埋伏

 ジョシュ達は大きく回り込む形でマンハッタン島に渡る唯一の橋、ジョージワシントン橋に入って来た。


 周囲の道路にはZが密集して居たため、比較的Zが少ない高架の高速を選択せざるを得ないので自然と遠回りになった。


 冷たい川の風が吹き抜ける橋の中央にはマーカス達が乗り捨てたピットブルが擱座していた。


「げっ、滅茶苦茶じゃん」


 助手席でシュテフィンが愕然と穴だらけのピットブルの車体を眺める。


「しゃぁない、教会側の猛攻に曝されながらここまでたどり着いたんだ。それも全員無事でな……」


 ホセは後部座席で寝っ転がりながらその堅牢さとタフネスに感慨深げに呟く。


「しかし、諸君、この車も同じ目に遭うかもしれん……島の建物を良く見てみろ」


 眉間に皺を寄せたマッキンタイアがビル群に顎を振る。下の道路にはZ、窓には兵士の影がチラリと動く所が無数にあった。


「Zで足止めぇの上からボコボコか……シャレにならねぇな」


 すかさずジョシュがナビで最短距離を探すがホセに止められる。


「よせ、ナビの誘導の予測を参考に一カ所に大人数配備して攻撃で誘導してくるはずだ」


「OK、それで良いんだよ」


 ジョシュはナビを起動させ、バートリー北米本社ビルまでのコースを表示する。


「さてと、皆の衆、この誘導ライン以外でヤバそうな通りってどこだと思う?」


 向こうの予測を逆手に取り、手薄な所や罠を掻い潜る作戦に出た。


「成程ね。ならばビルを挟んだ通り2本にメインの部隊を配置、一直線に近い所に降りる高速には地雷……」


 ホセがポイントを言ってる最中に次々に爆発音がしてZが爆散し始める。


 どうやら分岐に居たZがエンジン音に気が付き寄って来た所、設置してある地雷センサーに引っ掛かって起爆装置が作動したらしい。


「おやおや……そういうこった。あと分岐路、大通りやその裏手や何かは攻撃がきついと見た」


 ヤレヤレと言った顔でホセが予測を終えるとジョシュが頭を掻いて皆に告げる。


「そういうわけで全員耳塞いでくれ……地雷処理を買って出てくれたらしい」


 そう告げるとジョシュは車を後退させ擱座したピットブルを盾にする様に車を隠す。


 すると爆発音に釣られたZの群れが出入り口から高架に向けて集まって来る。


 数秒後には派手な爆発音にピットブルを揺する爆風と共に先頭のZの群れが爆散した。


 そしてそのバラバラになった部位が更なるセンサーに反応させてしまい連鎖爆発を起こし始めた。


「よし! こっちだ!」


 爆風が収まりZの群れが一斉にこちらに集まって来るが、ジョシュは車を走らせその別の分岐、川沿いを走る高速道路ヘンリーハドソンパークウェイに入る。


 分岐の先に居たZがこちらに来た事で地雷が無くなった事に気が付いたからだ。


「気を付けろ! こちら側にはビル群が隣接してないが公園からロケットか狙撃手が居るかもしれん」


「了解! って後方からお客さん来たぜ」


 バックモニター越しにZの群れを轢き潰しながら車に分乗した追撃部隊が追って来る。


「シュテ! マクミランを貸せ! それと周囲の警戒を怠るな」


 シュテフィンの返事も聞かずにホセが上部ハッチを開け、マクミランを後方に向けて構える。


(的が大きい分何とかなるか……)


 先頭の車のフロントグリルに向けて発砲するが、上に外れてしまい相手に警戒されてしまう。


くそったれぇShit!! 練習真面目にやっとくんだったぁぁ!」


 吐き捨てながら次弾を装填し次を狙うが相手はスラロームして狙いを躱し始める。


(たくよぅ……ちょろちょろ小賢しい……)


 タイミングを見計らい引き金を引く……と同時に反対車線に榴弾が着弾しジョシュがハンドルを捌いて躱す!


「こっるぁ! 射撃時に動かすでない!」


 下を向いてホセが注文を付けると何かの粉砕音が鳴り響いた。


「なんだ? って……あれ?」


 音に気が付いたホセが音のあった後方を見る。


 そこには盛大に横転した先頭の車がへしゃげていた。


「ホセの射撃を避けたのは良いがそこに榴弾の破片がタイヤに当たりバーストして横転したんだよ……流石……避けるのを予測するとは……妙技だねぇ」


 一部始終を見てたシュテフィンが真剣な表情で真面目に解説して感心する。


 それを見たホセは居たたまれない程恥ずかしかった。


「とにかく、一番適当な場所で降りるぜ」


「あ……ああ、このまま進めば高架で無くなる。足を止めるな! 走り抜け!」


 その場を誤魔化すようにホセの指示に頷くとジョシュはスピードを上げ高架を降りて一般道に入った。


 しかし、Zの群れを突っ切るたびに周囲にはZが車体に纏わり付く事でピットブルの加速スピードを削っていく……


「しがみついてろ!」


 ジョシュは後方のホセ達に声を掛けるとエンジンブレーキを掛け、車体を急速ターンをさせて弾き飛ばす。


 しかし2~3体吹き飛ぶだけで、その倍のZが車に捕まって来る!


 車体が重くなりエンジン音が低く唸り上げ始める。


「畜生! コレでもダメか!」


 さしものジョシュも重い車体コントロールに苦慮するが意外な所から助けが来た。


「撃ち方はじめぇ!」


 通りの横に陣取ったアンソニー陣営の兵士が襲撃してきた。


 車体に張り付くZが防弾まではいかないが着弾の車体への衝撃をかなり緩和させて脱落する。


「急げぇ!」


 ホセが隠し窓から反撃しながら叫ぶが、結構な人数を配置してあったので徐々にZの防護コートが剥がれて車体に直撃弾が増えて来る。


「ジョシュ! 避けろ!」


 いきなりマッキンタイアが叫び、それに反応したジョシュが咄嗟にハンドルを切る!


 その隣にあった車に何処からか発射された迫撃弾が直撃し、一回転して爆発しビルに突っ込む!


「追手か!? 迫撃砲なんぞ積みよって!」


 ホセが後方を見ると4ブロック200メートル程後方にトラックの荷台に迫撃砲を積んだ部隊が追いかけて来ていた。


 移動しながらの砲撃だけに命中率が悪いが、破片でも当ってピットブルが止まればジョシュは一巻の終わりだZに成り果てる


 しかし、まだ目的地は30ブロック1,5キロ先の35番街にあり、前にはZの群れや兵士が待ち構えている。


「さて、どう切り抜けるか……」


 周囲の地図をちらりと見るがほぼ全域危険区域と言えた。するとホセのスマホが鳴る。


「なんだよ! 今取り込み中だ!」


「お前ら何処にいる?!」


 JPの声が聞こえるがどことなく聞こえずらい。


「あ? ヘルズキッチンの隣の通りを驀進中だ!」


「見つけた。援護するから次の通りを曲がって止まれ!」


「大丈夫かよ……」


 一抹の不安を過らせながらジョシュは言われた通りに曲がって止まる。


 するとその目の前を4つの回転翼を勢いよく回転させて飛翔する黒いホバーバイクに乗ったJPとトーマスが頭上を通り越し交差点でホバリングする。


 背中にかけたM202A1を構えると追撃部隊や追いかけて来るZや防衛隊に向って連射する。


 そして反対側にむかってトーマスも連射をしてZのを始める。


「おやおや……あんたら、えらいド派手に登場した来たな……」


 こう言う派手な事を嫌う2人組を呆れるようにホセが弄る。


「フン、エディの奴が上陸後に足が無いと困るからってコイツ持ってきやがった」


「好きじゃないが意外と便利だな……」


 ツンデレなJPは兎も角、トーマスが意外に好反応なのがホセには面白かった。


「なんにせよ。ありがとさん。多少楽になったわ」


 ジョシュが礼を述べるとJP達は数ブロックさきまで掃除しながら指示を出す。


「もう少し粘れ、マーカスとエリックがセントラルパークや周辺で音響でZや護衛部隊を誘い出す。俺達も別の機体で戻って来る!」


「分かった! 何とかするぜ。ジョシュ! 突っ走れ!」


 ホセが答えると俄然やる気になったジョシュ達は通りに戻るとスピードを上げて走り出した。

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