第55話
夜。
元猟師が言った通り一晩ではつかない。そもそも遠いのもあるし道が悪い。冠水。穴。倒木。崩壊。
それでも二人の健脚はなかなかのスピードを維持し、砦があるという山が見えるくらいの位置まではついた。今日は道の真ん中で野宿。
といってもテントがあるわけではない。荷物になるし、そんなもの田舎じゃ手に入らない。
持ってきたのは毛布と鍋。あともらった仕出し弁当は昼に食べ切った。そして一応着替えとタオル。
風呂に入れるとは思ってなかったが、道の脇で勢いよく湧き出ていた湧き水がきれいだったので水浴びくらいはできた。
「放置されたおかげだね。こりゃ」
道の脇で水浴びをしながらドーリーはそんなことをいう。
長年放置されたせいで水の流れができ川となっており、ちょっとした水浴び場状態。というより実際水浴び場なのだろう。動物の毛らしきものも浮いている。
ドーリーは湧き水の源泉に近い場所の水で体を洗い、新しい服に着替えた。防具類は村長の家に置いてあるので、あるのは弓と剣、そして矢。とりあえず持ってきた爆弾。残りは1個だ。
防具は何に使うかわからないまま持ってきて出番はないが、爆弾は何に使うかわからないままもってきて出番があった。1対1の引き分け。
なのでまぁ無駄じゃなかったと思っておこう。
交互に焚火の管理を、という事でドリーより先に水浴びをして交代したVは、焚火の近くの鍋で何かを煮込んでいた。
良い匂いがする。
「あ、お帰りなさい」
ドーリーに気づいたVはそんなことを言った。
「良い匂いがするな」
Vが鍋に入れているのは保存が効く野菜と、村で仕入れた保管が聞く干した肉。そして調味料の四角い塊に水。
鞄に入れてきた食糧。今日と明日はこのメニューしかない。
「あの水、飲めるのか?」
近くの水組み場といえば下の湧き水。ただ動物の毛が浮いてる。
「不潔な動物が近寄っている水は飲まないほうがいい」「動物が飲めるのだから泥水すするよりは安全」という二つの知識が傭兵業界にはある。
大体この知識が生かされるときはまともな飲み水が確保できない、つまり負け戦というとき。なのでどっちの知識が正しいかはなかなか決着がつかない。
生きるか死ぬかの時に泥水すすりたくないなどというのはわがままというもの。
「魔法でチェックしましたが飲めるようですよ」
ここでもVの魔法。ただ調理関係の魔法の基礎として飲み水の判別があるので、ちょっとした心得がある剣士などもこの魔法を覚えていることがある。
「便利なもんだが、悪いな。なにか手伝おうにも料理は苦手でさ」
「こういうことのために雇われたようなものですから」
そう言ってVは大きなカップの中にスープを入れた。
口が大きなコップに取り外しができる取っ手をつけることでスープ類などの食事とコーヒなどの飲料の両方に使える、という首都のアイディア商品。
スープを飲むのには小さく、コーヒーを飲むにはでかいので大ヒットはしなかった。
だが荷物を少なくしたい冒険者や屋外作業者などに需要があったので定番商品になっている。最近は新製品として蓋付きの頑丈なものも出たが、Vが持ってるのは旧型。
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