第66話 レジィ・ガロウナの戦い方
レジィ・ガロウナは感情的で動いていたが、同時に狡猾な計算をしてした。
カルマを指名した
『竜殺し』クリスタの名は獣人たちの間にも広く知れ渡っていた。
幼き日に竜を殺したという伝説だけではなく、白鷲聖騎士団長クリスタ・エリオネスティは実際に数々の戦果を上げている。獣人たちに対しても然り――貴族を惨殺した犯人こそ捕らえてはいないが、その他のラグナバル周辺地域で暴力事件を起こした獣人全てが、彼女の手によって仕留められているのだ。
それでもレジィは貴族を殺した犯人が『霊獣憑き』だと知っていたから、『竜殺し』も所詮は『霊獣憑き』より格下だと考えていたが――『霊獣憑き』の中でも屈指の実力者であるギルニス・ドレイクを瞬殺する姿を目撃して、評価を変えたのだ。
(面白れえ……俺が絶対に狩ってやる!)
カルマという男もギラウ・ナッシェを仕留めているが、所詮は脳筋を力で捻じ伏せたに過ぎない。それにギラウを弾き飛ばした強大な力は魔法だろう。
剣を持って偽装しているが、この男の正体は魔術士なのだ。戦闘中に一度も剣を抜かなかったことが良い証拠だ。相手が魔術士なら――
遠距離から攻撃されたら厄介だが、接近戦で戦えばレジィの敵じゃない。
(どれだけ強力な魔法だろうと……当たらなければ意味がないぜ! 脳筋ギラウとの実力違いを、てめえに思い知らせてやるよ!)
そんな思惑を以て――レジィは、大地を蹴って躍動した。
カルマとの距離を一気に詰めて、右の大剣を突き出す――頭の高さの剣は、レジィが瞬時に身を屈めることで大きく軌道を変えてカルマの左足を狙う。
ギラウを至近距離で跳ね飛ばしたカルマの
カルマはベルトの短剣を素早く抜いて大剣を弾いた。
「……チッ!」
続けざまに、レジィは左の大剣を下から斜め上に一閃した。今度は横の動きを加えて、さらに自分の身体を使って死角を作り、見えない位置から斬撃を見舞うが――
カルマは無造作な動きで金色の剣を引き抜いて、受け流してしまう。
「おまえみたいな馬鹿も嫌いじゃないけどさ……少しは空気を読めって? おまえに用があるのは俺じゃなくてオスカーだから。あいつを無視して突っ掛かってくるなよ」
漆黒の瞳が揶揄うように見る。
「……うるせえな! てめえこそ散々俺を無視しておいて……ふざけるなよ!」
飛び退いて距離を空ける。あまりにも近すぎる間合いは大剣には不利だからだ。
感情的な言葉を吐きながらもレジィは冷徹に計算する。本当にふざけるなよ! この男は唯の魔術士なんかじゃない――
カルマは剣の技量だけで、レジィの攻撃を防いだのだ。
自分が考え違いをしていたことをレジィは思い知らされた。今の攻撃だって決して手を抜いた訳ではない。この男は接近戦でもレジィが全力で挑むべき相手だ。
「ホント……笑えねえな。あれだけの魔法を使うくせに、剣も使いこなすのかよ!」
大剣の間合いを保ちながら、レジィは次々と斬撃を放つ。本気の魔力を注ぎ込んだ二本の大剣が、上下左右からカルマに襲い掛かった。
重さと素早さを兼ね揃えた、一撃一撃が必殺の威力を持つ斬撃。しかもタイミングや位置をずらすなど、あらゆるフェイントを使って休みなく攻撃を浴びせるが――
先に息を荒げたのはレジィの方だった。
大剣の間合いという不利な状況で戦っているにも関わらず、カルマは一切魔法など使わずに、剣と短剣だけで全ての攻撃を防いだのだ。
「て、てめえ……
犬歯を剥き出しにしてカルマを睨む。
「あのなあ……おまえって結構頭が回るくせに、沸点が低過ぎるんだよ? 熱くなると攻撃が単調になることに気づいていないだろう?」
別に挑発するつもりではなく、カルマは冷静にレジィを分析していた。
面白い奴だと思ったから、とりあえず付き合ってはみたけど――正直に言えば拍子抜けだった。もっと形振り構わず、手段を選ばないで攻撃してくると思っていたのだ。フェイントを使ったところで、結局は正攻法ならカルマに
(真面目に鍛錬してきたクリスタさんには悪い気もするけど……剣術とか格闘とか、俺のは全部
元居た世界で蓄積された戦闘技術と記録の全てを、カルマは
カルマは横目で他の三人の様子を伺う。
オスカーは『同族殺し』に完全に無視されたことに愕然として空気になっていた。
その隣でキースが宥めるように肩を叩いている。
そしてクリスタは――食い入るようにカルマとレジィの戦いを見つめていた。
(さっきの攻撃だって、決して簡単に止められる攻撃じゃない。戦闘技術で言えば、私が倒したギルニスなんて比較にならないわ……レジィ・ガロウナは本当に強い! それでも……カミナギにとっては大した相手じゃないってこと?)
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