹香の方は、言わずもがな無表情である。


さて、どうしたもんかな。

ドロップ(棄権)は認められない、二回までドローが許されているルールでやっている訳だが、悠里は一度もドローをする事なく、芹香は二回とも手札を変えていた。


とりあえずは僕も、後一回変えておこう。



引いたものの、スリーカード止まりである。


しょうがない。


「んじゃ、オープンで!」


自信満々に悠里は言う。


三人が一斉に手札を晒す。


悠里はストレート。

またかよ、なんか怪しいが出来ない訳でも無いし疑うのも野暮だ。


僕はスリーカード。


そして、芹香はワンペアだ。


芹香の負けである。


どうすんだこれ?

確か、こいつら二人が負けたら僕にキスとか言ってたけど、それを適応する気なのか?

意外なのは、そんなルールで芹香は参加するとは思わなかった。


手札を晒してから少し沈黙になる。


最初に口火を切ったのは悠里である。


「えーっと・・・どうしょっか?」


何も考えていないな。


わざとらしく、ふあぁ、と欠伸をして僕は立ち上がった。


「んじゃ、このへんでお仕舞いだな!」


言って、大きく伸びをする。


ソファーから離れ、自室に向かおうとした時、


「お待ちになって下さい」


芹香に呼び止められた。




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