奪還
聞き覚えのある声にマーティは驚き、飛び起きて声の主を見る。
そこには捕まった日に逃げようとして蹴り飛ばしたクソ所長が口枷をされた姿で銀色に光る銃を頭に突き付けられていた。
「マァァティ!」
叫び声と同時に視界の横からアニーが涙目で自分に向かって飛んできた!
「ね……姉さん?!」
アニーが銃を持ちつつ抱きしめるとマーティの眼に活気と希望が戻り、同時に涙が溢れる。もう諦めかけた瞬間に助けが来たのだから……
姉弟の抱擁の横を無表情のアンナがツカツカと音を足音を鳴らしてソフィアにナイフを突きつける兵士に近寄る。
そしてナイフを持つ手首を無造作に指を立てて掴むと握られた手首の中を通る
「ぎゃっ!」
痛みと痺れに耐え兼ね兵士は汚いナイフを落とし、抱きかかえる力を
「
怒りの罵声は最後まで言えなかった。
激怒したアンナの前蹴りがノーガードの股間にもろに
「アタシの依頼人にくっさい身体をなすりつけんじゃない」
冷酷に見下すとアンナは銃を片手にソフィアをエスコートする。アニーもよたつくマーティを支えて後ろに下がる。
「良し、ザックから結束バンドで背中合わせに拘束してやれ」
ジェイクを空いた採血台に押し倒すとジョシュはシュテフィンと共に研究スタッフを2人ずつ背中合わせに両腕を拘束し倒す。
「そんじゃ、助け呼ばれる前に……」
採血マシンの採血量ゲージを最大にしたジョシュは採血針を手に首を振るジェイクに詰め寄る
「うがー、もがー」
「え? やめろって? うちの弟分に
そう言うと拘束ベルトで縛り付け頸動脈に採血針を射し込み、スイッチを入れる
「少しは人の痛みが分かる研究者になれや……いつか自分がモルモットだぜ?」
「もがぁぁぁ」
そう言い置いてジョシュは勢いよく採血されるジェイクの恨みの籠った呻きを背に研究エリアから出てくる
通路にはアニーとソフィアに両脇で支えられたマーティに周囲を警戒するシュテフィンとジュリア、アンナが居た。
「そんじゃ、アンナ撤退よろしくねぃ」
ジョシュは1つ任務が片が付いた事で少しホッとして軽口が出た。
「あの……ちょっと待って! アタシのママがここに居るの!」」
「はぁ?」
シュテフィンがここで何を言いだすのかとソフィアを見る。
「そか、先程言ってた採血エリアねぇ……覗いてみるか……」
ジェイクの言ってた事を思い出しジョシュはついでに寄っていくことを決めた。
採血エリアに入ると無数のガラスの棺型ケースが空で置かれており、その真向いに呼吸や栄養チューブ、バイタルサインセンサーのコードを鼻と口に着けられ、特殊ビニールで標本の如く壁に張り付けにされて眠る全裸の女や子供達の姿を見る。
「惨いな……」
人としての扱いではないその所業に沸々と怒りの感情がジョシュに湧きあがる。その時、警報音が鳴り響き、慌ててジョシュ達は壁の裏に隠れる。
何事もなかったような沈黙の後、別の部屋で人の断末魔らしき叫びがこだまし、しばらくして
廊下を歩く足音が聞こえる。一度、エリアの前に立ち止まるとそのまま歩いて下の階層に向かった。
耳を研ぎ澄ませ、足音が階段を降りる音が聞こえるとジョシュは合図して通路を覗く。
誰も居ないのを確認し、後ろに合図をしようとして助けを求める叫び声を聞く!
銃を構え叫び声の元を探すと先程の採血エリアであった。
室内を覗くと両面に折り重なった研究スタッフ達がカプセルベッドの下や機材の後ろで頭や喉を捥ぎり取られて事切れており、アンナにKOされた兵士も頸を捻られて死んでいた。
「「だぁずけぇぇぇぇ!」」
検査着を着た女が口枷を力ずくで外されて口が血まみれのジェイクの首をか細くどす黒い血管が浮き出た腕一本で持ち上げていた。
(んだ、こいつは?)
騒動が大きくなって兵士が来たら逃げきれんと判断し、その場を立ち去ろうと踵を返す。
その後ろで風切り音と共にジェイクが飛んで壁に激突し、鈍い音と共に気絶する。
慌ててジョシュは銃を構えながら後方へ飛んで間合いを取り、その後ろでシュテフィン達も銃を構えて様子を伺う。
検査着の女は全身痙攣し錆びついたロボットの様にギクシャクと右足を引きながらジェイクに向かう。
ジョシュは女を無視することに決め、後ろに合図して下がらせる。そこに後方の非常階段のドアが開きライフルを構えたリカルドが飛びだして来る。
「おいおいおい! まだ油売ってたんか? とっととバックレるぞ! ん?」
リカルドがジョシュ達を急かしながらもその女に気が付き、その声を聴いた女も身動きを止める。
「キャロルか?」
「り、り、カルド……」
戦友の声を聴き、呂律が回らず震える声でキャロルは顔を向けた。
地味目だが可愛げのある瞳は右側のみ虹彩、瞳孔、白い部分である強膜さえ真っ赤に染まり、その右側のみ赤く爛れてズクズクに垂れ下がっていた。それを戦友から隠そうとして右手を上げるがそれも痙攣し上手く隠せないどころかバランスを崩し転倒しかかる。
「うぉっとぉ!」
近くに居たジョシュが咄嗟に前に飛び出して倒れるキャロルを辛うじて支える。
「おい、リカルド! ジョシュ達は……どうした?」
そこにライフルを手にスタンがドアから転がり出て来て、女がキャロルだとわかると前に居たアニーやシュテフィンを掻き分け、リカルドと共にかつての戦友の傍らに膝をつく
ジョシュはポケットから愛用のバンダナを取り出して、自分で何とか隠そうとしているキャロルの顔に隠すようにかけてやる。
「ありがとぉ……」
少し落ち着いた声でキャロルは礼を告げる。
「キャロル、大丈夫か? 何があった?」
「あれからドラガンと
スタンは優しく、心に沸き出で続ける後悔と憤怒を隠すように尋ねるとキャロルは虫の息になりながらもあの後起こった事を話し出した。
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