第39話

 笹岡西高校に到着した。


 汐莉の言っていたように校門は大通りから離れた奥まった所にあって見つけ辛く、確かに一人では迷っていたかもしれない。


 自転車を置いて二人並んで体育館に向かった。

 笹西の体育館は栄城のそれと違い一階建ての構造だ。


「あ! 二人ともおはよぉ~」

「おはようっす!」


 玄関をくぐると練習着姿の優理と星羅が立っていた。


「おはよう」

「おはよう! 早いね二人とも」

「さっき着いたところっすよ~」

「私たち先に行って準備の手伝いをしてるから、二人は着替えておいで」

「うん、ありがとう。永瀬くん、こっちだよ」


 汐莉に連れられて更衣室へ向かった。

 汐莉と別れて男子更衣室に入り手早く着替えを済ませる。

 鍵付きのロッカーはないため荷物を担いで更衣室から出た。


 すると修が廊下に出るのとまったく同時に汐莉も出てきたので、二人は顔を見合わせて驚いた。


「わぁびっくりした! 私たちシンクロしてたみたい!」

「そ、そうだな」


 汐莉が楽しそうに笑う姿がかわいくて、修は気の利いた返しができなかった。


「てか、着替えるの速いな」


 修は女子という生き物は着替えにもっと時間がかかるものだと思っていたので、自分と同タイミングで着替え終わっていたことに驚いた。


「それ皆にも言われるんだ~。皆で一緒に着替え始めると大抵私が待つことになってるね」

「俺は待ち時間がなくて助かるよ。じゃあ行こう」

「OK! 付いてきて」


 汐莉と共に薄暗い通路を通り、フロアへの扉を開いて中に入ると、数名の生徒がモップがけやタイマーのセッティングを行っていた。

 その中には優理と星羅の姿もある。栄城の上級生はまだ誰も来ていないようだ。


「おはようございます!」


 汐莉が大きな声で挨拶をしたので、修も反射的にそれに続いた。


「おはようございます!」


 するとフロアにいた全員が一斉に視線をこちらに向けてきた。


「あれっ! 男子がいるっ!」


 その中の一人の女子生徒が凄い勢いで走り寄ってくる。


「おはようございますそらさん」

「おはよう汐莉っ! この子は?」

「うちの新入部員です」

「マネージャーとして入部しました、永瀬修です」


 汐莉に紹介される前に自分から挨拶し、頭を下げた。


「そうなんだねっ。アタシは二木ふたき 空っ!よろしくっ!」


 空がニコッと笑い勢いよく右手を差し出してきたので、修も「よろしくお願いします」と言いながらその手を握る。

 すると空は勢いよく上下に手を振ってきたので、修は肩が外されるのではないかと焦った。


 空は見た目も話し方も元気いっぱいで、活力に満ちているようだ。

 短めのスポーティな髪型がさらにその印象を引き立てる。


「もー、空さん、昨日その話したじゃないですか……」


 空の後ろから長身の少女が呆れ顔でため息をつきながら現れた。

 晶には及ばないが、修に迫る身長で女子にしてはなかなか高い。

「そんなこと言ってたっけ?」と空が頭上にクエスチョンマークを浮かべながら首をかしげる。


「この人は広沢ひろさわ 飛鳥あすかさん。空さんが三年でキャプテン、飛鳥さんが二年で副キャプテンだよ」

「よろしくね永瀬くん」


 右手を挙げて気安く挨拶をしてくれた飛鳥に、修も頭を下げて応じた。


「ねぇねぇ! なんで女バスのマネージャーにっ? 修くんはバスケ経験者なのっ? っきいねっ! 身長何㎝っ?」


 矢継ぎ早に質問を浴びせてくる空に気圧されて、修は「えっ……」とか「あの……」しか返せずにたじろいだ。


「こーら! 困ってるでしょうが! その辺でおしまい! ごめんね二人とも」


 飛鳥が空を羽交い締めにして連行していく。

 修は心底助かったと思い内心で飛鳥に深く感謝した。


「面白い人たちでしょ?」

「ああ……特に二木さん、バイタリティがすげぇな……」

「空さんはプレーもすごいんだよ。楽しみにしてて」


 汐莉がまるで自分の先輩かのように自慢気に言うので、修は空への興味が俄然上がった。





 練習開始から二時間程経った。

 栄城から八人、笹西から七人の計15人での練習である。

 普段と違いメニューには、人数が必要なスクエアパスやオールコートでの三対三といった練習も組み込まれていた。


 空はというと、決して下手ではないもののイージーミスが多く、汐莉の言うすごいプレーは見られなかった。

 逆にミスの度に飛鳥に苦言を呈されている姿は何度も見られたが。


(期待はずれか……)


 修は失礼な事を思いつつ練習を眺めていた。

 一年生が若干レベルを下げているものの、やはり大人数の練習は見応えがあって良い。

 心なしか栄城メンバーもいつもより活き活きしているようにも見えた。


 するとタイマーのブザーが鳴り響き、今行っていたメニューの終了を告げた。


「灯湖っ、一旦休憩入れて試合形式ゲームでいいかなっ?」

「ああ、構わないよ」


 どうやらこの後は五対五の試合形式ゲームをするようだ。

 メンバーはそれぞれコートサイドにはけ、飲み物を飲んだり汗を拭いたりしている。


 修もタイマーから離れて栄城メンバーの近くに寄った。


「八分を二本やるらしいから、途中でメンバーを交代しつつでやっていこう。とりあえず一本目は私、晶、凪、菜々美、涼で行こうか」


 灯湖に呼ばれたメンバーはそれぞれ頷く。


「菜々美は空にマッチアップしてくれ。 空に振り回されないようにな」

「わかってますよ。いつも通りですね」


 灯湖を中心に簡単な打ち合わせをしている間に、修は番号つきのビブスを袋から取り出して出場メンバーに配った。


 受け取ったメンバーはビブスを着てコートに入る。


 自分の隣に星羅がいたのに気付き、修はちょうど良いとばかりに気になっていたことを尋ねてみることにした。


「なぁ、これがうちのベストメンバーだよな? ポジションてどうなってるの?」

「ポジションすか? ポイントガードが凪さん、シューティングガードが灯湖さん、スモールフォワード菜々美さん、パワーフォワード涼さん、んで、センターが晶さんっすね」

「なるほど」


 修は先輩たちが対外試合を行うのを見るのは今回が初めてだった。

 練習である程度の実力はわかっていたが、試合となるとまた違ったものも見せてくれるだろうという期待感が湧き、修は少しワクワクしていた。


(先輩たちのお手並み拝見ってね)

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