第67話 カルマの条件
クリスタが何を考えているのか、カルマには表情から容易に想像できた。
(後で質問攻めにされるのは覚悟するしかないけど――オスカーの奴も今さらレジィと一戦やるって感じじゃないし。これ以上面倒なことになる前に片付けるか?)
そんな感じで――カルマが考え事をしている間も、レジィは当然攻撃を続けていた。
「……俺を舐めるな!」
相手にされていないことに怒り、だったら隙を突いて仕留めてやると果敢に攻撃を繰り返すが――カルマはよそ見をしながら剣だけ動かして、簡単に防いでしまう。
「てめえ……魔法を使っているだろう? 汚ねえ真似しやがって! この○○ナシ野郎が!」
最初はカルマを魔術士だと思って接近戦を仕掛けたのだから、こんな台詞は身勝手な八つ当たり以外の何物でもない。しかし、手も足も出ない屈辱的な状況がレジィをさらにヒートアップさせる。
「ふざけやがって……てめえは絶対殺してやる!」
怒り狂い、力任せになった攻撃は確かに単調だった。
それにも気づかず、レジィは肩で息をしながら攻撃を繰り返す。
「俺が魔法を使ったとしてさ……何か問題があるのかよ?」
ようやく視線を戻したカルマは、レジィの怒りなど何処吹く風で鼻を鳴らした。
実際には魔法など使っていない。精密レベルで魔力を感知できるカルマには、視覚などに頼らなくてもレジィの動きが解るのだ。
あえて魔法の話を持ち出したのは、言い訳臭いことを言うレジィに呆れたからだ。
感情を優先する似たようなタイプかと思って少しは興味を持ったが――精神的な執拗さはアクシアに遠く及ばないな。
もはや興味を失ったという感じで、漆黒の瞳が静かに見る。その意味を、レジィは本能で感じ取った。
「ああ、そうかよ……だったら、
レジィは獰猛な殺意をカルマに向ける。
その瞬間――レジィの全身から銀色の光が溢れ出した。
(自分じゃなくなっちまうから使いたくなかったが……もう構わねえ! どんなことをしてでも、こいつだけは絶対に殺す!)
レジィが何をしようとしているのか、カルマは魔力を感知することで理解した。
だから溜息をついて、呆れ果てた顔をする。
「悪いけど、それは駄目だ――おまえを殺す訳にはいかないからな?」
カルマが金色の剣を一閃すると――レジィの大剣が二本とも根元から折れる。
全く予想外の出来事に、レジィは我に返った。
「……お、俺の剣があああ!」
がくりと膝を突いて崩れ落ちる様子に、クリスタが意外そうな顔をする。
レジィが放つ異様な魔力に彼女も気づいていた。それが剣を折ることで、完全に消失してしまったのだ。
「カミナギ……どういうことよ?」
「悪いな、クリスタさん。その説明は後回しだ――」
カルマはレジィの前に立って顔を覗き込んだ。
それすら気づかない様子で、レジィは柄だけになった剣を握り締めて、折れた二本の刃を呆然と眺めている。
「おい、レジィ。よく聞けよ――俺ならその剣を元通りに戻せるんだけど?」
レジィはハッと顔を上げる、食い入るようにカルマを見る。
「てめえ……今の話は本当だろうな?」
「ああ、勿論だ。ただし、条件がある――」
レジィは顔をしかめて、吐き捨てるように言った。
「解ってるさ……もう、おまえたちのことを狙うなってことだろう? だったら――」
「いや、そうじゃないから」
食い気味にレジィの台詞を遮って、カルマは意地悪く笑った。
「おまえが俺たちを狙いたければ、好きにしろよ? 別に襲ってきたところで、返り討ちにするだけだからな」
「……だったら、どんな条件だよ?」
どうせ俺の足元を見て無茶な条件を吹っ掛けるんだろうと、レジィは舌打ちする。
「いや、おまえにとって難しい話じゃない。条件は二つ……いや、三つだな? 一つ目は、しばらく俺たちに同行すること。二つ目は、その間は俺の許可なく暴れないことだ」
レジィは訝しそうな顔をする。
「暫くってどのくらいだよ? 一週間か? それとも一月か? 期間次第で条件が全く変わるだろう?」
「まあ、長くて二、三日かな? 三日を超えないって約束しても構わないよ」
意外な短さに、レジィはさらに疑いを強めた。
「だったら……早く三つ目の条件を言えよ?」
同行の強制と暴力行為の禁止――つまりは逃げることも、抵抗することも許さないってことだ。二つの条件はレジィの行動を制約するが、具体的な内容には一切触れていない。結局は三つ目の条件次第であり、そこに本当の要求があるのだ。
何を要求されるのか、レジィは想像を巡らせる。
この男にとって、剣を折られたレジィを殺すことなど容易いだろう。だから殺すための条件を要求してくるとは思えない。
だったら、わさわざ取引をしてまで何を要求するのか――金か? いや、金を持っているようには見えないだろう? なら他に考えられることは――
口に出せない想像をして、レジィは思わず顔を赤らめた。
「……て、てめえ! 何を考えてやがる!」
「おまえなあ……絶対に何か勘違いしてるだろう?」
カルマはジト目になる。背後から突き刺さるクリスタの冷たい視線が痛かった。
「そうよ、カミナギ……貴方が考えている三つ目の条件を、早く正直に言いなさい!」
言葉も態度もアレだが――少なくともレジィの外見は、ケモ耳でナイスバディな美女なのだ。
「クリスタさんまで俺を何だと……ああ、引っ張り過ぎた俺が悪かったよ。三つ目の条件は、オスカーと再戦することだから」
「「え……?」」
カルマが出した条件に意外そうな反応をしたのは二人――レジィとオスカーだった。
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