第42話 切ない別れ1

「さようなら。」

 人は別れるために出会う。

 それとも、出会うから別れるのか?

「また明日ね。」

 一時的に別れるが、また明日になれば会えると安堵している。

 もしかしたら会えなくなるかもしれないのに。

「バイバイ。」

 魔法の別れの言葉。人と人が別れる時の挨拶。

 人は生涯で、どれだけの別れを繰り返すのだろうか?


「おはよう。」

 俺の名前は、佐用奈良。22才の大学4年生。東京の大学に通っていた。この春、大学を卒業して、社会人になる。大学には、もうゼミの時間しか来ていない。

「おはよう。」

 大学のゼミの授業に俺はやって来た。座る席は自由なので、窓辺の席を選び座っていた。教室に後からやって来る知り合いに普通に挨拶をする。

「おまえ、もう2月なのにスーツはヤバいだろう?」

「悪かったな。みんながみんな、おまえみたいに就職が決まっていると思うなよ。」

「すまんすまん。」

 スーツ姿で、卒業前でも就職活動をしている知り合いの尾羽洋。彼とは大学で知り合った男友達である。大学の中だけの付き合いなので、それほど親しいという付き合いはない。大学になると遠くから通っている者もいるので、同じ時間にいても各個人の生活には高校までのように深い付き合いはできない。

「君たち、頑張りたまえ。ワッハッハー!」

「出たな、勝ち組。」

「永久就職する、智和が一番正しいわ。」

 ゼミの女友達の今仁千和。彼女は特に就職活動を行っていない。本当に同じ大学に通っていても、同じ授業を受けていても、生徒個人が大学の外でプライベートで何をしているのかは、謎である。彼女は大学時代に授業にもほとんど出ないで合コン三昧。お金持ちの子供を妊娠したので、できちゃった結婚する。

「おはよう、諸君。」

「おはようございます。」

 ゼミの先生が教室にやって来た。小学生だろうが、大学生であろうが、俺たちは教師が教室にやって来たら、静かに席に座るように躾けされてきた。子供が親に歯向かわないようにと同じである。逆にいえば、親や教師がいなければ、何をしてもバレなければ許される。

「ゴホン。今日は卒業論文のテーマを発表する。」

「おお! ついにきた!」

「こら、静かに。」

「それでは発表する。卒業論文のテーマは「別れ」だ。君たちは卒業して、別々の人生を歩むことだし、ちょうどよいテーマだと思う。内容は何でも良しとするので、今の自分の価値観で10万字以上を書いて、提出してもらう。」

「10万字!?」

 大学生の俺は虚しいもので、卒業論文のテーマよりも、10万字という数字の方が受けたインパクトが大きかった。


つづく。

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