67.質問の答え(2)
「
高く跳び上がった加賀瑞樹の大鎌の刃から放たれた無数の黒い球体が、全方向から一斉に金城龍に向かって飛びかかる。
全弾命中。
間髪入れずに加賀瑞樹は、金城龍の胴体を大鎌で一閃した。
金城龍の身に着けている衣服が静止し、空間上のその位置に固定される。
「これでもう、叔父さんは動けない」
加賀瑞樹は大鎌を消し、立ったまま微動だにしない金城龍を見た。
金城龍は両目を閉じ、静かに言った。
「瑞樹よ。確かに俺の動きを止めた。それで、どうするのだ?」
「え?」
「アビリティの効果を永久に持続させることは不可能だ。お前の体力や精神力が尽きなくとも、夜、眠りに落ちて意識が途切れればアビリティも切れるだろう」
金城龍がゆっくりと目を開けると、加賀瑞樹を見た。
「それまでに、お前は俺を殺せるのか?」
加賀瑞樹は言葉に詰まった。
叔父を止めることしか考えてなかった。
アビリティで叔父を止めさえすれば、全てが解決するような気がしていた。
だが、現実は違った。
止めただけでは何も解決しなかったのだ。
「自分が傷つきたくない。だから、相手も傷つけない。そんなお前の弱い心から静止のアビリティの技が生まれたのだろう。だが、そんな貧弱な心では、誰も守れない。誰も助けられない」
金城龍が全身に力を入れると、軍服の動きを止めていた静止のアビリティが、あっさりと破れた。そして、加賀瑞樹の方に向き直る。
心に突き刺さる言葉に、加賀瑞樹は動揺した。
「そんな……。僕の力じゃ、みんなを守れない……?」
「そうだ。お前に、育ての親である俺を殺す覚悟があるのか?」
「……そんなこと、できるわけない……」
「その程度の覚悟すらないお前に、人を守ることなどできない。絶対にな」
一瞬にして絶望感に支配された加賀瑞樹は、その場にひざをつき、頭を抱えた。
目の前が真っ暗になる。
「僕は……。僕は……」
「自分の弱さがわかったなら、死ぬまで大人しくしていろ」
金城龍が右腕を引くと、そこからパンチを繰り出した。
右こぶしが加賀瑞樹の腹部にめり込み、次の瞬間には、加賀瑞樹の身体が吹き飛んだ。
背中から壁に激突したところで、加賀瑞樹は意識を失った。
☆
加賀瑞樹が意識を失ったことを確認すると、部屋の中央を眺めながら金城龍は大きくため息をついた。
「そこにいるんだろ? 亜梨紗」
「……やっぱり気づいてたのね」
誰もいなかった部屋の中央付近に、突然、虹色のシルエットが現れたかと思うと、そこには秦野亜梨紗が佇んでいた。
「当たり前だ。連邦の道具で姿は消せても、お前の香水の匂いまでは消せない」
「ふふふ」
秦野亜梨紗が楽しそうに笑う。
「リュウは、本当に嘘つきね。そうやって、いつも怖い顔をしているのは、嘘がばれないようにするためかしら」
「いつ俺が嘘をついた?」
金城龍は秦野亜梨紗をにらみつけた。
「いつもよ」
秦野亜梨紗が長い銀髪を耳にかける仕草をした。
「わざと真実を言わないのは、嘘をついているのと同じ。自分の非を認めない分、むしろ、嘘よりもたちが悪いかもね」
「何が言いたい?」
「重要なことを、瑞樹に話ししていない」
秦野亜梨紗の瞳が鋭く光る。
「アナタを殺したら地球が滅びるということを」
「ふん。今は言う必要のないことだ」
金城龍は秦野亜梨紗に近づき、すれ違いざまに肩を叩いた。
「亜梨紗、瑞樹を家まで送り届けてくれ」
「口止めもしないで帰すなんて。身内には甘いのね」
秦野亜梨紗が振り向き苦笑する。
「覚悟が足りないのは、どちらかしら? これがアナタの命取りにならなければいいけど」
それには答えず、金城龍は黙って部屋から出た。
部屋に残された秦野亜梨紗が不敵な笑みを浮かべながら呟いた。
「まぁ、私は私で、勝手にやらせてもらうわ」
☆
その頃、アルファレオニスのオフィスでは、佐々木優理と伊達裕之が深刻な表情で向かい合っていた。
「―――というわけで、あたし、アルファレオニスを退職する」
佐々木優理の右手には『辞表』と書かれた封筒があった。
「……優理ちゃん」
伊達裕之は力なく呟いた。
「今まで、お世話になりました」
辞表を両手に持ち替えた佐々木優理が、頭を下げながら伊達裕之に手渡した。
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