五十一話
ラルフ、グレイとは砦で別れた。ツッチー将軍も名残惜しむようにして送り出してくれた。
早く八つの首級を上げて帰参しなければ……。
だが、今まで捕虜達の事ばかりに気が入っていたが、帰参したらどうする?
アカツキは光側の将として参戦し、アムル・ソンリッサの軍勢を傷つけ、殺さなければならない。親しくなった諸将とも殺し合いをしなければならない。
俺はそんな未来を望んだわけでは無い。だが、どうすればそんな未来を回避できるのだろうか。
「アカツキ将軍、魔法陣が開きましたよ」
ガルムに言われアカツキは我に返った。
今はただ八つの首級を上げるのみ。そう言い聞かせるがわだかまりがある。
アカツキは半ば思いを振り切るようにして魔法陣に飛び込んだ。
二
急ぎ玉座のアムル・ソンリッサに拝謁を求めた。
「陛下、光の者達を説得することに成功しました」
膝を付きそう言いながらアカツキの脳裏を疑念が過ぎった。俺はいつの間にこの魔族の女を陛下と呼び敬う様になってしまったのだろうか。俺の忠義は光の王都にある国王へ向けられているはずだった。俺は一体、どうしてしまったのだ。
「御苦労アカツキ将軍。さっそくだが、戦場へ出て貰いたい」
アムル・ソンリッサが言った。
「はっ……」
「ランガスターの勢力と戦っているシリニーグを助勢して欲しい。将が足りぬはずだ」
「承知しました」
何も考えるな。俺は捕虜達を救わねばならぬのだ。
アカツキは玉座を後にした。
演習場にガルムが再び魔法陣を展開する。そこには愛馬ストームとガルムの馬ライトニングが既に待っていた。リムリアもいる。
「アカツキ将軍、行ってらっしゃい」
リムリアが微笑み掛ける。
「ああ」
アカツキは応じた。
「どうしたの?」
リムリアが尋ねてきた。
「何だ?」
「何か悩んでるように見えるよ。あたしで良かったら相談に乗るよ」
吐露したかった。リムリアもこの勢力の者とは懇意な仲である。再び光側に戻って、アムル・ソンリッサと争うことをどう思っているのか。
「いや、何でも無い。ただ……」
「うん?」
「帰ってきたら少し相談に乗って欲しい」
「分かった」
リムリアが頷き、そして表情をパッと輝かせた。
アカツキはストームに跨ると魔法陣に飛び込んだ。
三
原野に出た。
遠くで争う声と音が聴こえて来る。
「アカツキ将軍、急ぎましょうか。戟をどうぞ」
傍らのガルムが長柄の得物を渡してきた。そして自分も同じ物を握っている。細腕なのになのにもかかわらず腕一本で戟を旋回させていた。
オーク城でのライラ将軍とのやり取りを思い出す。過去に何かがあったことは明白だが、今はそれを聴いている暇は無い。
「行くぞ、ストーム!」
アカツキは馬腹を蹴った。
そしてグングン速度を上げ、交戦中の敵軍へ斬り込み、血を飛散させながら味方陣営の最前線に着いた。
「アカツキ将軍!」
声を掛けたのは徒歩のグラン・ローだった。最前線で盾を持ち剣を振るっている。
「ここの指揮は私で間に合ってます! 反対側をお願いします!」
「分かった!」
アカツキは再び駆けた。
シリニーグの姿が無かった。前へ出ているのだろうか。
アカツキが反対側左翼に入ると、聞き覚えのある大声が轟いた。
「アカツキ将軍!」
それは何度か一緒になった副将スウェアという男だった。
「アカツキ将軍が来るまでここの指揮を任されておりました」
「分かった。後は任せろ! 俺は前へ出る!」
アカツキはストームを疾駆させ、味方の兵の間を抜け、鬼気迫る最前線へ飛び出した。
「将が出てきたぞ!」
「その首貰った!」
「取れるものなら取ってみろ!」
歩兵が槍を繰り出すがアカツキは咆哮を上げ、戟で受け止め弾き返し、旋回させ、その首を数本一気に奪った。
首を失った幾つもの胴体が血煙を上げて地面に倒れた。
しかし敵勢は高揚した勢いで次々突撃してくる。
アカツキは複数の凶刃を受け止めて反撃したが、身体が疼いて仕方が無かった。
「ストーム、下がれ」
アカツキは馬上から跳び下りる。愛馬は主人の言うことを聴き味方陣営の中へ駆け去って行った。
「さて」
アカツキは戟を落とし、左手に斧を、右手に剣を持った。
「ここからが本番だ!」
アカツキは二本の武器を手に敵陣へ斬り込んで行った。
雑兵が次々首を討たれ、アカツキの軍勢は少しずつ突き進んで行った。
アカツキは夢中になって戦場の鬼として得物を振るい、血溜まりと屍を築き上げていった。
「アカツキ将軍に遅れるな!」
副将スウェアの大声が木霊する。
「アカツキだって!?」
「あの地獄の悪鬼のアカツキか!?」
敵兵達が囁き合い、離れようとする。
「どけ、兵ども!」
敵陣の後方から馬上の男が現れた。
黒の外套をはためかせ、黒竜の顔の仮面を被っていた。
「貴様か、最近売り出し中の悪鬼アカツキとは」
相手は馬上から跳び下り腰から両手持ちの剣を抜き放った。
「我が名はググリニーグ。ランガスター様、一の将だ! 貴様との一騎討ちを所望する!」
「ガルム、こいつの首の値段はどれぐらいだ?」
アカツキは斧と剣を構え相手を見据えながら尋ねる。
「残る八つの首に相応しい価値がありますね」
ガルムの声が後ろから聴こえた。
「幸先が良いな!」
アカツキは野獣のような咆哮を上げてググリニーグに襲い掛かった。
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