第136話 レジィ召還
レジィが声が周囲の静寂を掻き乱すように響き渡ると――
「おまえなあ……アクシアが褒めたら、直ぐにそれかよ? 不用意に大声をだしたら、敵をおびき寄せることになるだろう?」
アクシアの後ろから、カルマが皮肉な笑みを浮かべて歩いてくる。
漆黒の瞳は、揶揄うようにレジィを見ていた。
「魔王様まで……だが、問題はねえぜ? 今だって、俺とセナで周囲の気配を探ってるから、不意打ちされるなんてあり得ねえし、敵をおびき寄せられるなら却って好都合だ」
「……相変わらず、ガロウナは口が減らないわよね? それでも大声を出したのは、あなたの落ち度でしょう?」
最後に現れたクリスタの上から目線の言葉に、レジィはカッとなるが――文句は言わなかった。
そんなことよりも――
「魔王様よお……こうして、あんたたちが俺のところに来たってことは……」
「ああ、そうだ。ようやく事態が展開したから呼びに来たんだ。今すぐ付いて来る気があるなら……連れて行ってやっても良いけど?」
カルマの試すような台詞に――レジィは犬歯を剥き出しにして笑う。
「ああ、勿論つい行くぜ……でも、少しだけ待っていてくれよ?」
そう言うとレジィは、展開に戸惑っている部隊のメンバー方に向き直った。
「
「おいおい、レジィさん? それは無いんじゃないのか?」
フェンが文句を言うと――レジィは強かな笑みを返す。
「そういう約束だろ? それに……そろそろ、てめえらも独り立ちする時期だろう? 俺といつまでも
「だからって……この場で僕たちを放り出すのか? 今受けている任務はどうするんだ?よ」
黙っていられないという感じでレオンが口を挟むが――レジィは鼻で笑った。
「今残っているのは、オルグのリーダーと取り巻き、あとは非戦闘要員だろ? まあ、数は多いが……前衛を何人か補充すれば、やり方次第じゃ俺抜きでも仕留められるぜ?」
「……そんな、適当なことを!」
「おい、レオン……それは聞き捨てならねえな? 戦うことに関しちゃ、俺が適当なことを言う筈がねえだろう?」
レジィに凄みを込めて睨まれても――レオンは怯まなかった。真正面からレジィを睨み返す。
しかし、レジィが言ったことは事実であり、戦うことに関してはレオンも彼女のことを信頼していた――戦闘狂のレジィが、そんな嘘をつく筈はない。
「……確かに、そうだな。済まなかった……だが、ここまで来たんだから、せめて最後まで終わらせてからにしたらどうなんだ?」
「いや、そこは関係ねえな……俺にとっちゃ、オルグの掃討は二の次だ――おまえたちと部隊を組んで色々と解ったし、結構面白かったぜ」
レジィが自分たちと部隊を組んだ理由を――四人は知っている。
単独行動しかできないレジィが、集団戦闘というものを学ぶためだ。
そういう意味では――確かに目的は果たされたと言えた。
「でも……レジィさん? 私たちは、これでお終いなんですか? せっかく、皆で上手く戦えるようになったのに……」
ソフィアが少し寂しそうに言う。初めは、クリスタの命令に従って部隊に加わっただけだったが、今では彼女も、この部隊のことが気に入っているのだ。
「何言ってやがる! 後のことを決めるのは、てめえら自身だろう? さっきも言ったけどよ、多少メンバーを補充すれば、今のおまえたちなら此処にいるオルグの群れだって仕留められるんだぜ?」
レジィの言葉に、四人は互いの顔を見合わせた。
確かに今の自分たちならば――レジィに頼らなくても戦える。
「まあ、俺に言われて行動しても意味がないけどよ……じっくり自分の頭で考えて決めれば良いんじゃねえか?」
これで俺の役目は終わったな――レジィは四人に背を向けて、カルマたちの方に戻って行く。
「……レ、レジィさん……」
セナの声に、レジィが立ち止まって振り向くと――セナが必死に震えを堪えながら、真っ直ぐにこっちを見ていた。
「……い、今まで……あ、ありがとう……わ、私も……もう自分で……や。やれるから……」
「……フンッ! 生意気言いやがって! セナ、そのうちまた会おうぜ!」
「……う、うん」
四人の視線を背中に浴びながら戻って来たレジィに――アクシアが生暖かい感じの視線を向ける。
「ほう、あのレジィがのう……言うようになったではないか!!!」
「……まだまだだってことは、これでも自覚してるぜ?」
レジィは照れ臭そうに頬を掻く。
「あいつらも、ラグナバルまで運んでやろうか? そのくらい訳ないけど?」
カルマがしたり顔で言うが――レジィは断った。
「いや、魔王様……それは遠慮しとくぜ。帰り道くらいあいつらなら何とかするだろうし……甘やかすと、今後のためにならねえからな」
レジィは最後に――四人の方に振り返った。
褐色の瞳で彼らの顔を順に眺めると――
「てめえら……絶対に強くなれよ! このレジィ・ガロウナ様が仕込んだんだ、生半可にやったら承知しねえからな!」
そう言うとレジィは――カルマたちとともに転移で姿を消した。
「ああ、行っちまったなあ……そんでさ、これからどうするよ?」
なんだか気抜けしたような感じでフェンが言う。
「そんなこと、決まっているだろう……現状の戦力だけでは、オルグを殲滅することはできないんだ。一旦、ラグナバルに戻って出直すしかないだろう?」
レオンがそう言うすると――ソフィアはマジマジと彼の顔を見る。
「それって……これからも、この
「あ、当たり前だろう……それとも、ソフィアには異存があるのか?」
「いえ……全然、そんなことありませんよ! 私はこの部隊のこと、結構好きですから!」
ソフィアの台詞に――レオンは唖然として顔を赤くする。
「ま、まあ、僕だって……部隊の一員としてソフィアのことを信頼しているからな」
「……おい、レオン? おまえ勘違いしてるだろう……ソフィアが言ったのは
「か、勘違いなんかしてない! それのくらい僕だってわかっているさ!」
「どうだか……」
フェンは肩を竦めると――セナの視線に気づいた。
「どうした、セナ? 何か言いたそうだな?」
「……わ、私も……こ、この
セナに必死な感じで迫られて、フェンは少し腰が引けていたが――
「まあ……仕方ねえか? 俺も此処が嫌いじゃねえからな」
半分諦めたように、フェンは苦笑した。
俺のせいで世界が滅亡したから異世界転移してやり直してみる 岡村豊蔵『恋愛魔法学院』2巻制作決定! @okamura-toyozou
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