第97話 アクシアとレジィの関係
結局カルマはアクシアとレジィの二人を放置して、宿屋を後にした。
(多少不安はあるけど……レジィの面倒を見るくらい、アクシアなら問題ないだろう?)
途中で四時間ほどオスカーの酒に付き合ったが――それ以外の時間を使って、カルマは連続転移でクロムウェル王国の空を飛び回り、広大な『猛き者の教会』の活動領域を捜索した。
位置を特定するキーとなったのは、霊獣憑きの魔力と、他の獣人の集約度合だ。
これまでの真夜中の活動による蓄積があったから、一夜にして王国全土を捜索するという程ではなかったが――広大な地域に存在する魔力を調べ上げるには、それなりに本気で取り組む必要があった。
(まあ……レジィには悪いけど。先に全部調べておいてから答え合わせをする方が、正確な評価ができるからな?)
レジィは色々と面白いから、暫く同行させるのは決定事項だったが――本当のところ何処まで役に立つのか、少しだけ興味があった。
(そもそも……レジィのテストも『猛き者の教会』を支配するのも
『猛き者の教会』に敵意を持つ獣人たちが、レジィに強力しているのは事実だろう。
しかし、『猛き者の教会』の連中が正教会の動きを掴んでいたカラクリは、それだけでは説明できない。
(俺に匹敵する広域索敵能力か――それこそ『チート』な能力が無かったら、獣人たちが正教会の動きを正確に掴むのは不可能だ。
レジィにしても協力者がいたから『猛き者の教会』の情報を掴むことができたのだろうが――本当にそれだけか?)
『同族殺し』レジィ・ガロウナは、個人レベルでは考えられないような情報収集能力を持っている。タフな交渉力や体力任せの活動力が、それを可能にしたと考えるのは――無理があるだろう?
確かにレジィは無能じゃないが、
(
カルマが居た世界を計略によって滅ぼした狂った神々。その中心で世界を弄んだ十三神の一人、確率を司る神の名は――
(ホント、レジィには悪いけどさ? 折角だから、ベルベットの尻尾を掴むことを最優先にやらせて貰うよ)
レジィの周囲にベルベットへと繋がる何かが存在する。そいつを見つけるのは――カルマの索敵能力を持ってしても簡単ではなかった。
何しろ、この世界に来てから今日までの探索の間に、ベルベットの使徒と思われる魔力を感知できたことは一度もないのだ。
知覚領域内に存在する限り、カルマが感知できないことはあり得ない。だから彼らは何らかの能力によって、常にその外側にいるということだが――
(本音を言わせて貰えば、面倒臭いんだけど……まあ、仕方ないか? 俺はやれることをやるだけだな?)
こうして明け方まで――カルマは夜の空を駆け続けた。
※ ※ ※ ※
翌日の朝、すっかり日が上ってからカルマは宿屋に帰ってきた。
「カルマよ、完全に朝帰りだな? 首尾の方は……上々というところか?」
宿の部屋には朝食用に大量の食材が運び込んまれており、アクシアは食事の最中だった。相変わらずの勢いで、食材が口の中に消失していく。
「クリスタさんは、どうだって?」
「うむ。カルマが言っておったように、今日は色々と立て込んでいるから遠慮するそうだ。誘いには感謝すると言っておったぞ」
「そうだろうな? クリスタさんはやるべきことを放置して、自分のことを優先するような性格じゃないからね」
一日程度とはいえラグナバルを不在にしていたこともあり、クリスタには色々とやることがある筈だ。
それにグランチェスタの件も理想的な形に納まりはしたが、他の急進派や、詮索好きのブラウン司教の対応など、些細なことも含めれば、仕事は山積みだろう。
「まあ今日の件が片付いたら、クリスタさんとも話をする必要があるし……そのときは、アクシアも一緒に来るか?」
「うむ。そうさせて貰うおう」
アクシアとクリスタがこれほど打ち解けるとは。出会い方が最悪だから初めは意外だと思っていたが――クリスタの性格が解った今では、当然の成り行きだと思う。
二人とも自分にとって大切なことは絶対に譲らず、それを成し遂げるために全てを掛けている。
求めているものこそ違うが……互いの生き方には共感できるものがあるのだろう。
そんな風に冷静に分析しながらカルマは思う――だったら、レジィはどうなんだ?
大量の食材を運び込むのに使い走りでもさせられたのか、レジィは部屋の隅に座って不機嫌な顔で朝食を食べている。
クリスタの話題が出たことに警戒しているのか、チラチラとカルマの方を伺ってはいるが、話に加わっては来なかった。
「レジィ。おまえの方は準備とか、必要なことは全部済んでいるのか?」
「ああ、魔王様。バッチリだぜ!」
右の手首の骨折は当然完治などしていなかったが、添え木で固定していることもあって、レジィは全く気にしていないようだった。
「移動する前に、少し打ち合わせをさせてくれよ? あんたが言っていた『
レジィは何処かから調達してきた羊皮紙を、部屋に備え付けのテーブルの上に広げた。
そこには、昨日食堂のテーブルにソースで書いたものよりも精巧なクロムウェル王国全土の地図が描かれていた。
「『
レジィは地図に描かれた森の中の三つの点を順に指差す。
「この三ヶ所の間を、順番や時期や期間を意図的にズラして、不定期に移動しているんだが……今はここにいる筈だ」
昨日より精巧になったと言っても、手書きの地図の精度には限界があったが――カルマは真夜中の偵察によって得た情報と地図を照合して当たりをつけた。
「もしかして……洞窟の中か?」
カルマがそう言うと、レジィは驚いた顔をした。
「ああ、その通りだぜ……さすがは魔王様だ。いったい、どんな魔法を使ったんだよ?」
「そんなに大したことじゃない。トップの奴は、護衛に精霊憑きを連れているだろう? そいつの魔力を感知しただけた」
もっと人数が集まっていれば、獣人の密集度合いだけでも特定できたが――最高指導者の居場所に獣人の数は少なく、精霊憑きが一緒に居なければ判別するのは難しかった。
「魔力を感知したとか簡単に言うけどよ……まあ、良いか? どうせ俺に理解できるような話じゃないだろうからな」
質問の途中で勝手に諦めて、レジィは詰まらなそうな顔をする。
「そういうことだな? おまえが理解できるように説明する自信は俺にもないよ」
カルマが使ったのは連続転移と魔力感知だけだから、それを説明するだけなら簡単だが――何故そんなことができるか問わたら、そっちを説明するのは難しい。
(とりあえず……レジィのこともアクシアは嫌っている訳じゃないようだけど?)
説明を黙って聞いているアクシアの横顔を眺めながら思う。
アクシアとレジィの関係が、クリスタとの関係と同じようになるとはカルマは全く思わなかった。
今までの状況を見る限りは明らかな上下関係――いや主従関係と言った方が良いかも知れない。
この二人の関係が今後どのように変わって行くのか――暫くは黙って見ているつもりだった。
「大体のところは解ったから。おまえちの食事が済んだら出発しようか?」
カルマはそう言ってベッドに腰掛けると、もう暫く掛かりそうなアクシアの食事が終わるのを、ゆっくり待つことにした。
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