九月二十二日 午後七時十分
【承】 運命問答 其之弐
「立花志郎さん、あなたが向坂村に行くことになったのは偶然であったのでしょうか? それとも、運命であったのでしょうか?」
自殺した同僚の名前を出された直後、話題を反らすように稲荷原流香にそう言われた事もあり、私は考え込んでしまった。
向坂村に行くことになったのは、叔父である立花道三から代わりに行ってくれないかと提案してきたのが発端であった。やはり偶然だと思われる。しかし、それで流香が納得してくれるとは思えず、しばらく考え込むも、
「偶然しか考えられません」
私の頭では、そうとしか思えなかった。
私が退職した直後ということもあって運命のような気がした。しかし、運命であるとするのならば、もっと運命を感じさせるような事が立て続けに起こっていてもおかしくはないのだろうか。
「いえ、運命でしょう」
「その根拠は?」
「あなたは向坂村に呼ばれたのでしょう」
「誰にです?」
流香は私をどのような結論へと誘導したいのだろうか。
何か意図があるのはそれとなく察する事ができるのだけど、その意図を今の私には汲むことができない。
「あなたは同僚の松浦育巳の死を目の当たりにしたそうですが、それは自殺してからしばらく経った時でしたか? それとも、自殺した直後でしたか? はたまた自殺しようとした瞬間でしたか?」
「……えっと……痙攣していたので、直後だとは思うのですが……」
その時の記憶を呼び起こした瞬間、いいようのない嫌悪感と共に吐き気がしてきたものの、あの自殺を目の当たりにしてからというもの何度も体感した事のある感情の流れであったので、どうにか押し殺す事ができた。
鮮明とは言えない記憶の中で、松浦育巳は上司の机のところで首を吊っていた。そして、出勤してきた私を見て……
「……私を見ていた?」
そうだ。
そうだった。
首を吊った松浦育巳は、私をギロリと睨むなり、白目をむいて、痙攣をして、糞尿を垂れ流して……
「偶然にも、あなたは自殺した瞬間に立ち会ったのでしょう。故に、偶然なのでしょう、あなたが憑かれたのは」
「どういう意味なのですか?」
「立花道三、松浦育巳は偶然でしょう。ですが……」
流香はそう言いながら、不敵に笑った……
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