人類の危機編
第7章 守護者
69.引っ越し
カーテンのないリビングの窓から夕陽が差し込み、リビングを一面オレンジ色に染める。
そのリビングにはソファーもなければ、テーブルも棚もなかった。文字通り空っぽだった。
何もない部屋の中央に、ぽつんと佐々木優理が佇む。
佐々木優理は目を細めながら、窓の外の夕焼けを眺めていた。
青空と夜空をつなぐ赤から紫への寂しげなグラデーションが美しい。
日頃、あまり意識したことはなかったが、マンションの最上階からの景色は、やはり綺麗だ。
「この景色ともお別れか……」
自然とため息が漏れる。複雑な感情が混じり合い、少し胸が締め付けられた。
今日は引っ越しの日だった。ついさっき、引っ越し業者が最後の段ボール箱をマンションから運び出し、トラックで出発した。
そして、もうすぐ、ここに不動産管理会社の担当者がやってくることになっている。
あとは担当者に鍵を返却すれば、もう部屋に入れない。
二度とこの景色を見ることはないのだ。
赤く染まった遠くの山々のシルエットに、ふと山下拓と伊達裕之の顔が浮かんだ。続いて、加賀瑞樹と小泉玲奈の顔が浮かんでは消えた。
二度と見ることができないのは、景色だけではない。もうアルファレオニスのメンバーの顔も見ることはない。
佐々木優理は、先日、勤めていたアルファレオニスを退職した。
会社が嫌になって辞めたわけではない。もちろん、会社に不満が全く無いと言えば嘘になる。給料が安いとか、山下拓がムカつくとか、伊達裕之が頼りないとか、仕事量の割に社員が少ないとか。小さな不満を数え上げたらきりはない。
だが、それらが退職した理由ではない。
社長の伊達裕之に辞表を提出した時、本当の理由は言わなかった。
適当にでっち上げた嘘の理由を伝えて、すんなり辞めさせてもらった。
なぜなら、本当の理由を言ったら、引き留められると思ったから。
「あたしは
いつまでも嘘をつき続けながら、あそこに居続けてはいけないのだ。
どれだけ居心地が良くても。
その時、背後に人間の気配を感じた。
突然、何もなかったところから冷気が湧き上がるような感覚。これは不動産管理会社の担当者の気配ではない。戦闘のプロのしわざだ。
そして、この気配には覚えがあった。
次の瞬間、ひんやりとした固い金属が押し当てられたのを背中で感じた。
間違いない。これは銃口だ。
佐々木優理は後ろを振り向かず、窓の外を眺めながらゆっくりと口を開いた。
「いったい何のつもり?
その問いに、背後から聞き覚えのある女の声が返ってきた。
「言わなくてもわかるだろ? 優理」
レオズシクル ~美女に救われ、姉と世界を救えるか~ ゆきや @yukiyatakanashi
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