第65話 忍者1、旅立つ

「忍法! 次元越え! それでは父上、行って参ります!」


 昔、昔、日本国を治める徳川将軍に使える由緒正しき忍者の一族がいた。その一族の名を旧暦家と呼ぶ。その旧暦家の一人娘の睦月は、時間と次元を超える旅に出ることになった。


「楽しみだな。今夜は、年に一度の江戸祭りだ。」

 時は、西暦1800年。

「金魚すくいをやって、りんご飴を食べて、お面でも買って遊ぼうっと。」

 徳川の世が200年も続き、日本国と旧暦家は、平和ボケしていた。

「日本は何て平和な国なんだ。」

 この平和ボケしている娘が、旧暦家の一人娘の睦月である。

「うちも廃業だな。」

 もちろん睦月は、忍者として仕事をこなしたことは一度も無い。


「そろそろ、祭りが始まるな。私も出かけるとしよう。」

 その日の夜、暗くなってきたので睦月は、お祭りの会場に向けて出発した。

「お姉ちゃん、うちの犬のハチがいなくなっちゃったの。一緒に探して欲しいの。」

 夜道に女の子が1人、愛犬がいなくなって困っていた。

「いいよ。一緒にワンワンを探してあげよう。」

「ありがとう。」

 睦月は、女の子と一緒に、迷い犬を探すことになった。

「こっちは、立ち入り禁止の渋い谷だ。まあ、いいか。」

 平和過ぎて恐ろしい伝承は忘れ去られてしまっていた。

「お姉ちゃん、こっち、こっち。」

「はいはい。」

 女の子に誘われて、睦月は渋い谷に足を踏み入れていく。


「お姉ちゃん、ハチがいたよ。」

 女の子は、探していた犬を見つけた。

「良かったね。」

 睦月は、喜ぶ。

「お姉ちゃん、私じゃ抱き上げることができないから、ちょっとハチを持ち上げてみて。」

「いいよ。どれどれ。」

 睦月は、女の子に言われるままに、ハチを抱きかかえる。

「重い!? これは犬じゃなくて、犬の石像だ!?」

 睦月は、生き物の犬ではなく、石像の犬だと気づく。

「ありがとう、お姉ちゃん。封印を解いてくれて。」

 女の子は、可愛い声から悍ましい声に変っていた。

「何者だ!? おまえは!?」

 さすがの睦月も、女の子が人間でないことに気づいた。

「この犬の石像には108匹の凶悪な妖怪が閉じ込められていたのだ!」

 女の子も封印されていた妖怪の1匹であった。

「騙したな!?」

「騙される方が悪いのさ! さあ! みんな、出ておいで!

 犬のハチの石像から108匹の封印されていた妖怪が飛び出してくる。

「久しぶりのシャバだ! 大暴れするぞ!」

「おお!」

 108匹の封印されていた妖怪が江戸祭りの会場に攻撃を仕掛ける

「やめろ! やめてくれ!」

 封印を解いてしまった睦月の悲鳴は、誰にも届かなかった。


「ギャア!? お化けよ!?」

「幽霊だ!? 逃げろ!?」

 江戸祭りの会場に現れた妖怪たちは、祭りを荒らして無茶苦茶にした。

「どうだ! 人間共! 妖怪の恐ろしさを思い知ったか!」

「長い年月、封印されていた我らの恨みを思い知るがいい!」

 妖怪たちは、お祭りの屋台なんかも無茶苦茶にしていく。

「しかし、この世界にいたら、また封印されるかもしれない。」

「なら、他の時代に行って、身を隠すことにしよう。」

 妖怪たちは、時間と空間を歪めて、別次元に向けて飛び去って行く。


「こ、これは!? 祭りが滅茶苦茶じゃないか!?」

 そこに妖怪の封印を解いてしまった睦月が現れた。

「これは私の性だ! 私が妖怪の封印を解いてしまったばっかりに。」

 睦月は、自分の軽はずみな行動を攻めた。

「それはどういうことだ?」

 そこに睦月の父、旧暦零が現れる。 

「実は、かくかくしかじかで。」

「ほうほう。」

 睦月は、今までの経緯を父親に話す。

「バカ者ー!!!!!!!」

 父親の零の雷が睦月に落ちる。

「父上、私だって、妖怪が封印されているなんて知らなかったのですから!?」

「知らなかったで済めば、忍者はいらない! 睦月! 自分で蒔いた種は、自分で責任を取れ!」

「父上!?」

 父親の零は、睦月の不甲斐なさを攻め、自己責任を追及する。 


「睦月、おまえに改めて言っておくことがある。」

 睦月は、父親の零に呼び出された。

「旧暦家は、代々将軍に仕えし優秀な忍者の家系、でしょ。」

「その通りだ。」

 睦月は、父親から耳にタコができる位、聞かされているフレーズであった。

「おまえ1人で、108匹の妖怪を退治するのは大変だと思う。よって、おまえに11人の分身を与えよう。」

「なんと!? 本体を含めて12体で攻撃できるようになるでござるな!? これなら妖怪と戦えるかもしれない!?」」

 睦月は、11人の影分身を手に入れる。

「父上! 108匹の妖怪を封印してまいります!」

「よくぞ言った! それでこそ私の娘だ!」

 旧暦忍者の睦月と百八匹の妖怪たちとの戦いが始まったのである。

「でも、妖怪たちはどこへ?」

「妖怪たちが逃げたのは、2020年の日本国だ。次元を超えて行くがいい。」

「いざ! 未来へ!」

 睦月は、未来の日本に逃げた妖怪たちを追いかける。


「でも、父上。どうやって時間を超えていくでござるか?」

「忍法。」

「どうやって108匹の妖怪と戦うでござるか?」

「忍法。」

「おやつは、いくらまで持って行っていいでござるか?」

「忍法、300円まで。」

「私は実戦経験がないのですが?」

「忍法の才能はあるということにしておこう。」

 睦月は、自他共に認めるポンコツ忍者であった。

「困った時は全て忍法で逃げるということでござるな?」

「忍法! その通り。」

 つづく。

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