六十一話
アカツキは雑兵を、凡将を斬って斬って斬りまくった。
彼の戟が振るわれるところ、立っていられる者はいなかった。
戟は血に塗れ、風を切る音とともに緑色の血のりを飛散させていた。
ググリニーグが夢の中で何を言ったのかが思い出せなかった。とても重要なことだったようにも思う。
「ガルム」
隣で同じく馬上の人として戟を振るう、赤装束の目付け役にアカツキは尋ねた。
「何か?」
「夢の内容を思い出させる魔術というものは無いか?」
「ありませんね」
ガルムはそう言う応じた。
「将軍達を死なすな! 俺達も手柄を上げるんだ!」
大声が持ち味の副将スウェアが叫ぶと徒歩の兵士達はアカツキとガルムを追い抜いて行き敵とぶつかった。
「何か気になることでも?」
「ああ。とても重要なことを俺は夢の中でググリニーグに聴かされたような気がする」
「……記憶の回廊を遮断されてますね」
ガルムが呟いた。
「そうだ。そんな感じだ」
アカツキが言うとガルムは頭を振った。
「残念ながら手はありません」
「そうか……。まぁ、命があっただけ良かったのかもしれないな。ガルム、すまん」
「いいえ……」
見るとガルムの仮面が無表情な面に変わっていた。初めて見る顔だ。意味深に思えたが、アカツキは別段問うことも無く今は戦場に集中することにした。
「前に出るぞ!」
アカツキが言うとストームは理解したように駆け始めた。
長槍を振るい敵兵を食い止める前衛の中に押し入り戟を振るう。
やがてツェンバーの兵らは退き始めた。
「総大将より伝言!」
逃れ始める兵達を追い立てるべく声を上げようとしたところに伝令が現れた。
「ヴィルヘルムからか。何だ?」
「はっ、ツェンバーの城は三方を谷に囲まれ攻め落とすには時間が掛かる見通しとのこと。アカツキ将軍は速やかに兵半数を率いてエイクスと交戦中のブロッソ将軍の御助勢に向かわれたし」
アカツキはヴィルヘルムの内心が分かった。相手が籠城では将の首はやすやすと取ることはできない。だからこそ、他の戦場で残る首級を上げて来いという親友の気遣いだろう。
願っても無いことだが……。
「本当に俺が去っても良いのか?」
「大丈夫ですよ、アカツキ将軍」
声がし、見れば馬上のグラン・ローが隊を率いて合流してきた。
「将軍の残る半数は私が受け持つことになりました。将軍にはやることがあるでしょう、あなたの国の捕虜達のために」
グラン・ローが笑みを見せて言った。
思わずアカツキは感涙しそうになった。
俺は同僚に恵まれている。余所者だというのに本当に闇の者達は気の良い奴らばっかりだ。だからこそ親書を貰い届け、双方を和平させたい。そうするためには、まずはあと三つの首が必要だ。
「すまん」
アカツキはそう言うと兵達を振り返った。
「アカツキ隊、半数はグラン・ロー隊に移れ! 残りは俺について来い!」
ガルムが魔法陣を開く。
アカツキは先頭で駆け、闇夜に輝く魔法陣の中へ飛び込んだのだった。
二
「アカツキ隊、鬨の声を上げろ、えいえいおー!」
「えいえいおー!」
部下達が声を上げた。
エイクスの敵勢はこちら側を砦ギリギリまで押し込んでいた。
「敵のどてっぱらを衝く! 俺に続け!」
ストームが嘶き前進する。徒歩の部下達もスウェアの叱咤激励により余力を惜しまず続いてくれた。
俺が斬って斬って斬りまくらねば!
疲労困憊の部下達を見てアカツキはそう心を決めた。
戦場の音が聴こえてくる。敵影がグングン近付いて来る。
と、鬨の声に反応したと思われる敵が別動隊を差し向けてきた。
八千ぐらいか。今の俺の兵は四千ぐらいだろう。倍だが恐れるな、俺は何せ地獄の悪鬼だからな!
アカツキは咆哮を上げた。
別動隊の騎馬隊とぶつかり、戟を振るって血煙を浴びながら速度を緩めず敵に食い込んで行く。
「地獄へ行きたい奴はどこだ!」
アカツキは大音声で叫び得物を縦横無尽に振るう。ストームは主の行動を読み、速度はそのままに長い首を下ろしていた。
「俺がお前を地獄へ落としてやる!」
将が現れた。
「我が名はアンクル!」
「俺の名はアカツキだ!」
アカツキとアンクルは戟と槍を交えた。
アンクルの多彩な突きをアカツキは易々と弾き返した。
「口ほどにも無い奴! 地獄へ行け!」
アカツキの渾身の一撃がアンクルの首を刎ねた。
「アカツキ将軍、これで残る二つですね」
ガルムが馬を寄せてきて言った。
「ああ」
だが、別動隊は率いる将の死を知らずに果敢に攻めてて来ている。
疲労困憊の部下を思いアカツキは敵将の首を掲げて言った。
「見よ! お前達の主は俺が討ち果たした!」
アカツキの野獣の様な咆哮に、部下達が鬨の声で続く。
状況を知った敵部隊は退却を始めた。
「お前達、御苦労だが、このまま敵を追いつつ、雪崩れ込むぞ!」
アカツキは長い得物を掲げて部下達に言った。
そしてガルムと並び、背を向けて逃げるばかりの敵兵を追いつつ、背後からあの世へ送ってやった。
こいつらもきっと徴兵された民衆なのだろう。そう思うと心が痛かったが、やらればならなかった。少しでも敵の数を減らし、まずは拮抗するまでに追い詰めなければならない。こうしている間にもブロッソは苦労しているだろう。
アカツキは戟を振るい血溜まりと屍を築き上げ懸命に馬を駆けさせたのであった。
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