7月22日-3-

ソファーに寝ころがり小一時間程ぼーっと天井を見つめる。

目が冴えてしまった事もあり、何をする訳でもなく、だらけていた。

こんな暇な時は、携帯でソシャゲーなんかをやっていたりしたいのだけど、携帯も取り上げられているのだからどうしようも無い。

携帯も主催者側に握られているのなら、ラインのやり取りなんかも見られているのかもしれない。

本当にさっさと捕まって欲しいものだ。それから早く、この島から解放されたい。


今すぐにでも夏海に逢いたい。


適当な言い訳で悠里と芹香に帰るように促したいが、芹香を論破出来る自信がない。


それよりあの二人は空き家はまだあるだろうに、何故に入らない?


わざわざ誰かが住んでいる家を訪ねる必要性はないはずだ。


考えてみれば考えてみるほど違和感だらけでもある。


こんな小さな島とはいえ、その中から偶然、知った顔である僕の家に辿り着く事なんてなかなか難しいと思う。


執拗に僕に固執しているようにも感じる。

モテない男の単なる自惚れかもしれないが、特に悠里は僕に対して非常に馴れ馴れしい。


あいつの性格だからと言えばそれまでだが、僕に対して何かしら思うところがあるのだろうかと勘繰ってしまう。


二人が起きたら色々と聞いてみた方がいいかもしれない。

答えてくれるとは限らないけど。

人見知りでコミュ障特有の空気を作り出す自分としては、二人の女性と会話する事に上がってしまわないか心配だ。


これまで多少なりとも会話をしていても、目線を地面に落とし、目を見て話すことなど出来ていない。


あの二人に対してだけではなく、誰が相手でも目を伏せてしまう。


目と目を見ての会話。そんな事もまともに出来ないまま僕は今に至る。


それこそ人と人との繋がりを疎かにしてきたからだし、それでも良いと思ってはいる。

こんな人間不信な僕でもたった一人、親友と呼べる友達はいた。

今でこそ根暗な僕だが、過去はまだ幾分かマシだった。人と会話をするのが苦痛とか思う事も無かったし、比較的誰に対しても一般的な対応は出来ていたと思う。

だけど信ちゃんが死んでからは・・・僕は誰に対しても心を閉ざした。


唯一の友達。

太田信長オオタノブナガは僕のたった一人の親友だった。


信ちゃんとは中学からの友人で昔はよく遊びに行ったりしていた仲だ。


だけど・・・


二年前に交通事故で信ちゃんは亡くなった。


信ちゃんが亡くなってからは人とは極力避けてきた。

ただ黙々と仕事をこなし、家と仕事を往復するだけの淡々とした日々。

そんな生活に終止符を打てたのは夏海の存在だった。

彼女のおかげで僕はまだ頑張っていられる。大袈裟だけど本当に夏海には救われているのだ。

無名島から早く解放されたい。

夏海に逢いたい。


だからこそあの二人と一緒に行動なんて出来っこない。

二人はタイプは違うが、可愛くて悪目立ちする可能性もある。


どれだけ考えてもあいつらと一緒にいるメリットは見つからない。


黙ってこの家から出るか?


仮にそうした所で、あいつらに恨みを買う可能性も有るが、別段それでも困る事も無いだろう。


二人が目を覚ます前にここを出るか、二人が起きた時に話し合って決別するか・・・どちらにしても後味悪い結果にはなる。


窓の方へと視線をやると朝日が差し込んでいるのが分かる。


ゆっくりと立ち上り窓の方へ向かった。


外の景色が見たかった。


森林の中に佇む民家。


個人的には殺風景な場所なんだが妙に落ち着く。


完全に地蔵のように突っ立っていると、背後から人の気配がした。


窓に映るは芹香だった。


振り向かず僕は言った。


「ね、寝ないのか?」


「正護さんは?」


少し、困惑気味に僕は答える。


「ん・・結構寝てたから目は冴えてるんだ」


「そう」


芹香はそれだけ告げると黙った。


沈黙空間が始まった。


デジャブだよ。また得意のだんまり・・


用もないのに何がしたいんだ?


居たたまれない空気に自分の家なのに居心地が悪い。自分の家じゃないけど。


暇潰しに僕の所へ来たのなら残念だと思って欲しい。

僕には誰かを楽しませる面白トークは出来ないからだ。


突っ立っているのもしんどくなってきた。


ソファーの方に戻りたい。


だけど芹香も微動だにせず、こちらを見ているのが窓越しに分かる。


はっきり言えばホラーだ。


この無言の時間にいくつかの咳払いをして、僕はゆっくりとソファーへ向かった。


不自然でも無いだろ。


そのまま座り込み床を見つめる。


その様子にも微動だにしない芹香が不気味だ。


基本、真顔だからか可愛い顔をしているのに勿体無いと思う。


僕の芹香に抱く印象は悠里とは真逆の気持ち悪さだ。


悪く言えば得たいの知れない感じ。


悠里は悠里でガンガン突っ込んでくるタイプだし、それはそれで気持ち悪い。


結論から言うとやっぱり早く孤立したい。


無意味に手遊びをする僕の横で、芹香は突っ立っている。


えっ?いや・・・本当に何なの?


僕の脳裏に、怖い怖い怖い怖い怖い怖いと、ひたすら弾幕が続いている。


かれこれ、芹香が最後に発した「そう」から30分位は過ぎている。


その間、動かざること山の如しな芹香さん。


疲れない?って聞くのも怖い。


クーラーも付けていない夏ど真ん中なのに、寒いって不思議だなぁ。


こんな事を考えていても埒が明かない。


何か、話し掛けた方が良いだろう。


「あっ、悠里さんとは・・この島で会ったん?」


「勿論です」


かなりの沈黙があった後にも係わらず即答で返す芹香。


「あっ、うん。だよね・・」


当たり前だがやはり拉致される前から知っていた仲では無いようだ。


「他に何か聞きたい事はありますか?」


何それ?言ったら答えてくれるのか?


「んと、じゃ・・何で僕の家に来たの?本当に偶然なのかな?」


これは聞いても意味は無いと知りつつも、芹香には聞いてはいないから何となく聞いてみた。


しかし答えてくれない。


また沈黙状態に入ってしまった。


だけど否定をしないのは不自然ではないだろうか?


そんな事嘘を付いても、現状僕には見極められないのに。


僕は恐る恐る顔を上げ、芹香の方へ向くと、芹香は笑っていた。


不適な笑み。


目を細め笑う芹香に背筋がゾクッとする。


咄嗟に目線を離しまた下を向く。


それから芹香が一言・・・・


「どっちだと思います?」


と返した。




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