第46話 切ない別れ5

「よう、千和。」

「おお。奈良にしては早いじゃない。どうしたの?」

「俺から誘ったから早く来ただけだよ。」

「その心がけは素晴らしい。ワッハッハー!」

「いいから座れ。」

「は~い。」

 俺は今度は同じゼミの今仁千和をコーヒーショップに呼び出した。尾羽洋

と同時に彼女にも「卒業論文のテーマについて話そうぜ。」と声をかけてしまった。洋の話を聞いた後で、初めて彼女と会った。

「なんだかソワソワしてない?」

「別に。」

「そう? なにかやましいことでもあるんじゃないでしょうね?」

「例えば?」

「金持ちと学生結婚して、子供までお腹にいる、ゼミの可愛い女の子に愛の告白をする! とか。」

「ないない。」

 俺は彼女のことをカワイイとは思ってきたが、付き合うとか、女として見てこなかった気がする。ゼミの教室に彼女がいて無邪気に笑っている姿を見るのが楽しかったのは認める。

「チッ、ガッカリ。」

「え?」

「私は結構、奈良のことは好きだったのにな。」

「そうなの。」

「でも、奈良は女に興味がないのか、奥手なのか、まったく声をかけて誘ってくれなかった。私に女としての魅力が足らなかったんだね。」

「うん。」

 彼女は俺のことが好きだったらしい。もし俺が彼女に好きだと言っていれば、彼氏彼女になれたかもしれない。俺は、そんなことも初めて考える。自分に自信があるとか、ないとかではなく、そういう視点で彼女を見てこなかった。

「卒業論文のテーマは別れるなんだけど、千和の別れは何?」

「私が別れたものは、子供だった自分かな。女なんて20才になる頃には、チャラい男に遊んで捨てられて、自暴自棄の合コン三昧。もう心も体も腐ってるし、結局、貧乏な家の娘は、愛よりもお金を選びました。」

 彼女は大人の階段を登ったシンデレラのようだった。彼女を遊んで捨てたチャラい男の一人に尾羽洋も含まれる。彼女が大学入学の頃は黒髪の少女だったのが、どんどんキャバ嬢や風俗嬢の様に派手なメイクや堕落していったのが分からなくはない。彼女は男運がなかった。

「子供の名前は決めたのか?」

「まだ。奈良、名付け親になってよ。」

「いいのか?」

「いいよ。」

「そだうだな、別ればかりだと悲しいから、出会うと書いて、デアちゃんでどうだ?」

「おもしろい。キラキラネームっぽい。男女兼用できそう。ワッハッハー!」

 父親の意見もあるのだろうが、俺は仮定として彼女のお腹の中の子供の名付け親になった。これが今時の大学生の価値観であり、青春である。バブルでお金周りが良いわけでもなく、多くの若者は一日中、自宅でスマホをいじって、誰とも出会わない時代の若者の。

 つづく。

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