潜入

 ジョシュ達が静かに橋の上まで来ると踵を返し足底のローラーを高速回転させてその場から急速に遠ざかる


「な、何アレ!」


 迎えに来たトラックに飛び乗ったジョナ達を見送った後、ジョシュ達の装備の特殊なギミックに目を丸くしてアニーとジュリアはライフルから顔を離して呆然とするすると下の運転席からドヤ顔のホセが説明する


「ああ、エメ達装備開発部と保安部、俺らJP隊、ジョシュ達の血と涙の結晶って奴さ。ジョシュ達に俺ら特務部隊の想定を超えるの戦闘能力と移動能力を装備に付け加える事で任務遂行能力と生還率を上げるためのものだよ……おかげでエディやジョシュ達が何度も誤作動で死に掛けて、保安部と装備課の連中が過労死寸前まで追い込んで完成した最高傑作だそうだ」


 運転席でその過程をニヤニヤしながら思い出したホセは最初はこんな玩具と思っていたが、調整や実戦を見て中々の性能と面白ギミックは一度マーカス辺りに付けさせて模擬戦闘や組手をやったら面白そうだと思った


 そしてジョシュ達の後方で機関銃の軽快なタイプ音みたいな発射音が聞こえると勢いよくバイク、カワサキKLX250が3台が飛び跳ねるように橋に踊り出てくるとまたその後方より米軍の払い下げと思われる軽攻撃車両、LSVのバギーが橋に侵入してくる


「チィ、一気に橋の真ん中まで侵攻するつもりかよ! シュテぇ! 後方に切り替えるぞ」


 ジョシュやシュテフィンはジャンプして身体を入れ替えると同時に後方移動回転に切り替え、攻撃をしながら後退する


「はえー、器用なもんねぇ……さてと、ジュリア、観測員お願いします」


「了解よ……1キロ先、右に風速3」


 アニーは感心しながらもバレットを構えなおすと隣でジュリアが双眼鏡で距離と風を測り告げる。


 ジョシュ達に迫るバイク集団の後ろのバギーに狙いを定める。M249軽機関銃を後ろに吊り下げたそれはジョシュ達や自分達の脅威になると判断したからだ


 回避運動を取るジョシュ達の合間のタイミングを計ると引き金を絞る


 放たれた銃弾はジョシュ達の間を抜け、バイクの兵士をかすめながらバギーの中央部のエンジンをぶち抜きその場でスピンしてガードを突き破り河へ勢いよく落ちていく


 それを見たバイク兵士に動揺が走る! 


 その隙をジョシュとシュテフィンが薙ぎ払うようにライフルを連射してバイク部隊を倒すと待っていたピットブルに飛び乗る


 上部ハッチからアニー達が入り、ハッチを閉めるとホセに告げる


「おっさん! クリア!」


「捕まれッ!」


 ホセの指示が飛ぶと同時にピットブルが急発進して橋を進んでいくと先についていたジョナ達が橋の出口で手を振る


「お疲れぃ、いやー、大助かりだよ。本当にありがとう!」


 ジョナが運転席のホセに握手を求める


「いやいや、俺は運転しただけで仕事したのはあんちゃんズさね」


「おぉ、そうか! 市民を代表して感謝する! ありがとなー」


 後ろのジョシュ達に声を掛ける


「いやいや、うちの女性陣を助けてもらった礼を返せて嬉しいぜ」


「とりあえず、避難民の事もあるからメモリアルホールに行こう」


 ジョナ達にともなわれる形でメモリアルホールに向かう。


 避難民のバスや車の集団に混ざったおかげでそんなに目立たずに街中を移動し、メモリアルホールに近くのフラッシング・メドウズ・コロナ公園に移動してオートキャンプ場状態の所の目立たない場所に止めるとメモリアルホールにジョナ達と一緒に向かう


 外でJPとスタン達、ゼラルゼスや警邏隊の隊員たちが座りこんでいた


「隊長!」


 警邏隊隊員達がジョナ達を見つけて立ち上がり集まって来る


「避難は無事済んだが、今度は避難所生活の維持だ……なるだけ見回りと意見を汲み上げて避難民を守り、より良い生活にするべく陳情するぞ」


「「おう」」


 隊員達が声を上げると建物からマルティネスが2人の男と少年を連れて出てきた。マルティネスを先頭に人事担当コンロイとボルトン、見習いの少年、トッド・キーンを連れ添って出てきた


「ジョーナー! 避難は無事終わった?」


 調子よくご機嫌なノリでマルティネスが尋ねてくる


「ああ、皆の協力で何とかな……」


 そのノリが気に障ったらしくムッとした顔で尋ねる


「それは良かった。それでは次のフェイズに移行しよう。スタッテンの区長と話をして今後の事を話ししたいんだ。こちらはこの3人が担当する。コンロイとボルトン、見習いのキーンだよろしく頼む。そうだ話したいこともあるから俺の車で行こう」


 一方的に早口で話すとジョナを連れて歩き出す。するとトッドが何かを見つけて先を行く4人に声をかけ離れると一目散にホセのもとに駆け寄る


「ホセさぁん! 指示通り面接して仕事貰いましたよ! メールしても連絡来ないから凹みましたよ」


 息を切らせつつホセを見つけて挨拶をする


「おお、トッド坊わりぃな戦闘中だったからな……じゃぁトッド、稽古つけてやるから後で難民キャンプ来い」


「分かりました! ありがとうございます! では失礼します」


 頭をキチンと下げて感謝すると前を行く4人に追いつくべく駆け足で走って行く


「良い子だねぇ、幾つだい?」


 それを見たシュテフィンが尋ねる


「14歳だ。働き手の母親を助けながら兄弟の面倒を見てるそうだ。……役所は給料も福利厚生も恵まれてるからな……うん、良かったぜ」


 あの後、トッドの素性を調べて中々の苦労人だとわかり、うちで面倒を見るとマルティネスから聞いて少しホッとしたのは秘密だった


「しかし、あのコンロイとボルトンって奴、笑顔が引き攣ってたぜ?」


「ああ、多分、今から聞かれたくないことをジョナに話すんだろ……」


 仏頂面でホセは葉巻を咥えて去っていく車を見送った……


――――――――――――――――――――――――――


「実はな……ジョナ、言いにくい事があるんだ」


 その車内ではホセの推察通り、マルティネスが打って変わって申し訳なさげな顔で話を切り出した


「なんだよ、その話って」


「アンソニーの野郎、緊急事態宣言して物資を配給制にした。おかげでそちらに十二分な食料と物資が回らん」


 ストレートに言ったマルティネスの顔には怒りに満ちていた。


「なるほど、そう来たか……それを部下に気取られんようにしてたわけか」


「ああ、それにだ、それを中央執政庁ウチにやらせて市民の不満の矛先と反乱分子を一挙に処理しようと目論んでいるらしくてね。対抗策として先に各方面での事態宣言の内幕暴露と資源の集積地の襲撃と強奪を計画するつもりだ」


「それうちの連中に?」


 ジョナはまたエライ事になったと呆れた顔で尋ねる。ただでさえ個人的に反乱分子を助けたり、匿ったりして上司から疎まれてるが、部下まで巻き込むわけには行かなかった


「いや、それはホセ達に頼もうと思ってる。お前さん達にはその資源を隠して保管してもらうだけだ……ここの市民と避難民の為に」


「う……それで区長か……」


「両行政のトップと大番頭俺達が手をくみゃ市民生活は何とかなる」


「しかし、此処もいずれは危ない」


 遠くで聞こえる戦闘での爆発音を聞きながらジョナはマルティネスの言動に反論していく


「ボストンに居るウチのボスがランバート教授に働きかけてくれれば避難船と援軍を出してくれるはずだ……いや、あの人の事だ。既に働きかけているだろうな」


 ” 状況とその先を読んで施策や提案を俺にして来い ”


 そう怒鳴られながらも仕込まれた事はエリクソン・ブースの部下ならしっかりと刻み込まれていた。ボスのやり方を熟知し、先に2手打つぐらいやってのけて罵声が飛んでこないの当たり前だった


 そして公園内のニューヨーク州パビリオン展望塔、避難民管理局の仮住まいになっている建物まで来ると例の黒づくめの男達の映画で出てきたモニュメント・ユニススフィアが一行を出迎えた


「さて、問題は区長が側の人間か? って事だ」


 そうため息交じりにシーマから降りてマルティネスはボヤいて建物に向かって歩き出した

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