前羽
殺気を滲ませ構えるキリチェックに対し、スタンはゆっくりと話し出した。
「なぁ、ドラガン、落ち着いて聞いてくれ。もう一度ウチに戻ってくる気はないか?」
「スタン、俺は落ち着いてるよ。スタンこそゼラルゼスごと若の配下になる気はないか?」
真顔のキリチェックにそう切り返されたスタンは微笑を浮かべながらはっきりと答えた。
「済まんな、君の御主人に俺達は銀の弾丸をありったけぶち込む。キャロルや君をこんな風にしてくれたあの外道は許せない」
「そうか、残念だよ。キャロルも喜んでくれるのに…‥」
「
そこまで言うとスタンはキリチェックに対し、極自然に接近して打撃戦を挑む。
キリチェックのありとあらゆる角度から高速で襲い来る拳や肘、膝、頭突きに肩、踵に爪先までスタンは全ていなし切って見せる。
(伊達にオーウェンの一族じゃねぇな……反応速度が異常だ)
ゼラルゼス同士、お互い乱舞するが如く攻防を繰り広げるのを目前にしてジョシュはスタンの技量と戦闘力の高さに感心する。だが、覚醒状態と通常の状態では一時的とはいえ能力差があり過ぎた。
一発の被弾が二発目となり、三発目が入りかけた瞬間に脇から危険を察知したジョシュが蹴り込んで邪魔をする。
『『邪魔をするな!!』』
二人同時に怒鳴って来るがジョシュも言い返す。
「悪いが誇り高くタイマン張るのは後にしてくんない? とっととこの
思わずハッとして目的を再確認するスタンをよそに、キリチェックは左上段蹴りでジョシュに答える。
ジョシュは呼応するように上段でガードを上げると、キリチェックの蹴りがそこから変化して中段の脇に打ち下ろすように蹴り込む。
しかし、脇を狙うのは想定済みだったので腕を即座に降ろしガードすると、空いた右膝内側に下段蹴りを入れて後退させる。
(弱点をあえて狙ったが巧い芝居だな……次はどう出る?)
駐車場で関節技を極めて破壊した膝がまだ完治してないのを確かめるべく、あえて右膝の内側を攻撃して痛がる素振りを見せたものの直感は嘘と告げる。
引き気気味に構え、力を溜めると見せかけキリチェックは車のマーティを捉えようと飛び掛かるが、そこはスタンに蹴りで邪魔され、目的に気付いたアニーが車から飛び出して
威嚇に気を取られた所にジョシュがタックルに入ると同時にスタンがキリチェックの首に腕を巻きつかせる。だがキリチェックは雄たけびと共にそれを強引に振りほどくとジョシュを両手で逆さに抱きかかえて引きはがし、顔の前に担ぎそのまま地面に叩きつける!
(やべぇ!)
手を振り下ろす瞬間に膝でキリチェックの顔をしっかり挟み、振り下ろされる勢いに合わせつつ、身体を思いっきりそらせてスピードを倍加させた後、腹筋と大腿部の筋力を使って頭から投げ飛ばす!
「おぉ! パワーボムをフランケンシュタイナーで切り返し!」
マーティが目を開いて驚く……奇しくもプロレス技だったらしい。
痛む脇を押さえながらそんな事は知らないジョシュは立ち上がり構え、頭から叩きつけられたキリチェックは怒りに震えながら対峙するように立ち上がる。
それをスタンは2人を真横で見て気が付く……
……持てるありとあらゆる技や技術を駆使して狡猾に敵に対応、湧き出すイメージと咄嗟の機転の爆発力で切り返してダメージを与える手法であり、最終的には自分の優位な技術に移行して仕留める。
(俺ではやり口がバレてるから対応されるが、ジョシュならアプローチが違うし、事前情報が無いから完全に読み切れない)
訓練や実戦で見知った
じりじりとジョシュが間合いを詰めると同時にキリチェックは構えを変える……両手を肩幅に広げ、掌を前に向けると右足を猫足に立てて蹴りに備える。……オーウェンの前羽の構えを出してきた。
(そう来たか、確かに何をしてくるか解らない相手ならカウンター狙った方が良い。しかし何処で見たんだ。この
スタンはその構えを見て驚いた。キリチェックの打撃スキルはマーシャルアーツ主体で空手ではないからだ。実はキリチェックのスカウト時にオーウェンが使ったなどと知る由もなかったが……
そして、この前羽の構えの使い手は大概、独自で色々工夫をしている。
両手の回し受けをメインに両足はどっしりと構えるタイプや前後に足を開き機動性を持たせたもの等、使い手によって様々に変わる。特にオーウェンの構えは防御と攻撃も兼ねたものだ。不用意に踏み込めば攻撃を避けられた挙句、必殺の蹴りや手刀が襲って来る。ジョシュが何度やっても攻めあぐねたオーウェン得意の難攻不落の構えだった。
しかし、ジョシュはにじり寄っていく……そして間合いに入る。
その途端、キリチェックは牽制の前蹴りを放ち、それをジョシュは手で受けてさらに踏み込んでいく。同じ前羽の構えでもキリチェックはオーウェンには遠く及ばない。簡単に間合いを詰められてキリチェックはイラついて牽制がてらの囮で右のストレートを放つ。
キリチェックはジョシュの今までの
右手で襟を掴んだ瞬間、ジョシュがキリチェックの襟をいきなり掴むと飛び上がり両膝を畳み、そのまま後方に倒れ込んだ。
(何?! 巴投げ? 違う!)
キリチェックは投げを意識しそのままマウントで仕留める為、完全な前屈姿勢にならずに途中で止めるが、それがジョシュの狙いだった。
引き込むようにしてキリチェックの鳩尾に突き立てた膝をぶち込んで息を止める、そして戻ろうとして背を起こした時、屈めた両足を揃えて胸板に倒立するように下から雄叫びを上げてぶち抜くように蹴り上げ、その勢いで作動した筋力補助モーターが唸りを上げて筋力を倍加させ常人を超越する破壊力を生み出す!
「ドゥルァァァァァァッ!」
丁度、リフトが地上に着く瞬間、地上のガレージ前で待機していたホセとリカルドの前でキリチェックは天井に背中を激しく打ち付けられ、そして床に叩きつけられる。
咳きこみながらのたうち回っていたキリチェックだったが、落ち着いて何とか立ち上がろうとする。そこにリカルドがスゥっとその背後に立つとテーザーガンを構えて引き金を引いた。
「う、うぐっ」
呻いて気絶するキリチェックを厳重に拘束し抱きかかえると溜息交じりでリカルドは呟いた。
「お疲れ様 友よ。また会えてうれしいよ」
ジョシュはスタンに支えて貰い、脇を押さえながら立ち上がるとホセが詰まらなさそうに声を掛ける。
「ジョシュよぃ、ぶっ飛ばすんなら俺の前でやってくれよ……美味しい所を見逃したじゃねぇか」
「そら、おっさん、一番弱い
「ハッ、言うねぇ……取り敢えず
破顔した髭面のホセが親指立てるとジョシュも親指で返した。
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