第6話

ありがとう。こんな綺麗な夕日を見せてくれて。


お昼過ぎに私と太郎は初の2人外出に出発しました。初デートが雨なんてロマンチックだねって、浮かれてる太郎を横に私は傘をどうするべきか考えていた。

私だけが傘をさすべきか太郎にも傘を持たせるべきか。まず、太郎に持たせた場合傘だけ浮いている事になってしまうかもしれない。両親や私が見えてるように、その他の人にも見えているかはわからない。なのでそれは無しで考えます。

私だけが持つ場合、太郎は濡れてしまうのか。濡れなくてもそれは少し申し訳ない。

「太郎、ちょっと雨に打たれてみて。」

「えっ!なんで?これから出かけるのに濡れちゃうじゃん。」

「幽霊だから濡れないかもしれないでしょ?」

あ〜と妙に納得した太郎は玄関から少し出て雨に当たる。すぐに戻ってくると太郎の服は濡れていなかった。

「全然濡れなかった!」

濡れないんだ。おばけじゃん。

私はここでハッとしました。靴は?

「足は?濡れた?」

「大丈夫みたいだよ。」

大丈夫なんだ、よかった。

準備できた?と母がやってきた。

「気をつけて行ってきてね、2人とも。ちゃんと2人で無事に帰って来るんだよ。」

『行ってきまーす。』


太郎は嬉しそうに私の少し前を歩いている。

雨の中太郎だけが濡れていないのは不思議な光景で眩しく見えました。

私達は家から20分くらいの所にある噴水広場を目指していました。まだ結構ある。

「…太郎。」

振り向く太郎は嬉しそうにありがとうと言って私の傘の中に入ってきました。

相合傘、私は前しか向いていられない金縛りにあってしまった。心臓がドクドクする、チクチク当たる腕が緊張で痛い。息すらもまともにできないなんて。絶対顔こわばってる。もたない。公園まで、もたない。これって恋?無い無い!


1人頭の中をぐるぐるしていると遠くの方から人が来る、恥ずかしい。

見られる!見られる?見えるの?

もし見えたとしたら太郎は裸足ですごくおかしい!どうしたら。

太郎の方を見るとまっすぐに向かって来る人を見ている、試すように普通にまっすぐ私の横を当たり前に歩いてる。私も、前を向いた。

すれ違う瞬間、その人は私だけを避けた。


私達は足を止めた。ちゃんと横にいる、私の横に。太郎はいます。視線を上げ太郎を見ると悲しい顔で笑っていました。


「もうすぐだから、行こう。」


そう声をかけると太郎はこくんと頷きました。

公園までの道、私達は見えない事で悲しいような安心したような複雑な気持ちになっていました。

公園に着くと屋根のある濡れていないベンチに座りました。太郎は私にピタっと腕が当たるくらい近くに座りました。私はそれを受け入れました。

「ほかの人には見えないんだね。」

「そうだろうなとは思ってたけど、実際体験すると結構きつい。」

ここにいるのにいない。

「誰だ。」

自分がわからない。

「…」

「…」


私はとっさに手を握った。

「はじまったばっかりじゃん。他の人には見えないって事、わかってよかったね。」

太郎はこくんと頷きました。

「本当にまくらちゃんがいてくれてよかった。まくらちゃんが好きって事だけずっとあるから、いなくならないでね。」

「わかった!からもう、言わないで!恥ずかしくなる。」

少し元気になれた私達はいつのまにか上がった雨に気づいて噴水の方まで歩いて行った。

「前に本屋さんを見つけたの、結構不思議な感じでなんかわかりそうな気がするから一緒に行ってみよっか?」

「まくらちゃんとならどこまでも!」

太郎は元気じゃないと調子狂う、元気でも調子狂う事言うけど。

「この噴水ね、私が小さい頃からあるの。水が溜まるタイルのところだけすごくキレイなタイルを使ってるの、水を綺麗に見せるために作ったんだって。」

噴水を覗くと雲の隙間から差してきた光に照らされて、水面がキラキラしていた。

水もすごくキレイだった。

水面には私しかうつっていなかった。

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