魔爵とファミリーネーム
この世界に来て半年が経った。
魔術の練習ができない。というか、やり方がわからない。
悶々としてても仕方がないので、クララと共に遊びに出かける毎日だ。
そんな日々を過ごす中で、分かったことがあった。
そう、両親の名前である。父はガルム、母はクラルというんだとか。
ガルムは冒険者という職業についている。
冒険者とは、「ギルド」という冒険者へ仕事を斡旋する組織に属している。
植物の採取という簡単なものから、「魔物」討伐という命を伴う危険なものまで様々な仕事があるらしい。
「魔物」とは、動物の持つ魔力が突然変異を起こし、変貌してしまった姿のことを指す。と、絵本で読んだ。
いつか見てみたいものだ。怖いのは嫌だけどね。
クラルは専業主婦をしながら少々内職をしているということが分かった。
無地のハンカチに刺繍を入れて、町へと売りに行っていることが度々ある。
新たな両親の現在を復習しながら服を着替え進める。
今日は何して遊ぼうかな。森には行っちゃダメと言われてるし、また原っぱでお花の冠でも作って鬼ごっこだな。
あ、ちなみに来週は俺の6歳の誕生日である。
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6歳の誕生日を無事に迎えることができた。
そして今日からなんと、ファザーから剣術と魔術を教えてもらえることになった。
やっと異世界らしいことができる。
「……んひひ」
楽しみすぎて夜しか眠れない。
ファザー曰く、剣術は大きな3つ流派が存在するらしい。
だが、ファザーは我流なので今回は割愛させていただこう。
だから剣術と言っても体の成長を阻害しない程度の体作りが基本となりそうだ。
続いて、魔術。
使う術の威力や効果によって「魔術等級」というものが存在する。
初級、中級、上級、最上級と4つの強さを表す段階があり、ファザーからは初級を教わる予定だ。
ちなみに余談だが、この世界で新たな属性魔術を生み出すことに成功した者には『魔爵』という称号と、その属性を司るファミリーネームが与えられるそうだ。
『魔爵』は本人が望めば、ある程度の権力と領地をもらえるらしい。言わば、貴族の仲間入りすることができる。
ファミリーネームはその名の通り、家名である。
例えば火属性の魔爵となった者とその配偶者は、"=フレイム"というファミリーネームが与えられるそうだ。
少しだけいいなぁ、と思う反面、名乗るには少々痛いヤツと思われそうで恥ずかしさもある。
まあ、この世界では誉れだかいことなんだろうし、そんなことを思ってるのは俺だけか。
閑話休題。
一般的に使われている属性は火、水、土、風、氷。
ただ、"一般的に"使われていると言われているだけであって他にももっと存在するんだと思う。
=フレイム火
=アクエリアス水
=ブリザード氷
=サンド土
=ウィンド風
と、魔爵のファミリーネームを並べるとこんな感じ。
クルル=ブリザードとかクルル=フレイムとか、か。うん、ちょっと恥ずかしい。
あ、ちなみに魔爵は貴族としては伯爵と同等の地位らしい。
魔爵になれたとしても貴族になるなんて勘弁だ。俺はファザーとラベルスを見習って冒険者になるんだ。
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天気の良い昼下がり。
家の敷地内にある庭へ移動する。広さは充分あり、運動するにはちょうど良い感じだ。
「今日からお前に剣術と魔術を教える。治癒魔術はお母さんから習うんだぞ」
「はーい!」
元気よく返事をして、やる気満々な姿を見せる。
「基本的には攻撃魔術を重点を置いて指導していく。お前には魔爵になってもらい、私達を"また"貴族にさせてくれ、なんてな」
魔爵、ねぇ。なれるのならなりたいけど……。
って、"また"? 今、また貴族にさせてくれって言った?
「父さんは貴族だったの?」
「ん? あぁ、そうか。クルルには言ってなかったか。
私の実家とクラルの実家は由緒ある貴族なのだ。だが、私達揃っては勘当させられたのだよ」
ファザーは懐かしむように遠くを見て、そう言った。
俺はというと、なんて言っていいか分かんなくて黙っていた。
確かに今思えば、ただの村人にしては品がある。粗野な感じは無く、優雅ささえ感じる立ち振る舞い。
よくよく考えれば俺って2人のことほとんど知らないんだよな。
「クルルにはまだ難しかったか。とりあえず今は自分のことだけを考えてくれればいい」
俺の頭を撫でながら言うファザー。
この世界で平民が貴族をどう思ってるのか知らんが、良い感情を持ってる者は少ないと思う。
逆もまた然りだろう。
元貴族であるファザーが、ただの平民と同じ立場になったのだ。
1から人の下で働くのは苦痛だろう。だから自由である冒険者を選んだというわけかな。
とりあえずここは生返事しとくか。
「うん、頑張るよ」
「よし、じゃあそろそろ始めるとするか」
ファザーは俺を撫でる手を強めた。
その手は優しく温かい。だが、何かを期待している、とそう言っているように感じた。
こんな話を聞いてからではそう思っても仕方が無いと思う。
撫でる手を止め、俺の正面に回ると、
「クルル、お前の中で魔術というのはどういうものだ?」
「僕にとっての魔術······?」
突然ファザーは人差し指を立て俺に問うてきた。
その目は試すように、懇願するように、またしても期待するように。
俺にとっての魔術とは······。
――俺にとっての魔術は力だ。
膨大なる力、類を見ないほどの強大なるもの。
敵を敵と見ないほどの、圧倒的な力。
そして、冒険家ラベルスのような自由を司る証。
自分を守る、仲間を守る、全てを守り切れるもの。
敵からしたら凶悪なまでの脅威。
それが俺にとっての魔術。
(ってあれ? なんでこんなこと思ったんだ?)
そう思った瞬間、身体から光が溢れ出す
。
(あれ……なんか、やばい……)
睡魔とは違う何かが俺の意識を奪い去ろうとやってくる。
抵抗虚しく、俺の目はゆっくりと瞼を下ろす。
(意識が······も······う······)
そのまま倒れるように意識を失った。
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