第78話 レジィ・ガロウナの策略
「おい……何の冗談だよ!」
レジィは引っ手繰るように剣を奪うと、本当に直ったのか確かめるために力を込めて振った。
両手に馴染んだ重さと感触――さらに全力で何度振り回しても、交差して互いをぶつけても、罅(ひび)が入ることもなく二本の大剣は無事だった。
「まあ、単純に繋げただけだからさ。強度は元のままだし、変な期待はするなよ?」
「てめえは……本当に何者なんだよ?」
物を修復する魔法の噂は聞いたことはあるが――一瞬で剣を元通りにしたカルマの力が
それだけではない――攻撃を遮る金色の壁や巨大な火球など、カルマが操る魔法はどれも強大な魔力を放っていた。
その上――剣の腕でもレジィを遥かに上回っているのだ。
「そもそも……てめえの剣は
「結構良く見てるな。おまえの言う通りだけど?」
レジィに言い当てられても、カルマは平然としていた。
だから何だという感じで、煙草を咥えている。
「てめえは何処かの魔王様か? 何でもかんでも魔力で解決しやがって! その化物じみた魔力は、どうなっていやがるんだ?」
「へえ……魔王ねえ……」
思わせぶりな感じでカルマは呟く。なかなか言い得て妙なだなと思いながら――
「まあ、それは良いとして……レジィ。おまえの用件はもう済んだよな?」
カルマは煙草を消滅させると、オスカーの方に向き直る。
「オスカーもさ? やることやったなら、そろそろ移動しないか? 俺たちの方は一応目的は果たしたけど、他にもやることが残っているんだよ」
「俺は……」
レジィを気にしながら、オスカーは言葉を途切れさせる。迷っていることは傍目にも明らかだった。
「なるほどね……おまえが残りたいなら、それも良いんじゃないか?」
カルマはしたり顔でオスカーに笑い掛ける。
オスカーなら一人でも森を脱出できるだろうし、最悪、命を落としたとしても本人の選択だから、他人が口出しすることでもないと思う。
「じゃあ、そういうことで……クリスタさん。村に戻ろうか?」
「待って、カミナギ……本当に良いの?」
気遣わし気な顔のクリスタが、オスカーとレジィを交互に見る。
カルマとクリスタが隠れて様子を伺っているとき。二人が醸し出していた雰囲気はとても穏便と言えるものではなかった。
(さっきは『剣を直す』というカードがあったから、ガロウナも殺すまではしないと思ったけれど……今二人で残すことは、野獣の檻の中にロウ殿を放置するようなものだわ)
何も獣人だから『野獣』に例えたのではない。獣人だろうと人間だろうとレジィのように殺しが日常なタイプは、獣と同じで人を殺すことに躊躇いがないのだ。
「おい……ちょっと待てよ? 何で俺がアクロバットマンと残る話になってるんだ?」
レジィは憮然とした顔で口を挟んだ。
「もうそいつとは戦ったんだから、これ以上付き合う義理はねえだろう? 俺は好きにさせて貰うぜ!」
レジィの方にその気がないことが解って、クリスタは内心で胸を撫で降ろす。
「……ロウ殿? ガロウナはこう言っているけど、貴方はどうするの? 一人でも残るって言うなら、これ以上私も止めないけれど?」
オスカーは唇を噛み締める。葛藤を抱えながら、何とか自分で答えを見つけ出そうとしていた。
「解った……」
そう言うと、隻眼で真っ直ぐにレジィを見つめる。
「レジィ・ガロウナ……いつか、またおまえに会いに行く。そのときまでに俺はもっと強くなるから。それを見て……もう一度おまえの答えを聞かせてくれないか?」
「ああ……良いぜ。強い奴にしか、俺は興味がないからな」
レジィは犬歯を見せて、
「だがなあ……アクロバットマン? おまえは勘違いしてるぜ。今の話じゃ、おまえ
「……どういうことだ?」
「だから、俺も
レジィは琥珀色の瞳でカルマを見据えた。
「てめえの行く先は面白そうだから……俺も一緒に連れて行けよ?」
「……はあ? いきなり何を言い出すのよ?」
クリスタが呆れた顔で口を挟む。
「あなたを連れて行くなんて話が、いったい何処から出て来るのよ?」
「……あのなあ、『竜殺し』? 俺は魔王様と話してるんだぜ、邪魔するなよ?」
レジィ頭を掻きながら、馬鹿にするような感じで吐き捨てる。
「ガロウナ――勘違いしているのは、あなたよ?」
「あなたはカミナギを殺そうとしたのよ……それを私は許していないわ!」
剣に手を掛けたのでも、魔法を発動させた訳でもない――
それでもクリスタが放つ迫力に、レジィは戦慄を覚えた。
(さすがは『竜殺し』って訳か……面白れぇ!)
レジィは半ば反射的に二本の大剣を構えた――戦慄という感覚は『戦闘狂』レジィを引き下がらせるどころか、さらに好戦的にする。鳥肌が立つほど強い奴と戦うこと以上に、面白いモノなど無いのだ。
「あのさあ……二人で盛り上がっているところ悪いけど。俺はレジィを連れて行くつもりなんてないから?」
カルマが惚けた調子で入ってきた。
「カミナギ……だったら最初にそう言いなさいよ?」
少し怒った感じのクリスタに、そっちが勝手に話を進めたんだろうと揶揄うように笑う。
「おい、どういうことだよ? てめぇは俺に同行しろって言ったじゃねえか!」
「あのなあ……その話は、おまえの剣を直した時点で終わりだろう?」
「そんな話は聞いてないぜ……なあ、魔王様? 事実だけ答えてくれ……おまえは俺に同行しろって確かに言ったよな?」
琥珀色の瞳が強かな光を放つ――もう完全な屁理屈だったが、本人も自覚した上でゴリ押ししているのだ。
そろそろ――カルマは面倒臭くなっていた。それこそ、レジィの下らない話に付き合う義理などない。
「おい、レジィ――」
だから、決定的な一言を言おうとしたが――自分の不利を敏感に察したレジィは、何処までも狡賢く立ち回る。
「……ああ、そうだ! 一番大事なことを言うのを忘れていたぜ!」
大声でカルマの言葉を掻き消すと、抜け目のない視線をオスカーに向けた。
「なあ、魔王様……このアクロバットマンは、俺の『純潔』を無理矢理奪ったんだぜ? その責任を、どう取ってくれるんだ?」
「「え……」」
唖然として言葉を重ねたのは、オスカーとクリスタだった。
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