7月25日-1-


二人と実質的に組む事になってから三日が過ぎた。

この三日の間に、支給品は毎日欠かさず送られて来ていた。


ヘリから支給される物はランダムで、お酒や煙草なんかもあれば、化粧品に生理用品なんかもあった。

至れり尽くせりとはいかないものの、生活に必要な最低限の物が日々送られてくる。


個人的な欲を言えば、テレビやゲーム機、携帯に、iPodなんかあれば嬉しいが、娯楽向けな物は現段階では支給されていない。

携帯なんかは絶対に送られてくるはずは無いけどな。


取り合いになるのか不安にもなっていたが、昨日は20ケース前後、今日に至ってはその倍位は送ってきていた。

今日も僕はアタッシュケースの確保に成功した。

大げさに成功と言っても、これだけの量を送られてれば、取り合いなんかもそうそう起きそうもない。


「兄ちゃん酒と煙草あったらわしに頂戴や?」


二日目の日に、眼鏡を掛けた少年を殴っていたおっさんが僕に言った。


「あぁ、はい。入ってますよ、どうぞ!」


アタッシュケースを開け、ビールと煙草が入っていたのでおっさんに渡した。


「ほう!ありがとの~」


ご機嫌なおっさんだが、内心は腕輪作動しねぇかな~って切に願っている。


生きてても害しか無いだろ、こんなおっさん。


「タダで酒も煙草も手に入るなんて、ここは天国みたいな所じゃわ!」


わははと笑いながら言うおっさんに嫌悪感が募る。


「そうですねぇ~」


適当に相槌を打って去ろうとしたが、おっさんの話しに捕まってしまった。


「わしは、ここを来る前はギャンブルで借金も山ほどあってな?」


典型的なクズの話しだな。

生産性の無いしょうもない話しを聞くのも嫌になってくるが、こいつを怒らすと暴力に出てくる可能性もあるし、聞いてやるしか道はない。


「パチンコ、競馬、麻雀と他にも色々とやっとったが、どれも勝てへんでなぁ?」


絵に描いたようなクズとしか思えない。

自業自得としか言いようがないし、そんな話しを嬉しそうに語るなよ。


「限度額もいっぱいで今日食うにも困る位じゃったんよ?」


よくもまぁ、そんな馬鹿な自虐を自慢気に話すな。

がははと笑うおっさんの息が酒臭く、思わず一歩後退する。


「た、大変っすね?」


「ほうよ!だからここに連れて来られてわしにとっては天国なんじゃ!」


確かに、こいつにとっては天国であるだろうが、大半の者は無名島から脱出したいと願っているはずだ。


「あっ、じゃ・・・用事あるんで失礼します」


申し訳程度にお辞儀をして僕は悠里達のいる我が家に向かった。


終始ご機嫌で、またなぁと言って手を振ってくるおっさん。


一刻も早く、腕輪よ作動してくれと願うばかりだ。そもそも本当にこの腕輪に爆弾なんか埋め込まれているのか?


半信半疑だが、実際誰も爆破されていないし、確かめようがない。


足取り軽く家に戻ると、芹香が家の掃除をしていた。


「お帰りなさい」


無表情で言う芹香にはもう慣れた。

芹香の表情は、ちょっとやそっとじゃ変化しない。

口では、面白い、驚いたと言ってもその表情は無表情である。

慣れれば案外気にならない。


「おかえり~」


リビングからひょこっと顔を出し手を振ってくる悠里。

正直、悠里がいると場が和むのはお約束で、芹香と二人っきりよりは助かる。


「しょうもないおっさんに酒と煙草取られたけど、別にいいよな?」


「全然いいよ!私達、煙草とか吸わないもん!」


僕も煙草は吸わないから問題ない。

酒に関しても、ある日から一切飲まなくなったし、こちらも問題ない。


「正護君は煙草もお酒もやらないの?」


「あ、あぁ」


「この島に来る前も全く?」


何だこの質問?

悠里はちょくちょく、僕の個人情報を聞いてくる節がある。

昨日は僕の趣味を、一昨日が僕の仕事の事を聞いてきた。

そんな事を聞いた所で大して面白くも無いだろう。

適当にはぐらかして、テーブルの上にアタッシュケースを置いた。


「夕飯何?」


「ホワイトシチューだよ!」


こんなたわいもない日々を送っていると、主催者側の思うつぼだなと気分も滅入る。


無名島に拉致されてから五日目だが、最初に思っていたよりも遥かに過ごしやすい生活環境だ。


ソファーに腰掛けだらける。


「僕達いつまでここにいるんだろうな」


誰に言うでなく、感慨深げにぽつりと呟いた。


「なるようになるよ」


ソファーの背に持たれかけ悠里は言った。


聞かれてたか。てか近い近い。


反射的に起き上がり、無意味に伸びをする。


「なぁ?この腕輪に爆弾が埋め込まれていると思う?」


頬に指をやり、悠里は答えた。


「ん~、どうなんだろうね!正護君はどう思うの?」


そりゃ、付いていないとは思いたいけど、得てして嫌な想像ほどよく当たるのが世の常だ。


「半分半分って所かな?」


「分かんないよねぇ」


そう言って悠里はソファーの背もたれを前のめりに寄りかかった。

ぎゅっと音がなり、足をパタパタとさせている。

実に残念だ。

こいつ、僕と一緒で25歳だろ?

言動といい、仕草といい、行動がお子さま過ぎる。


「悠里さん、はしたないですわ!」


背後で見ていた芹香が注意する。


「ごめんごめん」


ぱっとソファーから離れると、ぱんぱんと手を打って悠然とその場から離れた。


「もうすぐ夕御飯だから先にお風呂に入るねぇ」


捨て台詞と共に、悠里は風呂場に向かった。


「あっ、じゃ・・僕も夕飯まで自分の部屋にいるわ!」


そう言って逃げるように自室に向かおうとすると、芹香は目を細めてこちらを見ていた。


「どこへ行くのですか?」


「いや、だから自室に・・」


「まさか・・悠里さんのお風呂を覗こうと企んでいるのではないですか?」


企んでねぇわ!

芹香と二人っきりが嫌だから、一人になろうとしただけだ。


雑巾がけをしていた芹香は、埃っぽくなった手を払うべく、キッチンの方へ向かった。


「ここでお待ちになって下さいね!」


手を洗いながら芹香は言う。


嫌だなぁ。芹香とのタイマンはまだ慣れないんだよな。

僕が悠里を覗くかもって考えている辺り、まだまだ信用はされていないみたいだ。


僕をここに留まらせるつもりなら、気の聞いた抱腹絶倒間違いなしの面白トークをぶっ込んで欲しい。


だけど、願い虚しく何も言ってこない。


芹香は必要以上の事は喋らない。


僕が話し掛けても、無意味な内容には露骨に無視をしてくる。


こうゆう奴だと理解はしているのだけど苦手意識が強すぎる。


テーブルの前にお皿を並べて、悠里が作った夕飯の準備をする芹香。


役割分担は、基本的に料理を悠里が担当していて、掃除や洗濯を芹香がやっている。


芹香はお嬢様なのか分からないが料理は全然出来ないらしい。

意外にも悠里は料理が出来て、そこそこ美味しい料理を作ってくれる。


「どうだ!美味しいでしょう?」


初めて、手料理が出された時にどや顔で悠里は言った。


僕は適当に旨いっすって返したけど、芹香は何も感想を述べずに黙々と食べていたのには笑えた。


僕の役割分担は・・・はっきり言えば特に無い。アタッシュケースを取りに行くのも自主的に動いているだけだし、悠里について行こうか?と尋ねられたけど、それは断った。

何もしないのに居たたまれなさを感じてしまうからだ。


見る人が見れば、僕達グループで僕の立ち位置は紐みたいな存在だろう。








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